↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異端を狩る者の詩は誰も歌わない  作者: 大嶋コウジ
ワールド弐の七:シェラ編:エルフの学校
216/219

脱出?出国?③

 ポリマーは、病室に入ってきた龍族の男を見て理解した。


「医者があなたのことを国に知らせたのね」


 だが、イェッドがなぜそこまで慌てているのか、ポリマーには理解できなかった。


「い、嫌な予感……。ど、どうしよう……ポリマー。あの人、僕のこと王子とか言ってなかった?」


「ま、まさか、その身体の主について調べていなかったの?」


「今度調べようとしていたんだよ……」


 イェッドは、言い訳がましい子供のようにつぶやいたので、ポリマーの怒りは爆発した。


「はぁ~!?あんたどれだけ時間があったと思ってるのよっ!」


「お、怒らないでよ……」


「自分が王族だって事も知らないでいたわけでしょ?私でも知ってるのよ?」


「えっ!やっぱりそうなの?」


 あまりにもあっさりとしたイェッドの返答に、ポリマーは呆れるしかなかった。


「そうなのって、あなたねぇ……」


 入口にいた龍族は、いつの間にかイェッドのすぐそばまで来ていた。


「王子っ!ひとまず国へお戻りくださいっ!!王も王妃もご心配なさっておりますっ! 王妃はあなたが亡くなったものと思い込み、心労のあまり床に伏しておられるのです……」


「えぇ、あぁ、えぇ~っと……」


「王子っ、ご病気のほうはっ!?」


「だ、大丈夫かなと……」


「さすがです、王子っ!さあ、参りましょうっ!!」


「あ、あの、だから……。まだ少し仕事が残っているというか……」


 すっかり動揺しているイェッドは、とっさに言葉を返せない。一方、龍族の男は手早く事を進めようと、イェッドをひょいと抱き上げた。


「おぉっ!お姫様抱っこっ!?これは初体験だよ、ポリマーッ!」


 呆れた目でその様子を見ていたポリマーへ、龍族の男は勢いよく向き直った。


「羽族の御仁っ!」


「は、はいっ!?」


「王子がお世話になったとうかがいましたっ!」


「えぇ、まぁ……」


「本来なら礼を尽くすべきところですが、まずは王子を一刻も早くお連れせねばなりませんっ! あらためて後日、お礼に参りますっ!」


「は、はぁ……、あっ!」


「おさらばっ!」


 あまりの急展開に、ポリマーも完全に反応が遅れた。龍族の男はイェッドを抱えたまま、病室の窓を突き破って外へ飛び出していってしまった。

 イェッドは突然抱え上げられ、なすすべもなく叫ぶことしかできなかった。


「ポ、ポリマーッ!レ、レイラを助けてあげて~~っ!た、たのむぅぅぅ……」


 イェッドの声は、あっという間に遠ざかっていった。


「あ~あぁ、行っちゃったぁ……。もう見えなくなっちゃった……。追いかけるのは無理ね……」


 ポリマーは、去り際のイェッドの言葉を思い返した。


「レイラか……。彼女のことも心配ね……。まずは本来の仕事をしないと。それにしても、この病室はどうしたものかしら……」


 壁も窓も壊れ、半壊した病室の中で、ポリマーはぽつりとつぶやくことしかできなかった。


----- * ----- * -----


「マジデ~ッ!」


 ギエナの驚きの声が寮の部屋に響いた。その声があまりにも大きく部屋の外まで響いて、ポリマーは耳を押さえた。


「もうっ!声が大きいのよっ!」


「男子が男子にお姫様抱っこされて誘拐されたんでしょ?キュンキュンブーメランだわ~っ!」


「そこなのっ!?いかにも男子って感じの人じゃなかったけど……。って違うわよっ!あいつが連れ去られたって話なのっ!」


「さよかぁ~」


「なにその冷めた感じ」


「いやぁ、どうすることもできないしさ~」


「むっ、まともなことを言うわね……。それよりも、あいつっ!自分の事を全然調べてなかったのよ?」


「龍族の王子様だったよね?」


「そうよっ!あんたでさえ知ってるのにっ!ほっとに信じられないっ!」


「さりげディス……」


「死んだと思っていた王子が生きていて、学校に通ってるって分かったら、迎えに来るに決まってるじゃないっ!こういう後先考えないところが、ホントにアホッ!」


「ポリマーちゃんが正しいっ!しかし、なんで調べなんだぁ?貧乏サボり~マンめぇ。あたしは、あいつが下手くそ演技で言い訳している姿が目に浮かぶぞ……」


「……ともかく、今はレイラよ。何処にいるの?同室じゃなかったっけ?まだ寝てる?」


 イェッドへの愚痴をひとしきりこぼし終えると、ポリマーは寮の部屋を見渡し、レイラの姿を探した。だが、そこにレイラの姿はない。


「あれ?いないわね……」


 すると、ギエナが落ち込んでポツリと言った。


「いなくなっちゃった……」


 ポリマーは慌てた。そもそもレイラを助けるためにこの星へ来たというのに、肝心の彼女が姿を消してしまったのだ。


「はぁ?い、いなくなった?どういうこと?あんた何していたのよっ!監視役でしょっ!いついなくなったの?」


「今朝だよぉ~、起きたらいなかった……。寮長が部屋を開けてくれなくて、探しに行けなかったのっ!」


「なんてこと……。あいつからレイラを頼むって言われてるのに……。ギエナ、レイラの行き先に当てはある?」


「う~ん、分からんけど、"赤目"エルフ族の国かなぁって……」


「なんで赤目エルフ族なの?」


 ポリマーは、唐突に挙がった国の名に戸惑った。


「三ツ目族を探しに行くときにあいつも消えたんだよぉ~」


「消えた?」


「三ツ目族さんの家に泊まらせてもらったら、朝になったらいなくなっていて、レイラの杖もなくなっちゃった。杖を持って何処かへ行っちゃったのかも……」


「そんなことがあったのね……。う~ん、レイラの杖も?どうしてかしら……」


「わからんちん。杖の持ち主がレイラでしょ?いなくなったのもレイラでしょ?杖と関係しているのかなって?もしかしたらこっちもキュンキュンブーメランかもぉっ!?とか」


 ギエナの言いたいことは分かったが、シェラとのつながりはまだ見えてこなかった。


「確かにシェラとつながっていそうだけど分からないわね……」


「レイラはあたしに黙って何処かに行く子じゃないし、誘拐された感じがするんだよね……」


「う~ん……。手がかりもないし、その線で当たってみるしかないか……。まだ移動中よね……、急げば見つかるかもしれないわ」


 疑問は残っていたが、今は"赤目エルフ族のシェラ"という手がかりに賭けるしかなかった。


「んだねっ。戦力も必要だし、フムアルも連れて行こうよっ!」


「残念だけど、一人しか連れて行けないわ」


「なんで一人なのさっ!」


「飛んで行くからに決まっているでしょ」


「飛ぶ前提なの?」


「あたりまえでしょ。急いでるんだから。だいたい、あんた一人抱えて飛ぶだけでも大変なんだから」


「……でも、あたしはここから出られないのぞ。ほら、う~ん……」


 そう言ってギエナは上半身だけを窓の外へ突き出した。蜘蛛の下半身がつかえて、どうにも抜け出せそうにない。


「役立たずねっ!下半身だけを人間にするとか出来ないの?」


「ひ、ひでぇ言い方っ!んな、ご都合主義なマホウはないってぇ~っ!それに下半身スッポンポンなあたしがそんなマホウかけたら、とんでもないことになるっ!放送禁止レベルのヤバいやつっ!」


「知らないわよっ!もういいわっ!それなら私一人で行ってくるっ!」


「ふぁっ!?ちょちょちょ?」


「それじゃあね」


 ポリマーがきびすを返すと、ギエナは本当に置いていかれるのかと慌てふためいた。


「それじゃあねって……えぇっ!?」


 無情にも、ポリマーはそのまま上空へ飛び立っていく。


「おぉ~いっ!!行かないでぇぇ~~っ!窓をマホウで壊してくれればいいじゃ~~んっ!待ってぇぇぇっ!せめてパン以外の食べ物を……じゃなくて、あたしを連れてってぇぇ~~っ!うわぁぁ~んっ!」


 窓から上半身だけを乗り出したギエナは、じたばたともがき続けた。


「抜け~~んっ!ポリマーちゃ~~んっ!!あたしもレイラが心配なんだよぉ~っ!」


 ポリマーはちらりと背後を振り返ったが、窓にはまったままのギエナを見て、深いため息をついた。


「はぁ……。こんなときに限って頼りにならないんだから……。ああ、そうだ、フムアルか……」


 ギエナがフムアルを連れて行こうと言っていたのを思い出し、ポリマーはフムアルの部屋へ向かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。