可愛さ余って後悔百倍
翌日の朝から、レイラはわけも分からぬまま緑目エルフ族の学校に通うことになった。街中をシェラと歩きながら、レイラはどうしてこんな状況になったのかと自問自答を繰り返していた。
(何なのよ、この状況……。おかしいっ!ぜ~ったいにおかしいっ!)
緑目エルフ族の街中を、禍族である普通の人間のレイラが歩いているのだ。目立たないはずがない。しかもシェラもエルフ族の中ではイケメンの部類らしく、二人が並べばなおさらだった。あちこちからヒソヒソ話が聞こえてくる。
(目立ちすぎだってっ!恥ずかしいっ!あ~、噂話してるよぉ~……。こっちもっ!あっちもっ!!)
子供たちはレイラを指さして、耳が短いだの、小さいだのと好き放題に言ってくる。
(こ、この子らは何なんだっ!エルフ族は教育がなってないぞっ!)
エルフ族ではないものは出て行け、という声さえ聞こえ、レイラは遂に堪忍袋の緒が切れた。
「もうやだっ!目立って仕方ないじゃないっ!私からしたらみんなが変なのよっ!み~んなコスプレしちゃってるしっ!」
「ま、まぁまぁ……。き、君が綺麗だから目立っているんじゃないかな?」
「思ってもないことをっ!!」
レイラはシェラを睨んだ。自分でも怒ってばかりいるのは嫌だったが、もはや怒りのはけ口は彼だけだった。
「そ、そんなことは……」
「大体、シェラッ!あなたいつから緑目になったのよっ!」
「こ、これには深い事情が……」
「人を誘拐しておいて何が深い事情よっ!」
「ゆ、誘拐など……。いや、誘拐か」
自分で口にした言葉を即座に冷静に判定するあたりは、さすがシェラだなと思った。だが、レイラの腹の虫は収まらない。
「もうっ!説明してもらうからねっ!!」
「わ、分かったよ……。そ、それにしても制服はとても似合っているじゃないか」
「またお世辞ぃ~っ!!」
「い、いやいや、本当のことだ」
レイラは、今朝この制服を着てしまったことを後悔していた。時間を戻す魔法はないものかと本気で考えた。
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その日の朝、レイラはカプトを含むメイドたちの声で目が覚めた。
「おはようございます、レイラ様」
「……ん?お、おはようございます……ムニャムニャ……はっ!」
メイドたちはその手に真っ白な制服を抱えており、レイラはそれを見た瞬間に一目惚れして、一気に目が覚めた。
「可愛いっ!そ、その制服はっ!?」
「レイラ様のためにおつくりしました。どうぞお着替えください」
「えっ!着ていいの?」
「もちろんです」
レイラはベッドからさっと起きるとその制服に袖を通した。大きな姿鏡の前でくるりと回ると、スカートがふわっと広がる。
「わぁ~~っ!可愛いっ!へぇ~っ!ほぉ~っ!」
鏡に映る自分を見て、そんな声が思わず漏れた。白いブレザーに白いスカート。ネクタイは目の色に合わせているのか緑色をしていた。スカートが少し長めなのは、エルフ族の既製品を直したからだろうと分かった。
可愛い服を着てレイラのテンションはマックスに達した。
「エルフ族は、こんなに綺麗で可愛い服を着て学校に通っているの?信じられないっ!」
すっかり浮き足立っていたレイラだったがふとメイドたちを見ると、昨日はきらきらしていた彼女たちが、今朝はどこかどんよりしている。レイラはその姿を見てハッとした。
「ま、まさかみなさん徹夜でこれを……?!」
するとメイドたちは目を逸らしたまま沈黙した。それはもう、頷いているも同然だった。
レイラは彼女たちの苦労を思うと、胸が痛んだ。通常の仕事をこなし、その後で作業したのだろう。しかも一晩で仕上げなければならなかったはずだ。
「ご、ごめんなさい……」
メイド長のカプトは、レイラに答える。
「お気になさらないでください、レイラ様。これが私たちの仕事ですので」
「そんなぁ……」
「レイラ様のお喜びになったお顔を見て、私どももご対応した甲斐がありました」
「あ、ありがとうございました……うぅぅ」
レイラの目には涙があふれていた。
するとそこへ、昨日長老と呼ばれていた老人が現れた。シェラもその後ろに立っている。レイラは、また来たなと思って警戒した。
「おぉっ、美しいではないかっ!なぁ、シェラよ」
「は、はいっ!本当に似合っているよ、レイラ」
レイラは、あからさまなお世辞だなと思った。同時に、それに調子を合わせているシェラも気に入らず、ぶすっとして彼を睨む。シェラは少しギョッとしたが、そのまま素知らぬふりで長老の方を向いた。
「じゅ、準備も整いましたので彼女を学校に連れて行こうかと思います」
「う~むっ!それがいいだろう」
レイラは、二人で何を勝手に話を進めているのだと思った。
「えぇっ!ちょ、ちょっと待ってください。私は通うなどとは……」
レイラが、エルフ族の学校に通うなんて一言も言っていないと訴えかけたその瞬間、長老は最後まで聞かずに話し始めた。
「いやぁ、いやぁ、遠慮などする必要はないのだよっ!入学手続きは完了しているのだっ!制服が用意できるか心配だったのだが、さすがは聖樹侍女だな、カプトよ」
「ありがとうございます、ハマル様」
(あぁ、"メイド"じゃなくて聖樹侍女さんなのね……ん?)
レイラは、メイドのことを聖樹侍女と呼ぶのかと綺麗な名前だなと感心した。だが、長老の名前にぎょっとした。
「ハ、ハマルゥゥゥ……さまぁぁぁ?」
思わず呼び捨てにしそうになったのをどうにか回避したが、大声を出したせいで皆の視線がレイラに集まった。
「おぉ、そうだった。名前を言っていなかったなっ!私はハマルと申すのだ、レイラ君。ハッハッハッ!」
「えぇ、えぇぇぇっ!!あ、あの教科書に載っているぅぅぅっ!?」
「そうか、私は教科書に載っているのかっ!」
レイラは水戸黄門の印籠を見せられたようにひれ伏しそうになった。まさか歴史の教科書に載っているような人物が目の前にいるとは思いもよらなかった。
(あ、あのハマルッ!緑目エルフ族の長っ!……エルフ族は長寿って聞くけど……えぇ?あの教科書の年代はいつだっけ?千年以上前だったような……?えぇぇ??)
レイラの心の声などお構いなしに、ハマルは言葉を続けた。
「それでは学園に行くが良いだろう。シェラよ、彼女の引率を頼むぞっ!」
「御意にっ!」
レイラは驚きのあまり断ることを忘れてしまった。
「え……、あ……」
聖樹侍女たちもこちらを見てにこにこしている。彼女たちの苦労を思うと、無碍に断ることもできなかった。
「ハァ~……」
レイラは深いため息しか出なかった。
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校門に近づいたレイラは、制服を掴みながら見つめてまたため息をついた。
「確かに可愛いけどさぁ~……。ハァ~……可愛さ余って後悔百倍だよ……」
「何て言ったんだい、レイラ?」
「な・ん・で・もな~いっ!」
「そろそろご機嫌を直してくれよ……」
「むっ!」
「わ、分かった、分かった……。あはは……」




