バックステージ
初日の三時間目は「魔法実習」だった。
制服を汚さないため、授業の前に運動着へ着替える必要があるらしい。
レイラはクラス委員長のフェクタを先頭に、数名の女生徒たちに案内されて更衣室へ向かった。
中にはすでに自分の名前が記されたロッカーが用意されており、その手回しの良さに思わず目を丸くする。
「えぇ?自分専用のロッカーがあるの……ますの?」
驚くレイラに、フェクタが少し得意げに答えた。
「はい、もちろんですわ。全員分、あらかじめ用意されていますのよ」
更衣室に「1-1」と教室ごとの表示がされていた理由も、これでようやく腑に落ちた。
「……あ、あれ?」
レイラは自分の名札が掛かったロッカーの取っ手を掴んだが、扉はびくともしない。思わず首を傾げ、戸惑ったようにフェクタへ視線を向けた。
「フェクタさん、こちらどうやって開けるの……ますの?」
「ふふっ、ご自分の魔力を使いますのよ」
「え、えぇ?」
よく見れば、周囲の生徒たちはロッカーに手を触れるたび、指先をほのかに光らせている。どうやら魔力を流し込んでいるらしい。レイラもおそるおそる同じように意識を向けてみると、かちり、と小気味よい音を立てて扉がひとりでに開いた。
「自分固有の魔力で開くの、これ?す、すごい……ですわね。セキュリティ対策されてる……」
ロッカーを開くとそこには地球でみるようなジャージが掛けてあって、運動靴も準備されている。
「おぉ、ジャージだぁっ!中学校以来着ていないから新鮮だなぁっ!……じゃなくて、ですわ」
フェクタは地球の言葉に戸惑っているようだった。
「せきゅりてぃ?じゃーじ?ちゅうがっこう?レイラ様はよく分からない言葉を使いますのね……」
「あ~、おほほ。魔導学校用語ですわ……(ごめん、嘘ついた~……)」
フェクタの追及を避けるようにレイラは慌てて着替えはじめたが、袖を通しながら別の疑問が頭をもたげる。
(誰かが私の固有魔力とやらを登録したのかなぁ?シェラ?寝てる間に取った?あいつめぇ……)
シェラに少しばかり腹を立てたものの、それ以上に、周囲と自分との差をまざまざと見せつけられて、レイラは肩を落とした。エルフらしく皆すらりと背が高く、まるで絵姿のように整った体つきをしている。
(う、うわぁ……みんな本当に綺麗……。これ映画で見たことあるぞ……。ファッションショーのバックステージでモデルさんたちが着替えている場面だ……。
私も"レイラ"ちゃんになっているおかげで、多少は"ゲーム補正"が入っているんだろうけど……それでも全然かなわないよ。
こんなの、普通の女子高生だった頃の私なら恥ずかしくて居たたまれないって……)
隣のロッカーで着替えているフェクタも例外ではなく、レイラは思わず見入ってしまった。視線に気づいたのか、フェクタが不思議そうにこちらを振り向く。
「レイラ様、どうかされまして?何か不足していましたか?」
「い、いえ……。おほほほほ。……こ、こちらのお洋服は運動が終わりましたら洗濯などはどうすればいいの?……よろしくて?」
誤魔化すように別の話題を口にした途端、周囲の視線がいっせいにレイラへ集まった。皆、意外そうに目を丸くしている。
(あ、あれ……?なんでみんな驚いているの?)
また何か場違いなことを言ってしまったのではないかと、レイラの胸がひやりとする。
「まぁ、レイラ様ったらっ!こちらの運動着はこちらにかけておけば下の者が洗濯してくださいましてよ?」
「ま、まぁっ!い、至れり尽くせりですことっ!おほほほほ……」
「さぁ、みなさま校庭に行きましょうっ!」
やがて全員の着替えが終わると、フェクタが号令をかけた。その一声に従って皆が校庭へ向かい、レイラも慌ててその後ろにつく。
歩きながらも、フェクタの口にした"下の者"という言葉がレイラの胸に引っかかっていた。
(ここにも聖樹侍女のような人がいるのかな?さすがだなぁ)




