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異端を狩る者の詩は誰も歌わない  作者: 大嶋コウジ
ワールド弐の六:シェラ編
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襲撃者?

 翌朝、レイラはテントの外の騒がしさに、浅い眠りを引きはがされるようにして目を覚ました。


「外が騒がしいなぁ……ムニュムニュ……。あれ、ギエナは……いない……?」


 隣で寝ていたはずのギエナの姿はもうない。まだ寝ぼけたまま、レイラはのろのろと身を起こし、テントの布をかき分けて外へ出た。


「ま、眩しぃっ!」


 朝の光が容赦なく差し込み、レイラは思わず目を細める。涙のにじむ目がようやく明るさに慣れてきた頃――彼女は、目の前の光景に息を呑んだ。


「……えっ!!」


 眠気は一瞬で吹き飛んだ。


 そこには、子どもの魔族がギエナの張った蜘蛛の巣に絡め取られ、必死にもがいていた。


「ウガァァァッ!」


 網を引きちぎろうと暴れるその子の横で、ギエナは胸を張り、いかにも得意げな顔をしていた。


「……ギエナ、これって?」


「あ、レイラ。おはよ~っ!全くさ~、気づかないと思ったのかと言いたいよ、あたしは~」


「お、おはよう……」


 レイラが目をこすりながら見回すと、シェラとフムアルも、捕らえられた子どもの魔族をじっと見つめていた。


「シェラとフムアルも、おはよう……。それで、この子は?」


 本当は二人に尋ねたつもりだったのだが、待ってましたとばかりにギエナが胸を張る。後ろでシェラとフムアルが、わずかにむっとした顔をした。


「エッヘン、すごいじゃろうっ!昨日寝る前に仕掛けておいた罠に見事に引っかかっててさっ、笑っちゃうよね?あたしは戦わずして勝ったっ!ふへへ~っ!」


 どうやら、自分が捕まえたのだと一番に言いたかったらしい。


「夜のうちにノラ魔族が襲ってきたの?」


 それにはフムアルが肩をすくめて答えた。


「そうだよ、レイラ。……でも、ギエナだけがすごいみたいに言うのは違うかな。最初に気配を見つけたのは、僕の探知魔法なんだからね?」


 すると、シェラも負けじと口を開く。


「はっ!そうだぞ、蜘蛛女っ!私の高度な罠魔法でこやつの動きを遅くしたからこそ、この貧弱な蜘蛛糸に掛かったのだ」


「ぬぉ~、バラしおってぇぇっ!というか、貧弱な蜘蛛糸ってなんじゃろか~っ!こんなに動けなくしてるのにぃぃっ!」


 ギエナは憤慨していたが、レイラは、自分だけが襲撃に気づけず、みんなの魔法と技術に守られていたのだと思うと、情けなさで肩を落とした。


「わ、私だけ気づかなかったと……、シュン……」


「へへ~ん。まぁ、落ち込むなマガマガ少女よぉ、あたしがいれば問題な~い」


「マガマガ役立たず少女だよぉ……」


「気にするなってぇ~。それよか、見てみなよ、この子……う~ん……もしかしてさ……」


 ギエナが妙に含みのある言い方をしたので、レイラは改めて捕らえられたノラ魔族へ目を向けた。すると、その姿に思わず息をのむ。


「こ、この子……まさかっ!み、三ツ目族っ!?」


 網にかかっていたのは、紛れもなく三ツ目族の子どもだった。二つの目に加え、眉間には黒い第三の目がはっきりと開いている。その三つの目すべてで、こちらを警戒するように睨みつけていた。


「グルゥゥ……」


 三ツ目族の存在を半ば疑っていたシェラも、さすがに驚きを隠せなかった。


「そうなのだ……。三ツ目族が実際にいるとはな」


「ほ、ほらっ!三ツ目族は本当にいたでしょ!?」


「ふ、ふむ……。存在は認めざるを得まい」


 フムアルも、困惑したように捕らえられた子どもを見つめる。


「でも、どうして三ツ目族の子どもがここにいるんだろう?本当に一人で僕たちを襲うつもりだったのかな?」


 ギエナは首をかしげ、武器も持たないその小さな姿を見下ろした。


「う~ん、襲うって感じじゃないよねぇ?何か盗もうとしたとか?泥棒じゃまいか?」


 レイラは、目の前に三ツ目族がいたことに胸を打たれていた。もうどこにもいないのではないか――そんな恐れが、ほんの少しだけほどける。この子の存在は、サダクへ辿り着くための細い手がかりのように思えた。


「ね、ねぇ、君は三ツ目族よね?王様やお城のみんな、街のみんなは?サダクっていう人を知らない?」


「ウガァァァ……」


 だが返ってきたのは、言葉にならない唸り声だけだった。子どもは蜘蛛の糸を引きちぎろうと身をよじらせ、三つの目で怯えたようにこちらを睨んでいる。


「私の言ってること、分かる……?お願い、教えて……?」


「ガァァァッ!」


 レイラが何度問いかけても、反応は変わらなかった。そこでシェラが腕を組み、冷ややかに言い放つ。


「レイラ、諦めるんだな。所詮はノラ魔族だ。文明を持たぬノラに、まともな会話は期待できん。……しかし、三ツ目族とはこんな有様だったのか?本当に、この城や街を築いたのが彼らだというのか」


「そんなはずないよ……。この城も街も、三ツ目族のものだった。みんな普通に話してたし……」


「だが、現実にはこうして――」


 そこまで言いかけて、シェラは口をつぐんだ。サダクの名を追ってここまで来たレイラの前で、その先を口にするべきではないと理性が彼を押しとどめた。

 だが、レイラの視線は、朝の澄んだ空気の向こう――はるか西に見える、大きな壁に囲まれた街へと向けられていた。


「ここじゃないっ……!西の街よっ!」


 ギエナが首をかしげる。


「西ぃ?あの街に何かあるん?」


「西の街に、みんな監禁されていたのっ!」


「みんなってぇ?」


 ギエナにはまだ事情がつかめていないようだったが、シェラはすぐに察した。


「……三ツ目族か」


「うん。城にいた人たちは、西の街に閉じ込められていたの」


 レイラの声には焦りが滲んでいた。

 けれどシェラは、目の前の三ツ目族の子どもへ一瞬だけ視線を落とし、低く言った。


「だが……この有様だ。西の街も同じとは限らん」


「……うん」


 その懸念は、レイラにも分かっていた。

 目の前にいるのは、理性を失った三ツ目族の子どもだ。本当に西の街に誰か残っているのか、レイラにももう分からない。

 それでも、確かめずにはいられなかった。


 そんなレイラを励ますように、ギエナはハルバートを西へ向けて、ぱっと笑った。


「あっちだねっ!ともかく行ってみようじゃまいか。ここで考えてても分からんちんっ!ね、レイラ?」


「うんっ!行ってみたいっ!」


 三ツ目族がノラ魔族と化しているという現実を前にしながらも――それでも四人の次の目的地は、西の街に定まった。


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