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異端を狩る者の詩は誰も歌わない  作者: 大嶋コウジ
ワールド弐の六:シェラ編
202/204

深夜の会話

 レイラとギエナは二人きりになった。ギエナは不安そうな面持ちで、レイラに声をかけた。


「レイラァ、大丈夫なん?」


「う、うん……、もう大丈夫だよ。心配かけてごめんね」


「キミのサダクって人への気持ちが分かったよ……。会えるといいね」


「うん、そうだね」


 レイラは、自分のことを気にかけてくれるギエナに感謝した。


(ギエナにもみんなにも心配かけちゃったなぁ……)


 すると今度は、ギエナがベッドに腰掛けるレイラのそばへいそいそと寄ってきて、小声で話し始めた。


「(……っていうかさ、シェラってば、出る時にキミを見てた気がするんだけど、もしかして好きラブなのかな?)」


 慰めてくれていたのかと思えば、今度はとんでもないことを言い出すギエナに、レイラは呆れてしまった。


「もうっ!小声で何を言うかと思ったら、"日高さん"は何を言ってるのっ!」


「だってぇ~っ!あのチラ見が意味ありげ~に見えたんだもんっ!」


「そもそも、私じゃなくて窓の方を見ていたよ?」


 レイラはそう言いながら、自分の背後にある窓を指さした。


「は~~っ!?なんだそりゃ~~っ!窓だとっ!?ウィンドウだとっ!?That is a window.だとっ!?なんとつまらん男だっ!」


 レイラはギエナの声が余りにも大きかったため、両手で耳を押さえた。


「声が大きすぎっ!あと、発音良すぎっ!」


「ちぇ~」


 ギエナはつまらなそうにレイラから顔を背けると、今度は別の話を切り出した。


「んでもさ~、あたし思ったんだけど……」


「今度はなあに?」


 ギエナは急に神妙な顔つきでレイラを見た。その変わりように、レイラは今度は何を言い出すのかと訝しんだ。


「きゅ、急に真面目な顔になった……」


「……もしかして"セーブポイント"ってやつに戻った感じ?」


「セ、セーブポイント……?」


 ギエナにそう言われて、レイラはハッとした。何か理解しがたい力によって、すべてがレイラが学校に入ってしばらくした頃まで巻き戻されていた。確かにゲームであれば、セーブポイントに戻ったような状態だった。


「セーブポイントに戻ったというの?」


「違う?」


 レイラはギエナの指摘を、独り言のように反芻した。


「それで時間が戻ったように感じた……?ゲームをしていたときと一緒……?でも、いつ誰が"セーブ"をしたの?」


「それはキミなんじゃないんかい?」


無論、レイラにはゲームのように「セーブ」をした覚えなどなかった。


「えぇっ!?そんなはずないよ……。そもそも、どうやったらセーブなんてできるの?」


「実はキミにだけ、メッセージウィンドウみたいなものが見えてるんだろ?ほら、ゲームによくあるでしょ?そこに『セーブ』ってメニューがあるとかさぁ?」


「はぁ~、あるわけないでしょ……」


 またしてもギエナがトンデモ発言を言い出したので、レイラは呆れるより先に、よくもそこまで思いつくものだと妙に感心してしまった。


「さよかぁ~。主人公的な立ち位置だから、てっきりあるものだと思ったんだけどなぁ……」


「ないないっ!」


「"なろう"だとアリアリなんだけどなぁ……」


「ないないっ!!」


 ギエナのおふざけを聞きながらも、レイラの頭は冷静だった。


「でも、単純に時間が戻ったって話でもない気がするよ?」


「う~ん、そうだよねぇ。三ツ目族いない問題があるもんなぁ~……」


「そう。ここは現実の世界なんだもん。三ツ目族もサダクもいない“セーブポイント”なんて、あるとは思えないよ」


「んだよねぇ。キャラが消えちゃうなんてあり得ないもんねぇ。う~ん、よく分からんちんだなぁ。けっこう当たりだと思ったんだけど」


 それでも、ギエナはまだ諦めていなかった。


「実はキミ、あたしたちのステータスが見えてたりしない?」


「ないないっ!見えてな~いっ!」


「さよかぁ~」


 ギエナは、ばたりと大げさに落ち込んだ。


「ふふっ。ギエナって、本当に変なことばっかり言うんだから」


 レイラは、しょんぼりしたギエナの向こうに見えるコカブの杖――通称プリンちゃん――へ視線を向けた。壁に掛けられたその杖は、先端の水晶だけが不気味なほどきらきらと光っている。


「そうだ、コカブ校長があの場所にいたっ!学校に戻ったら聞いてみよう」


「そうなん?」


「うん。あの場所で、何かしてた気がするの」


「そっかぁ。あたし、貧乏龍族も何か知ってる気がするんだよねぇ」


「イエッドのこと?」


「そうそう。よく分からんけど、宇宙的な何かでやったのかも?」


「ま、また宇宙的な話ね……」


 レイラは、その正体不明の“宇宙的”という言葉で、またうまく煙に巻かれそうな気がした。


「もう寝よっか……」


「そだね、おやすみモードッ!」


 そう言うなり、ギエナはいつの間に張っていた蜘蛛の巣のベッドにひょいとぶら下がった。


「ふふっ。おやすみ」


 妙なことばかり口にするギエナだったが、彼女と話しているとレイラは不思議と心が落ち着いた。冗談なのか本気なのか分からないその語り口が、張りつめていた胸の内を少しずつほどいてくれる。


「……ありがとう、ギエナ」


「グガ~ッ、Zzz……」


「ね、寝ちゃったか……。あはは……」


 レイラの疑問をめぐる旅は、まだまだ続きそうだった。


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