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異端を狩る者の詩は誰も歌わない  作者: 大嶋コウジ
ワールド弐の六:シェラ編
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新たな仲間は何処かに行きたい

 レイラたちは城を降りると、西の街を目指して大きな街道を歩き始めた。

 だが、ひとつだけ昨夜までと違うことがあった。いつの間にか、あの三ツ目族の子どもが、てくてくと彼女たちの後ろをついてきていたのだ。


 ギエナは振り返り、その子を呆れ半分の目で見やる。


「レイラァ、この子はどうするんじゃまいかぁ?」


 レイラも困ったように眉を下げるしかない。


「う、う~ん……」


 その子は、昨夜レイラたちのキャンプで、ギエナの罠にかかっていた三ツ目族の子どもだった。あのあと、ギエナが蜘蛛の糸を消すと、逃げるようにどこかへ去っていったはずだった。

 それなのに、城を出た途端、まるで最初から仲間だったかのような顔で後ろについてきている。


 言葉が通じないことは分かっていたが、レイラはひとまず、その子に声をかけてみた。


「君、どうしてついてくるの?お家は?お母さん、お父さんは?」


「うわうぅぅ。おうちぃ?」


「そうそう、お家よ?」


「おうちぃっ!おうちぃっ!キャハハッ!」


 やはり、言葉は通じないらしい。三ツ目族の子は「おうち」という響きだけが面白かったのか、けらけら笑いながらその場をぴょんぴょん跳ね回る。レイラは困ったように眉を下げ、苦笑した。


「あはは……。分からないかぁ……」


「キャッ!キャッ!」


 無邪気にはしゃぐ姿は、どこまでも子どもらしく愛らしい。つられてギエナも頬をゆるめ、両腕を広げた。


「話はできなくても、なんか楽しそうだからいっかぁっ!ほらほら、こっちにおいでぇ~」


 三ツ目族の子は嬉しそうに駆け寄ってくる。ギエナはその小さな体をひょいと抱き上げ、そのまま自分の背中へ乗せた。


「キャハハッ!キャハハッ!」


「楽しいか~い、ほれほ~れっ!」


 ギエナが背中をわざと上下に揺らすと、子どもはきゃっきゃっと声を上げて笑った。その無邪気な様子に、シェラは呆れたように肩をすくめる。


「やれやれ、何処まで連れて行く気だ。下手をすれば誘拐犯になるぞ」


 フムアルも苦笑しながら、ついてくる三ツ目族の子を振り返った。


「ひとまず、あの街で聞いてみようか。この子を知っている人がいるかもしれない」


 レイラは前方に見え始めた西の街を見つめ、小さく頷いた。


「うん、そうだね。この街の子かもしれないし」


----- * ----- * -----


 西の街は海に面し、巨大な城壁にぐるりと囲まれていた。空へ届きそうなほどそびえるその壁を見上げて、シェラとフムアルは訝しげに目を細める。


「遠目にも高いとは思っていたが……なんなのだ、この壁は? これほどの建築技術を持つ魔族が住んでいるということか?」


「うん……。でもシェラ、こんな辺鄙な場所にここまでの壁が必要だったのかな。いったい何から守っていたんだろう。よく分からないよ……」


 レイラは、かつてこの壁を越えて街へ侵入したときのことを思い出していた。あのときは中の様子がまるで分からず、警戒しながら壁を越えるしかなかった。だが今回は違う。巨大な門はあっさりと開かれていて、通行に条件が課されている様子もない。魔族たちはごく普通に出入りしており、街全体が拍子抜けするほど開放的だった。


 レイラたちも誰に呼び止められることもなく、そのまま街の中へ入ることができた。あまりにあっさりしすぎていて、レイラは逆に落ち着かない気分になる。


(あ、あっさり入れちゃった……。まあ、あの時はみんな眠っていたし、本当はあの時も普通に入れたのかもしれないけど……。それにしても、魔族が多いなぁ……)


 大通りには、ひっきりなしに魔族たちが行き交っていた。目につくのは、やはりウルサリオン族だ。残りの二、三割ほどが、各地から商売に来たらしい多種多様な魔族たちだった。露店には海の幸や農作物、さらに他所から仕入れた雑貨や道具まで並び、あちこちで値切り交渉の声が飛び交っている。どうやらこの街は、いまやウルサリオン族の商圏として賑わっているらしかった。


 その光景を見回しながら、ギエナがふと漏らしたひと言に、レイラの足が止まりかける。


「レイラ~、ここってさぁ、三ツ目族の街とか言ってなかった?」


「そ、そのはずだけど……」


 レイラが以前ここを訪れたとき、この街にいたのは三ツ目族ばかりだった。あの時は街じゅうが眠りに落ちたように静まり返っていたが、それでも確かに、ここは三ツ目族の街だったはずだ。


 なのに今、視界に入る限り、三ツ目族の姿はほとんど見当たらない。胸の奥がざわつき、レイラの表情がこわばる。


(やっぱり……三ツ目族は、もう……?)


 そのときだった。


 後ろをついてきていた三ツ目族の子どもが、するりとレイラの手をつかむ。


「……えっ?」


 そして何かを思い出したように、ぐいぐいと彼女を引っぱり始めた。


「あっ、ちょ、ちょっと……どこに行くの?」


 レイラは戸惑いながらも、その子に引かれるまま走り出した。


「こっちぃっ!おうち、こっちだよぉ~っ!」


 さっきまで唸り声しか上げていなかった三ツ目族の子どもが、急にはっきりと言葉を発したので、四人はそろって足を止めた。


「しゃべれるんか~いっ!」


 真っ先に叫んだギエナに、子どもはけらけらと笑う。


「しゃべれるんか~いっ!キャハハッ!くもおんなぁっ!ひんじゃくいとぉっ!」


「ぬぉぉっ!なんじゃぁとぉぉっ!」


 ギエナは半ば本気で憤慨し、そんな彼女をシェラは鼻で笑った。


「はっ!子供にもバカにされてるぞっ!蜘蛛女」


「シェラァァッ!君が変なこと吹き込んだんじゃろぉがぁっ!」


 だが、二人の言い争いすら、子どもにとっては楽しい遊びでしかないらしい。


「くもおんな、くもおんな、キャッ!キャッ!キャッ!」


「はぁ~……。なんてこったい」


 ギエナが大げさに肩を落とすと、レイラは苦笑しながらその子の顔をのぞきこんだ。


「でも、家が分かるならよかった。そこまで送っていこうよ」


 フムアルも頷く。


「うん。その方がよさそうだね」


 ギエナはまだ不満げに口を尖らせていたが、すぐに気を取り直した。


「まぁよいっ!せめて蜘蛛お姉ちゃんって呼んでほしいぞぉ」


 すると子どもは、ぴょんと跳ねながら指を差す。


「あっちぃ~っ!くもねぇちゃんっ!おうち、あっちぃ~っ!」


「おぉ、いいぞぉ」


 たちまち機嫌を直したギエナは、その頭をわしゃわしゃと撫でてから、また背中へひょいと乗せた。


「キャッ!キャッ!あっちぃ~っ!家、あっちぃ~っ!」


 レイラは子どもの指差す先――海岸の方角へ視線を向ける。


「あははっ!海岸の方か。それじゃぁ、行こうかっ!」


 行き先も手がかりもない今は、この子を送り届けることが、次の答えにつながる気がした。

 レイラたちは顔を見合わせると、三ツ目族の子どもに導かれるまま、海辺の方へ歩き出した。


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