新たな仲間は何処かに行きたい
レイラたちは城を降りると、西の街を目指して大きな街道を歩き始めた。
だが、ひとつだけ昨夜までと違うことがあった。いつの間にか、あの三ツ目族の子どもが、てくてくと彼女たちの後ろをついてきていたのだ。
ギエナは振り返り、その子を呆れ半分の目で見やる。
「レイラァ、この子はどうするんじゃまいかぁ?」
レイラも困ったように眉を下げるしかない。
「う、う~ん……」
その子は、昨夜レイラたちのキャンプで、ギエナの罠にかかっていた三ツ目族の子どもだった。あのあと、ギエナが蜘蛛の糸を消すと、逃げるようにどこかへ去っていったはずだった。
それなのに、城を出た途端、まるで最初から仲間だったかのような顔で後ろについてきている。
言葉が通じないことは分かっていたが、レイラはひとまず、その子に声をかけてみた。
「君、どうしてついてくるの?お家は?お母さん、お父さんは?」
「うわうぅぅ。おうちぃ?」
「そうそう、お家よ?」
「おうちぃっ!おうちぃっ!キャハハッ!」
やはり、言葉は通じないらしい。三ツ目族の子は「おうち」という響きだけが面白かったのか、けらけら笑いながらその場をぴょんぴょん跳ね回る。レイラは困ったように眉を下げ、苦笑した。
「あはは……。分からないかぁ……」
「キャッ!キャッ!」
無邪気にはしゃぐ姿は、どこまでも子どもらしく愛らしい。つられてギエナも頬をゆるめ、両腕を広げた。
「話はできなくても、なんか楽しそうだからいっかぁっ!ほらほら、こっちにおいでぇ~」
三ツ目族の子は嬉しそうに駆け寄ってくる。ギエナはその小さな体をひょいと抱き上げ、そのまま自分の背中へ乗せた。
「キャハハッ!キャハハッ!」
「楽しいか~い、ほれほ~れっ!」
ギエナが背中をわざと上下に揺らすと、子どもはきゃっきゃっと声を上げて笑った。その無邪気な様子に、シェラは呆れたように肩をすくめる。
「やれやれ、何処まで連れて行く気だ。下手をすれば誘拐犯になるぞ」
フムアルも苦笑しながら、ついてくる三ツ目族の子を振り返った。
「ひとまず、あの街で聞いてみようか。この子を知っている人がいるかもしれない」
レイラは前方に見え始めた西の街を見つめ、小さく頷いた。
「うん、そうだね。この街の子かもしれないし」
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西の街は海に面し、巨大な城壁にぐるりと囲まれていた。空へ届きそうなほどそびえるその壁を見上げて、シェラとフムアルは訝しげに目を細める。
「遠目にも高いとは思っていたが……なんなのだ、この壁は? これほどの建築技術を持つ魔族が住んでいるということか?」
「うん……。でもシェラ、こんな辺鄙な場所にここまでの壁が必要だったのかな。いったい何から守っていたんだろう。よく分からないよ……」
レイラは、かつてこの壁を越えて街へ侵入したときのことを思い出していた。あのときは中の様子がまるで分からず、警戒しながら壁を越えるしかなかった。だが今回は違う。巨大な門はあっさりと開かれていて、通行に条件が課されている様子もない。魔族たちはごく普通に出入りしており、街全体が拍子抜けするほど開放的だった。
レイラたちも誰に呼び止められることもなく、そのまま街の中へ入ることができた。あまりにあっさりしすぎていて、レイラは逆に落ち着かない気分になる。
(あ、あっさり入れちゃった……。まあ、あの時はみんな眠っていたし、本当はあの時も普通に入れたのかもしれないけど……。それにしても、魔族が多いなぁ……)
大通りには、ひっきりなしに魔族たちが行き交っていた。目につくのは、やはりウルサリオン族だ。残りの二、三割ほどが、各地から商売に来たらしい多種多様な魔族たちだった。露店には海の幸や農作物、さらに他所から仕入れた雑貨や道具まで並び、あちこちで値切り交渉の声が飛び交っている。どうやらこの街は、いまやウルサリオン族の商圏として賑わっているらしかった。
その光景を見回しながら、ギエナがふと漏らしたひと言に、レイラの足が止まりかける。
「レイラ~、ここってさぁ、三ツ目族の街とか言ってなかった?」
「そ、そのはずだけど……」
レイラが以前ここを訪れたとき、この街にいたのは三ツ目族ばかりだった。あの時は街じゅうが眠りに落ちたように静まり返っていたが、それでも確かに、ここは三ツ目族の街だったはずだ。
なのに今、視界に入る限り、三ツ目族の姿はほとんど見当たらない。胸の奥がざわつき、レイラの表情がこわばる。
(やっぱり……三ツ目族は、もう……?)
そのときだった。
後ろをついてきていた三ツ目族の子どもが、するりとレイラの手をつかむ。
「……えっ?」
そして何かを思い出したように、ぐいぐいと彼女を引っぱり始めた。
「あっ、ちょ、ちょっと……どこに行くの?」
レイラは戸惑いながらも、その子に引かれるまま走り出した。
「こっちぃっ!おうち、こっちだよぉ~っ!」
さっきまで唸り声しか上げていなかった三ツ目族の子どもが、急にはっきりと言葉を発したので、四人はそろって足を止めた。
「しゃべれるんか~いっ!」
真っ先に叫んだギエナに、子どもはけらけらと笑う。
「しゃべれるんか~いっ!キャハハッ!くもおんなぁっ!ひんじゃくいとぉっ!」
「ぬぉぉっ!なんじゃぁとぉぉっ!」
ギエナは半ば本気で憤慨し、そんな彼女をシェラは鼻で笑った。
「はっ!子供にもバカにされてるぞっ!蜘蛛女」
「シェラァァッ!君が変なこと吹き込んだんじゃろぉがぁっ!」
だが、二人の言い争いすら、子どもにとっては楽しい遊びでしかないらしい。
「くもおんな、くもおんな、キャッ!キャッ!キャッ!」
「はぁ~……。なんてこったい」
ギエナが大げさに肩を落とすと、レイラは苦笑しながらその子の顔をのぞきこんだ。
「でも、家が分かるならよかった。そこまで送っていこうよ」
フムアルも頷く。
「うん。その方がよさそうだね」
ギエナはまだ不満げに口を尖らせていたが、すぐに気を取り直した。
「まぁよいっ!せめて蜘蛛お姉ちゃんって呼んでほしいぞぉ」
すると子どもは、ぴょんと跳ねながら指を差す。
「あっちぃ~っ!くもねぇちゃんっ!おうち、あっちぃ~っ!」
「おぉ、いいぞぉ」
たちまち機嫌を直したギエナは、その頭をわしゃわしゃと撫でてから、また背中へひょいと乗せた。
「キャッ!キャッ!あっちぃ~っ!家、あっちぃ~っ!」
レイラは子どもの指差す先――海岸の方角へ視線を向ける。
「あははっ!海岸の方か。それじゃぁ、行こうかっ!」
行き先も手がかりもない今は、この子を送り届けることが、次の答えにつながる気がした。
レイラたちは顔を見合わせると、三ツ目族の子どもに導かれるまま、海辺の方へ歩き出した。




