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異端を狩る者の詩は誰も歌わない  作者: 大嶋コウジ
ワールド弐の六:シェラ編
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どこいった?

 翌日、レイラはベッドの上で目を覚ました。窓から差し込む光は、どこへ行っても変わらないのだな、とぼんやり思う。ただ一つ違うのは、ここが病院ではないということだった。

 ベッドの上で大きく両手を伸ばす。こうして何の苦もなく体を動かせることがうれしくて、健康のありがたさに思わず叫んでしまった。


「健康って素敵だ~っ!」


 そのままベッドからぴょんと立ち上がり、窓を開けた。相変わらず粘り気のある海はうねうねとうごめき、空には鳥のような魔族が飛び交っている。見上げれば岩肌が広がり、ところどころ透明な岩を透かして陽の光が差し込んでいた。青空だけが見えないのは、やはり少し残念だった。

 しかし、そんな君とを払拭するように湿気の多いこの地にしてはめずらしく、すがすがしい空気が流れ、彼女の頬をやさしく撫でた。


「はぁ~、気持ちいいっ!」


 レイラの騒がしい声に、天井近くの蜘蛛の巣ベッドで眠っていたギエナがもぞりと身じろぎした。


「ふにゃ……。レイラ、もう起きたんかい……」


「おはようっ!ギエナッ!」


「おふぁよぉぉ~……、ふぁぁ~」


 ギエナはあくびだか挨拶だか分からない声でレイラに答えると、レイラが突然大きな声を張り上げた。


「あぁぁぁっ!!」


 突然の悲鳴に、ギエナはぱちりと目を見開く。


「なになにっ!?また三ツ目ちゃんでも出たんっ!?」


「違うよっ!」


「じゃあ、どしたんっ?」


「プリンちゃんがいないんだよっ!」


「プリンちゃん?あぁ、校長からもらったっていう杖かぁ」


 ギエナが視線を向けると、たしかにレイラが指さした先にあるはずの、彼女専用の魔力を生み出す杖が見当たらなかった。


「ど、どこかに落としたのかな……」


「落とすぅ?いやいや、落とすようなもんでもないしっ!てか、昨日の夜はあったしっ!」


 ギエナは半分寝ぼけたまま、それでも的確にツッコミを入れる。


「だよね……。プリンちゃん、どこにいったのおぉ……」


 レイラの顔はみるみる青ざめ、焦りを隠せなくなっていた。


「校長に怒られちゃうね。ヤバいじゃんっ!」


「う~……、だよねぇ。クスン……」


禍燃費まがねんぴ問題も悪化間違いなしっ!」


「う、う~……、ん?なんか言い方が気になる……。で、でも、本当にどうしよ~……」


 すると、扉をノックする音がした。


「あれ、シェラ達かな?」


 ギエナはそう言うと巣から降り、扉の鍵を外した。


「は~い、開けたよんっ!」


「ちょ、ちょっと、ギエナッ!?」


 何も考えず鍵を開けてしまったギエナにレイラは何をするのかと思った。


「へっ?」


 レイラもギエナも宿に置いてあった薄着の寝間着姿だった。

 そんなことなど知る由もないフムアルは、そのまま扉をガチャリと開けた。


「何か声が聞こえたけど、どうした……んだ……」


 ただ扉を開けただけの彼の顔に、次の瞬間、枕が勢いよく直撃した。


「ぶふぁっ!なっ、何をするんだっ!」


 そして、そのまま扉はバタンと閉じられた。


「入ってこないでっ!!」


 返事に促されて扉を開けただけなのに、枕をぶつけられたうえ、問答無用で閉め出されたフムアルは、その場に立ち尽くすしかなかった。


「そんな理不尽な……。大声を出しているから何かあったのかと思ったのに酷いよ」


 ギエナの謝る声が中から聞こえた。


「あたしのせいだ、ごめんちゃいっ!」


 だが、フムアルにも伝えなければならないことがあった。


「まぁ、それは良いんだけど、こっちも大変なんだよ……」


「えっ、どうしたの?」


 レイラが何があったのか聞き返すとフムアルは驚くべき事を言った。


「……シェラが今朝からいないんだ」


 その衝撃でレイラは思わず扉を開けてしまっていた。


「は、はぁっ!?」


 二人は一瞬目を合わせたが、レイラはすぐに我に返ると、顔を真っ赤にして再び勢いよく扉を閉めた。


「何見てるのよっ!!」


 またも理不尽な扱いにフムアルは呆れるしかなかった。


「あぁっ、全く……!シェラはいなくなるし、今朝は一体なんなんだよ……」


----- * ----- * -----


 しばらくして制服に着替え直した彼らは、レイラたちの部屋に集まっていた。


「さっきはごめんね……」


「まぁ、それは良いんだけど……」


 レイラが謝ると、フムアルは昨夜からのシェラの様子を話し始めた。


「シェラは昨日の夜から様子がおかしくてさ……」


 フムアルの話では、夜中にシェラが部屋を出て行く気配があったという。最初はただトイレにでも行ったのだろうと気に留めなかったらしい。だが、その後しばらくして、廊下の向こうから誰かと話しているような声まで聞こえてきた。


 それでも眠気には勝てず、フムアルはそのまま眠ってしまった。そして朝になって目を覚ますと、シェラの姿はもうどこにもなかった。


「まさか、シェラがプリンちゃんを持って行っちゃった?」


「えぇ、まさか?鍵だって掛かっていたでしょ?」


 ギエナの推測に、レイラは思わず首をかしげた。


「窓はどうだったん?レイラ、開けてたでしょ?」


「あ……っ」


 レイラは、自分が窓を開けたとき、鍵が掛かっていなかったことを思い出した。


「魔法でお空も飛べるし、魔法で物を動かすこともできるじゃん」


 つまりギエナは、シェラが魔法で空を飛んで窓から近づき、窓を開けたうえで、さらに魔法で杖を動かして持ち出したのではないかと推理したのだ。


「で、でも、シェラがそんなことするのかなぁ……」


 レイラには、シェラがそんなことをしたとはどうしても思えず、胸の奥がきゅっと痛んだ。


「レイラ、シェラが本当に盗んだか分からないけど、ここにいても仕方ないよ」


「うん、そうだね……。三ツ目族の話もここまでみたいだし、学校に帰ろうか」


 結局、泥棒に盗まれたというよりは、シェラがレイラの杖を持ち去った可能性が高い、という結論に落ち着いた。しかし、彼がどこへ向かったのかはまるで見当もつかない。三人はひとまず魔導学校へ戻ることにした。

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