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異端を狩る者の詩は誰も歌わない  作者: 大嶋コウジ
ワールド弐の六:シェラ編
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出発

 翌朝、レイラはきっぱりとした表情で目を覚ました。昨夜、ギエナとの会話で心が少し軽くなったのだ。サダクのことは謎のままだが、少なくとも自分は一人ではない。ギエナ、シェラ、フムアル――彼らが側にいてくれる限り、前に進むしかないのだと、レイラは腹を決めた。


 身支度を済ませたレイラとギエナが階下に降りると、ロビーと呼べるほど広くもない入口で、シェラとフムアルが待ち構えていた。二人の顔には昨日の落ち込みから一転して、決然とした表情が浮かんでいる。


「シェラ、フムアル、おはようっ!」


 その声と顔にシェラとフムアルは驚いた顔を見せた。彼女の雰囲気は昨日までとは全く違う。昨日までは下を向き何か考え事をしていた彼女が今朝は顔を上げて笑顔まで見せていた。


「おはよう、レイラ。どうしたんだい?今朝は凄くスッキリした顔になっているよ?」


 レイラはフムアルに笑顔で返事をした。


「そうかなぁ?」


「そうか。その方が君らしいね」


「ありがとっ!」


 シェラも笑顔になったレイラを見て、ようやく安心した表情を浮かべた。だが、素直になれない彼は依然として皮肉を口にする。


「ふんっ!禍族らしい顔になったな」


「ま~た、そういうことを言うんだからっ」


「だ、だがな……」


 シェラは何か言いかけたが、照れからか言葉が詰まった。顔を背けると耳まで赤くなっている。


「その方が……いい」


 小さく呟かれたその言葉に、ギエナが敏感に反応した。


「シェラ~、珍しく人を褒めたから最後の方が小さい声になってるんじゃまいか~?ヘタレ~」


「う、うるさいっ!下賎な蜘蛛女めっ!」


「べぇ~っ!」


 怒るシェラと舌を出すギエナを見てレイラは思わず笑顔になった。いつもの三人の掛け合いに、胸の奥の不安もほんの少しだけ薄れた気がする。


「よし、それじゃぁ出ようか!」


 レイラの言葉と共にシェラ、フムアル、ギエナは外に出る。すると、彼らをウルサリオン族の子供は宿の前まで一緒に出て来てくれた。


「お客様、ありがとうございましたっ!」


 宿の子は、ちょこんと前に出ると、ペコリと可愛らしく頭を下げた。その瞬間、レイラがビクンと肩を震わせる。


「あっ……あぁぁ~~っ!かわ……っ!」


 そんなレイラにシェラ、フムアル、ギエナは何があったのかと彼女の方を向いた。


「レイラ?」

「はぁ~……」

「ふぁっ?何だよ、レイラってばぁ~」


 気づけばレイラは、昨日までぼんやりしていたのが嘘のように、ウルサリオン族の子どもをぎゅうっと抱きしめ、自分の頬をスリスリと押しつけていた。


「か、かわいいよぉ~……。もふもふ~……。昨日は無視しててごめんねぇ~……スリスリ~」


 突然の過剰スキンシップに、宿の子は目を白黒させる。


「お、お客様っ……?ど、どうされたのでしょうか……。そ、そこは、くすぐったいですぅ……こ、困りますぅ……ふぇぇ……」


 三人は顔を見合わせて、同時に苦笑した。呆れながらも、その様子にほっと胸をなでおろす。


「えへへ~……このぬくもり……たまらんよぉ~……スリスリ~」


 しかし、レイラの過剰な愛情に耐えきれなくなったのか、宿の子はえいっと力を込めてその腕を振りほどくと、ぱたぱたと宿の中へ逃げ込んでしまった。


「す、すみません……。あ、ありがとうございました~~っ!」


 入口のところまで駆け戻った宿の子は、そこから半分だけ顔を出し、警戒心たっぷりの目でこちらをうかがっている。いつでも奥へ引っ込めるよう、足はしっかり後ろに構えたままだ。

 レイラは、そんな様子に少ししょんぼりと肩を落とした。


「あ~~っ、つれないなぁ~……」


 それでも、すぐにぱっと顔を上げると、にこりと笑う。昨日までとは違い、その瞳には迷いがなかった。


「……うん、仕方ないっ!行こっか~っ!」


「だね~~っ!」


 ギエナが元気よく応じ、シェラとフムアルも無言で頷く。

 四人は、ウルサリオン族の子に手を振ると、そのまま北へ向かって歩き出した。


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