深夜の訪問者
その夜、レイラは空腹のために目が覚めた。お腹も鳴っていてうんざりとした顔になる。
「はぁ~、お腹空いたぁ……。これならダイエットにもなるかぁ……?」
愚痴も自然とこぼれてしまう。すると、天井にいるギエナの腹も鳴っているのが聞こえた。しかも、なぜか苦しそうな顔をしている。
「ご、ご飯っ!レイラ、ご飯だよっ!早くっ!落としてっ!」
寝言を聞くかぎり、食事が空中を飛んでいる夢でも見ているのだろうか。そう想像すると、レイラは少し笑ってしまった。
「ふふっ!もう、ギエナってば」
そして、ふと外を見たときだった。窓の外に人影が見えてレイラは思わず息を飲んだ。
「ひっ!……ん?」
しかし、その人影はどこか見たことのある輪郭をしていた。レイラはベッドから降りると窓を開けて、その人物の名前を呼んだ。
「シェラッ!」
「あっ!」
本来なら、窓の外に人影がいれば驚くのはこちらのはずだとレイラは思った。しかも、ここは二階である。幽霊か、空を飛べる魔族くらいしか考えられない。
「こんな時間に来るなんてっ!ここは女子寮だぞっ!」
「い、いや……、その……」
だが、レイラにとって皆が眠っている時間だとか、ここが女子寮だとかはどうでもよかった。もっと先に聞くべきことがあるだろう、と自分でも思う。相手はシェラだ。彼は突然姿を消し、もしかしたらレイラの杖まで盗んだのかもしれないのだから。
「全く君は……」
「……」
当のシェラは戸惑っていた。レイラには何となく分かった。ここまでは来たものの、窓を開けるに開けられずにいたのだろう。遅い時間だから、女子寮だからという理由もあったはずだが、それ以上に後ろめたさがあったに違いない。
「何をしているんだか……」
「い、いや……」
そこへいきなりレイラから話しかけられたのだ。思いきり驚いた顔になったのも無理はない。レイラはそんなシェラを見て、少し意地悪をしてやろうかという気になった。
「杖を盗んだのは君だよね?ゲームと全然違うんだけど」
「……げ、げえむ?それはどういう……」
「どうしてプリンちゃんを持っていったのか聞いてるのっ!返してっ!」
「あの杖の名前か……」
「やっぱり、キミが持って行ったのかっ!」
「あ……っ」
レイラは、誘導尋問に引っかかったシェラを見てしてやったりと思った。普段はシェラの理屈っぽい話に言い負かされることが多いだけに、思わずにやりとして、さらに責め立てたくなった。
「返してよっ!校長に怒られちゃうでしょっ!」
「そ、それはできない……」
「なんでなのっ!」
「く、国で使うためだ」
「ただの杖だよ?」
「レイラが知らないだけで、あの杖は無限の魔力を生み出す力があるんだ」
「それは知ってるよっ!」
「い、いや……。レイラが思っている以上にあの杖の能力は凄いのだ……」
いつもは切れのある物言いをするシェラが、今日は妙に気弱で、言葉もひどく歯切れが悪かった。
「もうっ!それがキミの国と何か関係があるの?」
「……レイラ、キキキ、キミに来て欲しいんだ……」
「はぁっ!?今度はなに?」
「わ、私の国だ……。そそそ、その……」
レイラは、だんだん馬鹿にされているような気分になってきた。突然現れたかと思えば、自分の国に来てほしいと言い出す。当のシェラは怯えたように顔を赤くしている。何を言いたいのかさっぱり分からず、腹まで立ってきた。
「もうっ!突然、訳が分からないっ!!それってプロポーズのつもりっ?」
「バ、バカなことを言うなっ。た、ただ、黙って付いてきてくれればいいのだっ!!……頼むっ!」
今度は理由も言わず、自分について来いと言い始めた。
「い・や・よっ!!理由も言わないなんてっ!キミらしくないじゃないっ!杖を返してっ!」
レイラの声も高くなり、ギエナを起こしそうになった。
「ムニャ……、レイラどうしたん……Zzz……」
ギエナがまた眠ってしまった、そのときだった。シェラの後ろに、別のエルフ族たちがふっと姿を現した。
「だから、さっさとやれば良かったのだ。禍族と交渉など煩わしいっ!」
そのエルフ族の眼が星に照らされて光ったとき、その目の色にレイラは驚きの声を上げた。
「あなたたち、緑目の……?どうしてあなたたちが……?あっ……、Zzz……」
次の瞬間、レイラは深い眠りへと引きずり込まれた。緑目のエルフ族が放った睡眠魔法だった。
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翌朝、ギエナは窓が開いていることに気づいた。蜘蛛の巣ベッドから降りると、窓を閉めてレイラに文句を言おうとした。
「あ~、レイラってば窓が開いてるじゃんっ!あたしには虫族が入るから閉めろとかって言うくせに……あれ?レイラ……?」
しかし、怒る対象が眠っているベッドには既に誰もいなかった。
「えぇ?……レイラ?……レイラちゃん?」
部屋から出て行ったのかと思って扉を開けようとしたが、監禁されているため鍵が掛かっていて出られなかった。ベッドの下や他のところも見回してみたが何処にもいなかった。
ギエナは焦りのためか油汗が出始め、頭を抱えて大声で叫んでいた。
「ぬおぉぉぉ~っ!主人公が消えてどうすんじゃ~っ!ありえんてぃ~っ!あたしはどしたらいいんだぁぁぁっ!分からんてぃぃぃっ!」




