59羽 「管轄なの?」①
僕といったら、なにかやるべきことは、初生雛鑑別師として弟子たちに教えることだけだ。キャラヤが会談に僕を招じ入れたのは、きっと立場をわからせるためだと思う。
ブロムは一時帰国した。産み月間近の奥さんのこともあるけれど、キャラヤが述べたのははっきりとした戦争の意志だ。伝言で済ませていい内容ではないし、かつ、テルク=ファルは会談にブロムを送り込むことではっきりと巻き込まれること……ヴェルク=シーヴィを支持することを示しているんだから。
僕は……タルクとは近しい友人で、ダンさんを連れ帰って来た張本人で。でも、それだけで。
渦中の人間なのに、まるで蚊帳の外みたいな。
でもそれで、少しほっとしている自分を、感じてもいる。
イムロは、会談を終えた後の僕たちに感じ取るものがあったんだろう。いつも通り冗談や軽口で盛り上げてはくれるけれど、僕らの様子を伺っている。
彼も、彼らも……無関係ではいられない。むしろ、きっと、最前線へ――
「ヨータさん、ヨータさん!」
揺さぶられてはっとした。なんだか無心になりたくて、家の厨房で豆の皮むきをしていたところだった。手元に豆がない。僕はなにをしていたんだろう。
「……ちょっとおかしいっすよ。いろいろあるのかもしんないっすけど。……なんか、気分転換しませんか」
イムロの気遣いに、僕は「そうだね」と口元で言った。それを聞いたと同時に、イムロは僕を厨房から連れ出して、外へ。どこへ行くのかと思えば、レイパスのところ。
今日も今日とて、レイパスはとっても元気だった。僕たちを見たら短い翼をばっさばっさとして、きゅぁあーーー! とあいさつしてくれる。イムロは「こいつら、走らせて来ましょうよ。本格的に雪が積もる前に、おもいっきり」と言った。そうだね。ヴェルンシーヴァでの真冬って、どれくらい寒いのかわからないし、今のうちかもしれない。僕はうなずいて「そうだね、そうしよう」と承諾した。ヴェルンシーヴァから、西へ、西へ。テルク=ファルとは反対の方向。僕は初めての平地。
一面うっすらと地面に雪化粧がされている中、レイパスたちは我先にと、足跡をつけようとしている子どもみたいにはしゃぎまわった。好きに走っていいよって言ったからでもあるけれど。乗っているだけで一苦労だけど、たしかに余計なことを考えずに済んで、気分転換にはもってこいだった。
しばらく走って。レイパスたちの気が済んで、餌をねだり始めたあたりで、一度降りた。いちおう裸鶏は丸々2羽持ってきている。おやつくらいにはなるだろ。
ヴェルンシーヴァの近郊に小さい湖があるんだけれど、ちょっと歩いたらその湖畔に出た。レイパスのテンションが上がって、ちょっとだけ氷の張った湖へ突撃して、足が濡れたからテンション下がって戻ってきた。わかりやすくてかわいいよ。
「ねえ、イムロが所属している翼騎兵隊の部隊って、ここらへん管轄なの?」
「おっ、よくわかりましたね」
「前に、霜翼卿へ西って言ってた気がするから」
イムロはちょっと考えて、それから「西って言っても、北西部と南西部に分かれていまして。俺は、南西部の所属です。西ハルナシーヴがある」と言った。
「それって、たしかヴェルミトゥラとか越えたところにある?」
「そうです。ヴェルク=ライナへ行き来するときに踏破した山の、西側ってことっすね」
そちらには行ったことがない。かなり前にタルクから見せてもらった地図を脳内に思い描いて、僕は「そこの西側って、海じゃない? なんで国境警備のハルナシーヴがあるの?」と尋ねる。イムロは「まあ、そういうことっすよ」と言った。
「海から、攻めて来る可能性とか、実際そういう襲撃とか、皆無ではなかったってことです」
「……ヴェルク=ライナから?」
「はい」
なんとなく、ハル古典の内容を調べた関係でヴェルク=シーヴィの歴史や成り立ちについても知ったけれども。
今、キャラヤが十数年に渡って、直接の戦争を止めている事実は、近代史において奇跡といえるかもしれないことだ、と思う。本当に、ヴェルク=シーヴィは建国のときからずっと、ヴェルク=ライナと争っている。それがもう、当然と言えそうなくらいに。
ヴェルク=シーヴィが、まだそれほど国力もない時代から、他国と遜色なくやりあえたのは――たぶん、いつの時代にもキャラヤみたいなやり手の先導者がいたからだ。
キャラヤは、そんな中で戦争を留めるのが「おもしろかった」んだろう。
でも、今、父祖たちが成し得なかったこと……ヴェルク=ライナを完全に下して、終わりのない戦争を終わらせるための、戦争をしようとしている。
僕は、考えている。
なにか、他に方法がないだろうかって。ずっと。
それか……少しでも、だれにとっても、痛みの少ない、選択肢を。






