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異端を狩る者の詩は誰も歌わない  作者: 大嶋コウジ
ワールド弐の六:シェラ編
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朝食、失踪者の謎

 レイラたちが身支度を整え、一階へ下りようと階段に向かうと、下から良い匂いが漂ってきた。思わずレイラとギエナのお腹が鳴ってしまう。


「お腹が鳴っちゃった……。ギエナもっ!」


「こんな良い匂いがして鳴らないわけがないっ!」


「ふふっ!」


「もしかして、期待してもいい?」


「厚かましすぎ~っ!」


「だってさ~」


 二人はそのまま階段を下りると、スハイルにお礼も兼ねて挨拶をした。


「おはようございます、スハイルさん。泊めて頂いてありがとうございましたっ!」


「あら、おはようっ!朝食を用意したのよ、良かったら座って。お友達もいるわよ」


 スハイルはにこにこと微笑みながら、レイラとギエナを朝食に誘ってくれた。ギエナは親指を立て、期待に鼻息を荒くしていた。


「ありがとうございますっ!お言葉に甘えさせてもらいます」

「ありがとうございますっ!」


 二人はお礼を言うと食卓へ向かった。部屋に入ると、すでにフムアルが席に着いて二人を待っていた。


 食卓に並べられた朝食は、海で獲れた魚を使った料理だった。湯気の立つご飯にスープまで添えられ、朝食とは思えないほど豪華だ。窓から差し込む光がそれらをいっそう引き立て、ギエナは早くもよだれを垂らしていた。


「……美味しそう、ジュルッ」


「ギエナ、はしたないよ……」


「え~、レイラだってお腹鳴ってたじゃんっ!」


「もうっ!!ギエナもでしょっ!」


 レイラは顔を赤らめながらも、朝から自分たちのためにこれほどの料理を振る舞ってくれたスハイルに感謝した。


「ありがとうございます、スハイルさん」


「さぁ、どうぞっ!」


 スハイルはレゴルも椅子に座らせた。


「レゴルも手伝ってくれたのよね?」


 レゴルも食卓を拭いたり、皿を並べたりと、彼なりに手伝ったらしく胸を張っていた。


「うんっ!レゴルも手伝ったぁ~。くもおんなっ、どうじょっ!」


「ありがとうっ!って、まだ言うかぁ~っ!ギ・エ・ナお姉ちゃんだぞっ!」


「キャッ!キャッ!」


「あははっ!ギエナはすっかりレゴルのお気に入りだねっ!」


「う、う~む……しかしレイラァ、あたしとしては複雑だぞ……」


「ふふっ!それじゃあ、いただこうかっ!」


 こうしてスハイル家の朝食は、笑いに包まれながら始まった。


----- * ----- * -----


 レイラ、ギエナ、フムアルの三人は、朝食を終えるとスハイルにお礼を言った。


「ごちそうさまでしたっ!美味しかったですっ!こんなに美味しい魚料理は初めてです」


「んだね~。美味しすぎた~っ!」


「ごちそうさまでした。熟練の味というか、お店を出せるほどの味付けですね」


 珍客三人に礼を言われ、スハイルも嬉しそうに微笑んだ。


「まぁ、お粗末様でしたっ!久々のお客様だったから、つい嬉しくて張り切っちゃったのよ。フムアル君の言う通り、普段はレストランで働いているのよ」


「なるほど~、やはりそうでしたか」


「すげ~、道理で美味しかったんか~。シェラの分まで食べちゃったよ。まったく、あいつは何処に行ったんじゃっ!」


 ギエナがそう口にすると、スハイルは姿の見えないもう一人の客について三人に尋ねた。


「そういえば……彼は何処に行ってしまったの?鍵も掛かっていたし、いったい何処から出て行ったのかしら」


「えぇ、私達も分からなくて……」


 レイラが事情を話し終えた、その時だった。レゴルが不意に外を指差した。


「ひんじゃくいと、出て行った~っ!」


「たはっ!あたしはそんな名前……じゃなくて……」


 ギエナは一瞬、自分のことを言われたのかと思った。だが、今朝は"くもおんな"と呼ばれていたことを思い出し、レゴルが指しているのはその言葉を口にした人物――シェラなのだと気づく。


「……それってシェラのことじゃまいか?」


 レイラは、まさかレゴルがシェラに会っていたとは思わず、驚いた。


「えっ!シェラを見たの?」


「おしっこ、一緒に行った~っ!キャハハッ!」


 夜のお化けは、この世界でも子供にとって恐怖の対象だった。レゴルがトイレに行こうと廊下へ出ると、そこにはお化けが立っていた。思わず大声を上げそうになったレゴルの口を押さえたのは、そのお化け――シェラだった。

 正体がシェラだと分かると安心し、レゴルはそのままトイレまで連れて行ってもらったという。


「一人で城まで行くのにお化けが怖いんか~い」


 ギエナは思わず突っ込んでしまったが、レイラはシェラが杖を持っていなかったかどうかが気になった。


「そ、それでシェラ……、貧弱糸さんは長い棒を持っていなかった?」


「ながいぼう?」


「そうそう、こんな風な長い棒よ?」


「はにゃ?」


 しかし、それについては分からないとレゴルは首を振った。ただ、トイレを済ませた後、シェラは窓から外へ出ていったのだという。


「窓から?あら、開いていたかしら……」


 スハイルが首をかしげていると、レゴルは更に不思議な事を言った。


「おそとにもたくさんいたよ~っ!」


 レイラが驚いて聞き返す。


「えっ、外にたくさん……?他にも誰かいたということ?」


「うん、たくさん、お外にいた」


「だ、誰だろう……」


 ギエナもフムアルも顔を見合わせた。


「分からんね……」


「シェラの友達かなぁ?でも、あいつ学校では僕たち以外に友達っていたかなぁ……。あれ?少し失礼なことを言ったかな」


「赤目エルフ族はシェラだけだったし……何者なんだろうね。レゴル、教えてくれてありがとうねっ!」


 レイラがレゴルの頭を撫でながらお礼を言うと彼はキャッキャッと嬉しそうにはしゃいだ。


 レゴルの話から、シェラが一人で出て行ったこと、そして外で誰かと落ち合っていたらしいことまでは分かった。だが、彼が杖を持ち去ったのかどうかは、依然として不明のままだった。


 シェラの失踪と杖の消失。そのどちらにも謎だけが残ったまま、レイラたちはスハイルとレゴルに礼を言い、彼女の家を後にして学校へ戻ることにした。


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