↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異端を狩る者の詩は誰も歌わない  作者: 大嶋コウジ
ワールド弐の七:シェラ編:エルフの学校
218/219

イージーモード vs ハードモード

 レイラとシェラは挨拶を終えると、教室の後方に並ぶ空席へ腰を下ろした。ほどなくして一時間目の始まりを告げる声が響き、レイラは慌てて鞄を開き、教科書とノートを探す。

 すると中には、その日の授業に合わせた教科書とノートがきちんと揃えて入れられていた。どれも真新しく、使う者を待っていたかのように整っている。


(あぁ、あのメイド……じゃなかった、聖樹侍女さんたちが用意してくれたんだ。やさしくてちょっと感動……うぅぅ)


 至れり尽くせりな待遇にレイラは感動しながら授業に臨んだ。


(この厚意に報いるためにも、せめて勉強は頑張らないとっ!エルフ族の知識を身につけるぞっ!)


 そう意気込みながら、レイラは教壇の横に掲げられた時間割へ視線を向ける。


(一時間目とか二時間目とかあるのは、魔導学校も、ここへ来る前の学校も同じか……。こういう仕組みって、どこでも同じだったりするのかな。……あれ、授業は三時間目までしかない?まぁいいか。一時間目は、国語ね)


 授業の準備をしようと、周囲の生徒たちが手にしているものを横目で確かめながら、レイラも同じ教科書を鞄から取り出して開いた。表紙も本文も、教科書とは思えないほど美しく装飾されている。


(これかな?おぉ、綺麗な教科書だ~っ!なんか嬉しいっ!)


 しかし、国語の教科書をぱらぱらとめくっていくうちに、レイラはすぐさま強い違和感を覚えた。


(……お、おんやぁ?えぇ?ほ、本当にこれ?)


 文字は共通語なので問題なく読める。だが、まず目についたのは、一文字一文字がやけに大きいことだった。しかも頁ごとに色鮮やかな挿絵が添えられていて、どう見ても立派な教科書というより、丁寧につくられた絵本に近い。


 思わずレイラは、鞄を用意してくれた聖樹侍女たちの顔を脳裏に思い浮かべた。


(もしかして聖樹侍女さん、教科書を間違えた……?)


 けれど、こっそり周囲を見回してみれば、他の生徒たちが開いているのもまったく同じ本だった。どうやら誰かの手違いというわけではないらしい。


(う、うそでしょ?みんな私と同じくらいの歳に見えるのに……。あ、あぁ、そうか。エルフだから見た目と年齢が違うのかも。実はみんな、幼稚園児くらいだったりして……。

 ……い、いやいや、じゃあシェラは? あいつはどう見ても私と同じくらいでしょ?)


 慌てて横を見ると、シェラもまた教科書を眺めたまま、露骨に眉をひそめていた。目が合うと、彼女は呆れたように小さく首を横に振る。


(あ、やっぱり。シェラも同じこと思ってるんだ)


 次の授業は算数だったが、こちらも拍子抜けするほど初歩的な内容だった。三時間目の歴史も、ハマルにまつわる逸話がいくつか語られただけで、深みも広がりもない。


 転校初日だというのに、胸を躍らせるような発見はひとつもなかった。


(なんだこれは~~っ!!)


 期待していたぶんだけ落差は大きく、レイラは頭を抱えながら心の中で絶叫した。


----- * ----- * -----


 三時間目が終わって昼休みになると、レイラは教室の女生徒たちにたちまち取り囲まれた。


「レイラ様っ!ご一緒にお食事でもいかがでしょうか?」

「ぜひ、ご一緒にっ!」

「魔導学校のお話も、ぜひお聞かせくださいませっ!」


 一斉に身を乗り出してくる勢いに、レイラは思わずたじろいだ。


(こ、この子たち、コミュ力高いなぁ~……)


 だが、それより先にシェラへ問いたださなければならないことがある。


「も、申し訳ございませんわ。初日は何かと立て込んでおりますので……。お、おほほ……」


 口をついて出たのは、なぜか妙に板につかないお嬢様口調だった。自分で言っておきながらなんでこんな口調なのかと思った。


「あら、残念ですわ……」

「レイラさんともっとお話ししたかったのに……」

「そうですわね、魔導学校のことも伺いたかったですのに……」


「お、おほほ……、また、明日にでもぉ。ちょっと、シェラッ!こっち来てっ!!」


「な、なんだ……」


 レイラはシェラを呼びつけると、そのまま足早に教室を出た。唯一の男子生徒を名指しで連れ出したものだから、教室の空気はたちまちざわめく。


「ええっ、どういうご関係なのかしら?」

「もうお付き合いなさっているとか?」

「まあ、それでっ!」


 背後からそんな声が聞こえてきたが、今のレイラには気にしている余裕などない。シェラを廊下の隅まで引っ張っていき、周囲に誰もいないことを確かめると、彼女はぐいと詰め寄った。


「シェラッ!どういうつもりなのよっ!」


「な、何がだ……」


 いきなり詰め寄られ、シェラは思わず身構えた。学校に通わされた理由でも問い詰められるのかと思ったのだ。


「なんなのよ、この授業はっ!簡単すぎて勉強にならないじゃないっ!」


「……そっちか」


 予想外の方向から怒られ、シェラは肩の力を抜きながらも、なお戸惑いを隠せなかった。


「そうだな、噂どおりだった」


「噂どおり?知ってたなら先に言ってよ!こんなの、分かってたら断ってたもんっ!」


「君の知的好奇心を満たせなかったのは申し訳ない。だが、噂が本当かどうかまでは分からなかった。僕も実際に見て驚いている」


「はぁ……、明日からどうしよう。退屈すぎて死んじゃいそう……」


「死なれては困るのだが……」


「赤目さんの学校も、こんな感じだったの?」


「いやまさか……。この程度で魔導学校に入れるはずがない」


「緑目さんのところは、なんでこんな授業なのかなぁ……」


「ここに通う生徒は、ほとんどが貴族だと聞いている」


「貴族?あぁ、だからお嬢様っぽい人が多いのか」


「要するに、彼女たちは勉強をする必要がないのだ。学校に通ったという体裁と、将来の人間関係を築くために来ている」


「なにそれ……」


「しかも、卒業したらすぐに結婚する者も多いらしい。男なら、特に何もしなくても要職に就けるとも聞く」


「う~ん、そうか……。みんなイージーモードだなぁ……」


「い、いーじー?なんだそれは?いつもの禍族語か」


「生きるのが簡単だってことっ!と・に・か・くっ!もっと面白い授業を希望っ!そうじゃないと……」


「そうじゃないと……?」


 レイラは、縛られていつ死ぬかも分からない牧玲羅(まきれいら)から卒業したのだと考えていた。そんな自分は、恋をした。しかし、時間が戻ったような状態になり、サダクは消えてしまった。

 別に禍族と呼ばれても良かった。退屈な日々でなければよかった。生きている実感が欲しかった。


「魔導学校に帰っちゃうぞっ!」


「そうか……」


 レイラが啖呵を切ると、シェラは彼女の方に向き直り、真顔で彼女の顔をじっと見つめている。レイラはどうしたのかと戸惑った。


「……な、なによ。ど、どうしたのよ」


「君は僕が守るっ!安心してくれっ!」


 乙女ゲームなら胸が高鳴る台詞なのだろうが、レイラは思わず吹き出してしまった。


「ぷっ!あははっ!何言ってるのっ!かっこつけ~っ!何から守るっていうのよっ!あははははっ!」


「くっ……。勉強についてはハマル様にも伺ってみるっ!わ、私は用事があるのだっ!」


 シェラは顔を赤くすると、それを見られたくないのか、逃げるようにその場を離れていった。

 だが、頬が熱くなっていたのはレイラも同じだった。


「行っちゃった……。用事なんてないくせに。ちょっとだけキュンとしたぞ……」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。