脱出?出国?③
ポリマーは、病室に入ってきた龍族の男を見て理解した。
「医者があなたのことを国に知らせたのね」
だが、イェッドがなぜそこまで慌てているのか、ポリマーには理解できなかった。
「い、嫌な予感……。ど、どうしよう……ポリマー。あの人、僕のこと王子とか言ってなかった?」
「ま、まさか、その身体の主について調べていなかったの?」
「今度調べようとしていたんだよ……」
イェッドは、言い訳がましい子供のようにつぶやいたので、ポリマーの怒りは爆発した。
「はぁ~!?あんたどれだけ時間があったと思ってるのよっ!」
「お、怒らないでよ……」
「自分が王族だって事も知らないでいたわけでしょ?私でも知ってるのよ?」
「えっ!やっぱりそうなの?」
あまりにもあっさりとしたイェッドの返答に、ポリマーは呆れるしかなかった。
「そうなのって、あなたねぇ……」
入口にいた龍族は、いつの間にかイェッドのすぐそばまで来ていた。
「王子っ!ひとまず国へお戻りくださいっ!!王も王妃もご心配なさっておりますっ! 王妃はあなたが亡くなったものと思い込み、心労のあまり床に伏しておられるのです……」
「えぇ、あぁ、えぇ~っと……」
「王子っ、ご病気のほうはっ!?」
「だ、大丈夫かなと……」
「さすがです、王子っ!さあ、参りましょうっ!!」
「あ、あの、だから……。まだ少し仕事が残っているというか……」
すっかり動揺しているイェッドは、とっさに言葉を返せない。一方、龍族の男は手早く事を進めようと、イェッドをひょいと抱き上げた。
「おぉっ!お姫様抱っこっ!?これは初体験だよ、ポリマーッ!」
呆れた目でその様子を見ていたポリマーへ、龍族の男は勢いよく向き直った。
「羽族の御仁っ!」
「は、はいっ!?」
「王子がお世話になったとうかがいましたっ!」
「えぇ、まぁ……」
「本来なら礼を尽くすべきところですが、まずは王子を一刻も早くお連れせねばなりませんっ! あらためて後日、お礼に参りますっ!」
「は、はぁ……、あっ!」
「おさらばっ!」
あまりの急展開に、ポリマーも完全に反応が遅れた。龍族の男はイェッドを抱えたまま、病室の窓を突き破って外へ飛び出していってしまった。
イェッドは突然抱え上げられ、なすすべもなく叫ぶことしかできなかった。
「ポ、ポリマーッ!レ、レイラを助けてあげて~~っ!た、たのむぅぅぅ……」
イェッドの声は、あっという間に遠ざかっていった。
「あ~あぁ、行っちゃったぁ……。もう見えなくなっちゃった……。追いかけるのは無理ね……」
ポリマーは、去り際のイェッドの言葉を思い返した。
「レイラか……。彼女のことも心配ね……。まずは本来の仕事をしないと。それにしても、この病室はどうしたものかしら……」
壁も窓も壊れ、半壊した病室の中で、ポリマーはぽつりとつぶやくことしかできなかった。
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「マジデ~ッ!」
ギエナの驚きの声が寮の部屋に響いた。その声があまりにも大きく部屋の外まで響いて、ポリマーは耳を押さえた。
「もうっ!声が大きいのよっ!」
「男子が男子にお姫様抱っこされて誘拐されたんでしょ?キュンキュンブーメランだわ~っ!」
「そこなのっ!?いかにも男子って感じの人じゃなかったけど……。って違うわよっ!あいつが連れ去られたって話なのっ!」
「さよかぁ~」
「なにその冷めた感じ」
「いやぁ、どうすることもできないしさ~」
「むっ、まともなことを言うわね……。それよりも、あいつっ!自分の事を全然調べてなかったのよ?」
「龍族の王子様だったよね?」
「そうよっ!あんたでさえ知ってるのにっ!ほっとに信じられないっ!」
「さりげディス……」
「死んだと思っていた王子が生きていて、学校に通ってるって分かったら、迎えに来るに決まってるじゃないっ!こういう後先考えないところが、ホントにアホッ!」
「ポリマーちゃんが正しいっ!しかし、なんで調べなんだぁ?貧乏サボり~マンめぇ。あたしは、あいつが下手くそ演技で言い訳している姿が目に浮かぶぞ……」
「……ともかく、今はレイラよ。何処にいるの?同室じゃなかったっけ?まだ寝てる?」
イェッドへの愚痴をひとしきりこぼし終えると、ポリマーは寮の部屋を見渡し、レイラの姿を探した。だが、そこにレイラの姿はない。
「あれ?いないわね……」
すると、ギエナが落ち込んでポツリと言った。
「いなくなっちゃった……」
ポリマーは慌てた。そもそもレイラを助けるためにこの星へ来たというのに、肝心の彼女が姿を消してしまったのだ。
「はぁ?い、いなくなった?どういうこと?あんた何していたのよっ!監視役でしょっ!いついなくなったの?」
「今朝だよぉ~、起きたらいなかった……。寮長が部屋を開けてくれなくて、探しに行けなかったのっ!」
「なんてこと……。あいつからレイラを頼むって言われてるのに……。ギエナ、レイラの行き先に当てはある?」
「う~ん、分からんけど、"赤目"エルフ族の国かなぁって……」
「なんで赤目エルフ族なの?」
ポリマーは、唐突に挙がった国の名に戸惑った。
「三ツ目族を探しに行くときにあいつも消えたんだよぉ~」
「消えた?」
「三ツ目族さんの家に泊まらせてもらったら、朝になったらいなくなっていて、レイラの杖もなくなっちゃった。杖を持って何処かへ行っちゃったのかも……」
「そんなことがあったのね……。う~ん、レイラの杖も?どうしてかしら……」
「わからんちん。杖の持ち主がレイラでしょ?いなくなったのもレイラでしょ?杖と関係しているのかなって?もしかしたらこっちもキュンキュンブーメランかもぉっ!?とか」
ギエナの言いたいことは分かったが、シェラとのつながりはまだ見えてこなかった。
「確かにシェラとつながっていそうだけど分からないわね……」
「レイラはあたしに黙って何処かに行く子じゃないし、誘拐された感じがするんだよね……」
「う~ん……。手がかりもないし、その線で当たってみるしかないか……。まだ移動中よね……、急げば見つかるかもしれないわ」
疑問は残っていたが、今は"赤目エルフ族のシェラ"という手がかりに賭けるしかなかった。
「んだねっ。戦力も必要だし、フムアルも連れて行こうよっ!」
「残念だけど、一人しか連れて行けないわ」
「なんで一人なのさっ!」
「飛んで行くからに決まっているでしょ」
「飛ぶ前提なの?」
「あたりまえでしょ。急いでるんだから。だいたい、あんた一人抱えて飛ぶだけでも大変なんだから」
「……でも、あたしはここから出られないのぞ。ほら、う~ん……」
そう言ってギエナは上半身だけを窓の外へ突き出した。蜘蛛の下半身がつかえて、どうにも抜け出せそうにない。
「役立たずねっ!下半身だけを人間にするとか出来ないの?」
「ひ、ひでぇ言い方っ!んな、ご都合主義なマホウはないってぇ~っ!それに下半身スッポンポンなあたしがそんなマホウかけたら、とんでもないことになるっ!放送禁止レベルのヤバいやつっ!」
「知らないわよっ!もういいわっ!それなら私一人で行ってくるっ!」
「ふぁっ!?ちょちょちょ?」
「それじゃあね」
ポリマーがきびすを返すと、ギエナは本当に置いていかれるのかと慌てふためいた。
「それじゃあねって……えぇっ!?」
無情にも、ポリマーはそのまま上空へ飛び立っていく。
「おぉ~いっ!!行かないでぇぇ~~っ!窓をマホウで壊してくれればいいじゃ~~んっ!待ってぇぇぇっ!せめてパン以外の食べ物を……じゃなくて、あたしを連れてってぇぇ~~っ!うわぁぁ~んっ!」
窓から上半身だけを乗り出したギエナは、じたばたともがき続けた。
「抜け~~んっ!ポリマーちゃ~~んっ!!あたしもレイラが心配なんだよぉ~っ!」
ポリマーはちらりと背後を振り返ったが、窓にはまったままのギエナを見て、深いため息をついた。
「はぁ……。こんなときに限って頼りにならないんだから……。ああ、そうだ、フムアルか……」
ギエナがフムアルを連れて行こうと言っていたのを思い出し、ポリマーはフムアルの部屋へ向かった。




