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飛ばない僕と、空を行く君と  作者: つこさん。
第三章 ヴェルク=ライナ

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58羽 「いかがですか?」②

 タルクはその日の内に帰って来て、夕食のメンツがよくわからない顔ぶれになった。ブロムはダンさんに興味津々で、でもこのタイミングで機密事項をうっかり聞いちゃったら立場的にまずいもんだから、すごく当たり障りのない質問を繰り出していた。数日後の、キャラヤとの面会もそのメンバーで。イムロはさすがに「俺はガチでお呼びじゃないと思うんで」とすごくていねいに辞退したけど。


「よく来てくれた。楽にしたまえ」


 ナチュラル上位者ムーブでキャラヤが言った。こういうのめちゃくちゃ似合うと思う。あんまり楽にできない円卓の会議室だったけれど。気配のない男性がすっと全員にお茶を配っていく。


「さて、懐かしい顔から見飽きた顔、初めましてまで、なかなかおもしろい会談だ。私はケルハ・ヴェイク。ヴェルク=シーヴィにおいて首魁を務めている」


 首魁言っちゃったよ、この人。いいのかそれ。あ、でも、ヴェルク=ライナ側から見たらそういうことになる……のか?


「儀礼的な手順は省かせてもらう。が、それぞれの立場を明らかにしておくために自己紹介はしておこうか。では、ヨータ」


 え、なんでそこ僕に振るの。まあいいけど。僕は「ヨータ・コガです。ヴェルク=シーヴィで鑑別師(トゥンニスタヤ)をやっています。もうすぐ28歳です」と言った。続いてタルクが真似っこして「タルク・エルシ。ヴェルク=シーヴィで公翼をしている。もうすぐ25」と言った。ブロムが笑いを噛み殺している。


「ブロム・ルクヴォテルです。テルク=ファルで外務卿を拝命しております。もうすぐ32歳になり……父親にもなります」

「えっ、おめでとう、おめでとう!」

「ありがとうございます!」

「そうか。祝いにあとでテルク=ファルへの土産を用意しよう」


 ちょっと湧き上がった後、みんなの視線がダンさんへ向かった。ダンさんは静かな表情で「捨てた名は、ハゴン・アジェンデ。ダンと呼ばれている。39になる。2年前までヴェルク=ライナ王の近衛隊長だった」と述べた。キャラヤは笑ってない目の笑顔で「初めまして、ダン。ヴェルク=シーヴィへようこそ」と言った。


「ちなみに私は44になる。長く座ると腰へくるようになった。なので、手短に終わらせるぞ」


 話される内容って、まあダンさんが持っているヴェルク=ライナの機密に関してなんだろうけれど、それってブロムが同席していいんだろうか。いいってことになったからいるんだろうけどさ。……それって、めっちゃ大事になるってこと、じゃないかな。


「ダン。私は君の持つ情報すべてが欲しい。これが意味するところを、理解できるか」

「……ヴェルク=ライナの現王を、下すのですね」


 キャラヤがぜんぜん笑ってない顔で口元だけにっと笑った。僕は思わず、本当に思わず、小声で「うっそぉ……」とつぶやいてしまった。

 めっちゃ大事だった。めちゃくちゃ大事だった。びっくりした。うわあ、まじか。これは首魁だ、キャラヤめっちゃ首魁だ。


「君は知っているだろうか。ヴェルク=ライナとの国境沿いの街ホヴァルクには、賤当民の流入者が少なからず居ることを」

「……話には聞いております」

「君が問題なくこちらに来られたのも、そうした背景からだ。しかし、既にヴェルク=ライナ国内で、君の捜索が始まっている」


 それはそう。どう考えてもダンさんは手離していい人じゃない。だから目の行き届く遊覧船に乗せていたんだろうし。きっと王様は生きた心地がしないだろうな。元自分の近衛隊長とか。


「なので、今のうちに動いておきたくてね。出せるものはなにか、教えてほしい」

「有事の際の現国王の退路、王城の防衛網と配置人員、鼻薬で動くと思われる人間、どれでも」

「わかった。後ほど聞き取りをさせよう」


 よかった。今話されたらどうしようと思った。逃げようかと思った。なんかものすごく、ものすごい場に立ち合ってしまっている。どうしよう。さすがに想定していなかった。でも、ダンさんを連れて帰って来てしまった時点で、こういうことも考えておくべきだったのかな。そうかもな。


「ダン。もう知っていることと思うが、こちらはタルクだ」

「はい。……話しました。多くのことを」


 ダンさんはタルクを見た。タルクは、ダンさんを見た後になぜか僕を見た。キャラヤは言う。


「公式には宣言していないが、知る者は知っている。タルクはヴェルク=ライナの正統な王位継承権を持つ者だ。私は彼を旗印に、ヴェルク=ライナの現王とその体制を終わらせようと思う。冷戦の舵取りもおもしろかったが、君が来てくれたのでね。全面的な協力を求める。ダン」


 僕は、キャラヤを見た。

 そして、タルクを見た。

 僕と目が合ったタルクは、うつむいてテーブルの上をみつめた。

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