脱出?出国?①
レイラが緑目エルフ族の学校に通い始めてから、数日ほど時は遡る。
ギエナは一人取り残された寮の部屋で、どうすることもできずに悶えていた。窓を眺めては、そこから抜け出す方法に思いを巡らせるものの、いい考えはさっぱり浮かばない。
「うにゅ~……。この窓は小さくてあたしの身体では出られないんじゃまいか……?どうすればいいんだよぉぉ~」
ギエナがうんうん唸っていると、扉の外から声がした。朝食の配給だ。
「おい、朝食だ……」
「なんだ、寮長かぁ……。ど~せいつものパンと牛乳でしょっ!」
普段なら別の寮母が持ってくるのだが、今日に限って寮長のキノスラが担当していた。
「朝飯を持ってきてやったのになんという言い草だ……。謹慎期間を延ばすぞ……」
扉の下から差し出された朝食を見て、ギエナはやっぱりかとうんざりした。
(やっぱり、いつもの味気ないパンじゃまいかっ!ベ~ッだっ!こんなところに閉じ込めて不味い飯を出しおってぇぇっ!せめて虫の二、三匹は入れろって~のっ!……ん、待てよ?)
だが、その瞬間、ギエナはハッとした。レイラのことを訴えるなら今しかない。
「あ~……、そ、そうでございましたっ!キノスラ寮長様っ!申し訳ございませんっ!!」
「何が"様"だ……。気味の悪い……」
「き、聞いて下さいませっ!レイラがいなくなったのですっ!いなくなったというか消えたというか、朝起きたらベッドにいなくてですね……」
「騙されない……」
予想外の返答に、ギエナは戸惑うしかなかった。
「へ?」
「開けた途端逃げる気だろう……」
「ななん~~な~~、そ、そんなことしませんぞっ!」
「そう言って逃げた生徒たちがいたのだ……」
「まさかの展開っ!?扉を開けてもらえば分かるはずですってぇぇっ!」
「お前ら子供のやることは信じられない……」
「ガガガ、ガ~ン……。あぁ、無常……。極限無常だぁぁぁ……」
「ともかく、あと数日はこのままだ……。大人しくしておけ……」
扉の下の隙間から覗くと、キノスラが遠ざかっていくのが見えた。ギエナはその場で悶え、苦しんだ。
「ちょちょちょ、ちょっとぉぉ……。行かないでぇぇ~~っ!キノスラ寮長様ぁぁぁっ?信じてぇぇぇ~っ!せめてパン以外もつけてぇ~っ!ち、違う違うっ!待ってってばぁぁぁっ!」
寮長が去ったあとの部屋で、ギエナはアラクネ族特有の、全身でのたうつような苦悶の姿のまま落ち込んだ。
「ぐわわぁぁ~んっ!酷いよぉ~……」
その時、不意に背後の窓から、聞き慣れた女性の声が飛んできた。
「う~るさいわねぇっ!!どうしてあんたっていつも騒がしいわけ?」
「ああんっ?今度は誰ぞっ?」
声の主は羽族のポリマーだった。イェッドの看病をしているはずの彼女の姿に、ギエナは驚いて窓際へにじり寄った。
「おぉっ!お助けおっぱい女子ぃぃっ!」
「ま~た、あんたはそういうことを言うっ!帰ろうかしらっ!」
「まっ、待って、ごめんってばっ! あたしのテレパシー的な、宇宙的なアレを受信して来てくれたんだよね? ……あ、あれ、イェッドは? まだ寝てるん?」
「熱は下がったけど……」
イェッドとポリマーの二人で助けに来てくれたのだと思い、ギエナは一瞬ぱっと表情を明るくした。だが、そこに彼の姿はない。それに、ポリマーの顔にはどこか寂しげな翳りが差していた。
「国に帰ったわ……」
「く、国ぃ? 日本に帰ったぁ? あたしたちを置いてぇ? あ、ありえんてぃ~」
「違うわよっ!龍族の国よ」
「ふ、ふぁっ!?どうしてだよぉっ!」
「龍族の仲間が病院に突然来たのよ」
「なぬぅ?」
ポリマーは、沈んだ声で事情をギエナに説明を始めた。




