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異端を狩る者の詩は誰も歌わない  作者: 大嶋コウジ
ワールド弐の六:シェラ編
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新しい仲間はお家を見つけた


 レイラたちが三ツ目族の子どもに導かれて辿り着いたのは、海岸線にひっそりと寄り添うように建つ家々だった。家はどれも煉瓦造りで、思っていたよりもしっかりしている。だが、その中には半ば崩れかけたものも混じっていて、なぜこれほど状態に差があるのかは分からなかった。


 目の前に広がるゼリー状の海は、地球の海のように波打つのではなく、ゆらゆらと粘るように上下している。レイラがつま先でそっと触れると、表面はぷるんと震え、その揺れがじわりと広がった。


(相変わらずプヨプヨしてて変な海だなぁ……。そういえば、泳いでみたいって言ったら、サダクに「死ぬ気か」って本気で怒られたっけ……)


 あたりには古びた桟橋や小さな船も見えた。傷みはあるものの、まだ使われているらしい。街で見かけた魚は、きっとここで獲っているのだろう。


 レイラがしばらく海に見入っていると、ギエナが呆れたように声をかけた。


「レイラ、海と何を戯れているんじゃまいか。あの子、行っちゃったぞ」


「……あっ!」


 はっとして顔を上げると、三ツ目族の子どもはすでに一軒の家へ向かって駆け出していた。


「キャッ!キャッ!」


 レイラたちが慌ててあとを追うと、家の扉が勢いよく開き、一人の女性魔族が飛び出してきた。彼女は目に涙をいっぱい溜めたまま、三ツ目族の子どもを強く抱きしめる。


「レゴルッ!あぁ、レゴルッ!心配したのよっ!今まで何処に行ってたのっ!?」


「キャハハッ!」


 叱っているはずなのに、女性の声は安堵で震えていた。子ども――レゴルは悪びれる様子もなく、くすぐったそうに笑っている。


「ああ……でも、無事でよかった……。もう、この子ったら……」


 どうやら彼女はレゴルの母親らしい。親子が再会できたことに、レイラは胸をなで下ろした。

 そして、その女性の額にも、レゴルと同じく第三の目がはっきりとあった。


「あ、あなたは……三ツ目族……」


 レイラの声に気づき、女性は涙をぬぐってから、不思議そうに四人を見つめた。


「あなたたちは……?」


「その子を連れてきたんです。……というか、私たちが連れてこられたっていうか……あはは……」


 レイラが苦笑まじりにそう言うと、女性ははっとしたようにレゴルを見下ろし、すぐに深々と頭を下げた。


「まあっ……!この子を守ってくださったのですね。ありがとうございました。こんなところで立ち話もなんですし、どうぞ中へお入りください」


「い、いえ、私たちは――」


「そんなことをおっしゃらず。せめてお礼だけでもさせてください。どうぞ」


 レイラがみんなの顔を見回すと、ギエナもフムアルも小さく頷いた。辞退する理由もなく、四人は女性の厚意に甘えて家へ上がらせてもらうことにした。


 もっとも、シェラだけは扉をくぐる瞬間まで、どこか腑に落ちないものを感じていた。子どもを案じる母親らしい取り乱し方を見せていた一方で、客人を迎える口調も所作も妙に洗練されている。海辺の片隅で暮らす一族の女性にしては、あまりに言葉が整いすぎていた。


 先を行くレイラとギエナの背を見ながら、シェラは小声でフムアルにささやく。


「なあ、フムアル。妙に言葉遣いが丁寧で、しかも淀みがない。少し出来すぎていないか?」


「うん、僕もそう思ったよ。貴族とか、身分の高い人たちと接してきた感じがするね」


「こんな辺境で、か?」


 シェラは眉をひそめたまま、なおも家の造りと女の立ち居振る舞いを見比べる。胸の奥に引っかかった小さな違和感を抱えたまま、二人もまたレイラたちのあとに続いて、三ツ目族の家へと足を踏み入れた。


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