防衛ターン
シェラの後ろから現れた老人は、白く長い髪が背中まで伸びていて、白い髭が胸まで伸びている。この老人も肌が白い上に白いローブをまとい、そのほとんどが白かった。レイラは、ファンタジーに出てくる老魔法使いのようだなと思った。
よく見ると彼の後ろには若い女性も数名いて、皆が緑色の眼をしていた。レイラは驚きの声を上げる。
「み、緑色の眼っ!?」
そんな中にいつもの魔導学校とは異なる制服を着ているシェラも立っている。レイラは赤目エルフ族のシェラがどうして緑目エルフ族と一緒にいるのかと思ったが、とある違和感を感じた。
「あれ?ちょっと待って……。あ、あなたの目っ!緑色じゃないっ!!どうしたのよ、その目っ!!」
「こ、これは……」
シェラが答える前に老人が高笑いを始めた。その声は大きくこの部屋に響いた。
「ハッハッハッ!我々が緑目エルフ族だからじゃよっ!」
「み、緑目エルフ族?……まさか、ここは緑目エルフ族の国っ!?」
「その通りだ、レイラ君。我々は君を歓迎するっ!」
「か、歓迎……?それはどういう……」
「君には我々に協力して欲しいのだ」
「協力?どういうことで……しょうか」
歓迎だの協力だのと言われても、レイラには訳が分からなかった。疑問を投げかける声は、相手が老齢の魔族だったため、たどたどしくも敬語になる。
「ハッハッハッ!説明は長くなってしまうだろうっ!食事を取りながらではどうかな?」
「しょ、食事なんていりませんっ!……ちょ、ちょっと?」
老人の声に合わせて後ろにいた女性たちがテキパキと動き出した。
「い、いらないって言ってるんですけど……」
文句を言いかけたレイラだったが、その女性たちがあまりにも綺麗なため見とれてしまった。
メイドのようではあったが、自分と同じような綺麗なドレスを着ており、その上から服が汚れないようにエプロンのようなものを身に着けている。しかも、それには美しい装飾が施されていて、レイラにはエプロンとは思えない代物に見えた。
彼女たちの髪の色は金髪、緑、青と様々だったが、肌は一様に白く、ドレスの白さと相まって美しさが際立っていた。
(き、綺麗……。姿もだけど動きが華麗……?どう言って良いんだろう……バレエを見ているような感じ……?み、見とれてしまった)
メイドたちの仕事は早く、あっという間に食卓が整ってしまった。
すると、食卓に並べられた料理の匂いを嗅いで、レイラの腹の虫が鳴ってしまった。寮に監禁されて貧弱なパンと牛乳だけを食べていた彼女にはたまらない匂いだった。
「……あっ!え、え~っと……」
顔を真っ赤にしたレイラが戸惑っているとシェラが声をかける。
「レ、レイラ、とりあえず椅子に座ってはどうかな?」
レイラはシェラに一瞬ムッとしたが、座るだけなら良いだろうと席に着いた。座りつつも目が食事から離れない。スープにパン、朝食のためか軽めの肉料理もあった。
シェラは老人と目を合わせると食事を食べるように勧めてきた。
「レイラ、遠慮することはないから。さ、さぁ、食事をしよう……よ?」
気の強いシェラはレイラに遠慮しているのか、どもった話し方をしている。あるいは老人に緊張しているようにも見える。
(もう、シェラってばっ!!何あの態度っ!説明もなしに緑目エルフ族の国に連れて来た上に、お姫様のような服を着せて、綺麗な部屋に、美味しそうな食事まで出してもらって……、あ、あれ?これって超大歓迎されてる?)
しかし、簡単に妥協したくない気持ちもあって突然大声を上げて立ち上がった。
「って、ちが~うっ!シェラ、これって何かの魔法がかかっているとかないでしょうねっ!」
「ど、どうしたんだよ、レイラ……。ま、魔法なんてかかってないよ」
「勝手にここに連れて来た君が言っても信じられないぞっ!」
「き、君が寮に閉じ込められていたと聞いて用意したんだ……。謹慎処分中の噂は聞いていたから……」
「むむむぅぅ……」
自分のことを思って準備してくれたのかと思うと、それ以上言いにくくなった。すると、老人がメイドの一人に指示を出す。
「カプト、これを食べてみなさい」
「はい。それでは失礼致します」
メイドの一人がそっと小さなスプーンでスープを口に入れ、続いてパンを一口ちぎって食べて見せた。毒味をさせているようで申し訳ない気がして、レイラは少し戸惑っている。
「問題ございません」
「あ、ありがとう……?」
レイラは自分でもなんでお礼を言ったのか分からず、顔を赤らめた。
「……わ、分かりました……わ。問題ございません……ことを、り、理解しました……わ」
「はい、問題ございません。どうぞお召し上がりくださいませ」
「い、いただきます……わ」
もはやこの場の雰囲気とメイドの上品さでレイラの戸惑いは頂点を極め、口調もお嬢様言葉になっていた。
しかし、それは一瞬のことだった。
「ん~~っ!?な、なにこれっ!?おいしいっ!!すごい、すごいっ!……ガツガツ。うま~~っ!」
食事を口に入れるといつものレイラに戻った。結局、貪るように食事を食べた。その味は、パンと牛乳とは雲泥の違いだった。
さすがのエルフたちも苦笑していたがその姿はレイラの目には映っていなかった。
----- * ----- * -----
食べ終わったレイラは口の周りも吹かず、お腹をポンポンと親父のように叩いている。
「はぁ~、美味しかったぁぁぁっ!ごちそうさまでした~っ!正直に言ってしばらくパンと牛乳だけだったんですっ!もう、このパンのおいしさときたら寮で出されるパンとは比べものになりませんっ!それにスープはスープで美味しいのなんのって……はっ!」
その品の無さにさすがのカプトも苦笑いだった。
「レイラ様?食事の作法を後でお教えしますね」
「えっ!さ、作法?あ、あれ、無作法でしたよね……。すみません」
レイラは恐縮して顔を赤くして下を向いた。すると、自分の着ている綺麗な服が見えてハッとした。
「……も、もしかして、皆さんがこの服に着替えさせてくれたのですか?」
「はい」
メイドたちは笑顔でこちらを見てうんと頷いている。
「そうでしたか……。ありがとうございました……」
いつの間にかメイドたちの攻撃ターンになっていた。レイラは先ほどまでのシェラのようにしゅんと落ち込んだ。
すると老人はまた大きな声で笑った。
「ハッハッハッ!いやはや、レイラ君がご機嫌になってで何よりだなぁっ!シェラよっ!」
「は、はいっ!」
シェラが出てくるとどうしてもレイラは怒りたくなる。
「シェ、シェラ、だからなんであなたの国にいるわけ?こんないい服着せて、めちゃくちゃ美味しい食事を出して持ち上げても駄目なんだからっ!」
「そ、それは……」
「ハッハッハッ!そうだったそうだった。私から説明しなければなっ!」
「え、え~っと……」
レイラは唯一攻撃できる相手がシェラだったため、老人に出てこられると困ってしまうしかなかった。
「そ、それで私はなぜここに……?」
その後、レイラは老人から話を一通り聞いたが、判断ができず回答を保留して、その場は収まった。




