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第59話 処刑エンド令嬢、八ツ橋だけは手離さない

 バンド解散の危機を乗り越え、オリジナル曲制作という新たな目標に向けて再び歩き出した「処刑エンド令嬢s(レディース)」。


 しかし――


「作曲、作曲……」


 いざ作曲を始めようと自室の机に向かうが、何も浮かばない。


 そもそも、メロディはどこから生まれるのか。

 歌詞と旋律は、どちらが先なのか。


 ノートは開かれたまま、ペンは止まり、肩に下げたギターも沈黙したままだ。


 熱意だけでは、音楽は形にならない。


「ん~~~ッ! 分かりませんわ!!」


 焦りばかりが募り、結局何ひとつ進捗のないまま一日を終えるのだった。


 そして、次の日の放課後――


 伊勢崎八幡神社いせさきはちまんじんじゃのスタジオにて、中央付近に置かれた椅子に、なぜかセツナが座らされていた。


 その周囲を、(こま)、ジャンヌ、シャルロットが取り囲み、そして――ジェーンが腕を組んで立っていた。


「という訳で、今日は偉大な先達に作曲についてご教授いただくことにしましたわ」


 堂々たる宣言。


 三人がぱちぱちと拍手を送る。


 突然呼び出されたセツナは、状況を理解した瞬間、深いため息をついた。


「ようやくいつもの調子を取り戻したかと思うたら……いきなりやなぁ」


 眉を下げながらも、どこか楽しげでもある。


「もちろん、タダでとは申しませんわ」


 ジェーンが目配せをする。


 三人はこくりとうなずき、すぐに動き出した。


 最初に現れたのはシャルロットだ。


「コーヒーをお持ちしました」


 淹れたての湯気が立ちのぼるカップを差し出す。芳醇な香りがスタジオに広がる。


「おおきに……」


 受け取り、一口含む。


 その瞬間、目が丸くなる。


「ん! 覚子ちゃん、コーヒー淹れんの上手(うま)なったなぁ」


 絶妙な苦味とコクに、思わず感嘆の声が漏れる。


 続いてジャンヌが前へ。


「八ツ橋もご用意しました」


 皿に乗せられた京都銘菓を差し出す。


「おおきに。ウチの好物やわぁ」


 完全に警戒心を解いたセツナは、目を輝かせながらひとつ口に含む。


「これ、聖護院(しょうごいん)八ツ橋やな。こういうオーソドックスなの、好きなんやわぁ」


 頬に手を当て、至福の表情を浮かべる。


 さらに(こま)が背後に回る。


「いつもお仕事お疲れ様です。肩をお揉みしますね」


 優しく肩をほぐす。


「おおきに……あふぅ!」


 全身から力が抜け、極楽気分といった様子だ。


(よし! 今がチャンスですわ!)


 ジェーンの目が光る。


「それでは、セツナさん!」


 一歩前へ出て仁王立ち。


「ちゃちゃっと簡単に作曲が出来るコツを教えてくださいまし!」


 満面の笑みでねだる。


 ――ブチッ。


 セツナはこめかみに大きな青スジを立てると、


「アホかぁぁぁ! そないな都合の良いもんがあったら、ウチかて知りたいわッ!!」


 椅子が倒れそうな勢いで立ち上がる。


「ひいぃぃぃぃッ!!」


 四人は思わず腰砕けになり、その場に座り込む。


 セツナは好物の八ツ橋を手離すことなく、怒涛の勢いで続けた。


「作曲に限らず、何かを生み出すまでにはいろんな苦しみや障壁がある。それを乗り越えんで、楽して栄光を手にしよなんて考え、この生八ツ橋より甘いでっ!」


 甘い八ツ橋を掲げながら力説する姿は、妙ちくりんでありながらも不思議な説得力があった。


 ぐうの音も出ない正論を前に、四人はしゅんと縮こまる。


「どうにもならんで焦る気持ちもよう分かる」


 すると、今度は一転して口調を和らげ、


「そやけどな、こら理屈でどないこない出来る問題とちがう。焦らんと、普通に日々を過ごす中でふとした瞬間に降りてくるのを待つんや。それしかあらへん」


 視線を一人ずつに向けながら、諭すような声音で告げる。


 四人はこくりとうなずく。


「『Medium(ミディアム)』は、どなたが作曲を担当しているのですか?」


 (こま)が訊ねる。


「ウチらはな、誰が担当とか決めてへんのや。それぞれが作った曲を持ち寄って、みんなでアレンジしていくんやで」


 肩をすくめる。


「『Medium(ミディアム)』のみなさんは、才能豊かなんですね」


 ジャンヌが感心すると、


「それは、キミらも変わらへんで」


 セツナは四人を見回して言う。


「アタシたちが?」


 シャルロットが首をかしげる。


「せや。ウチらかて最初から出来たワケやない。ただな、音楽が好きで、一緒にバンドをやり続けてきただけや。その結果、いつの間にか形になっとったんや」


 その言葉には、積み重ねてきた時間の重みがあった。


「バンドをやり続けた結果……」


 四人は静かにその意味を噛みしめる。


 時間は限られている。


 それでも――続けるしかない。


 するとセツナは、大きく口元を緩め、


「でもまあ、いろいろ良くしてもろうたし、ヒントくらいは教えてやってもええかな」


 実にイタズラっぽい口調で言うのだった。



 処刑エンド令嬢s(レディース)――

 焦りの中で近道を求めながらも、本当の一歩を踏み出す覚悟を学び始めた瞬間だった。


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