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異端を狩る者の詩は誰も歌わない  作者: 大嶋コウジ
ワールド弐の六:シェラ編:三ツ目族の消失
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シェラ・タン・スエリア③:言い争い

 シェラが教室を飛び出すやいなや、レイラも椅子を弾くように立ち上がり、その背中を追って廊下へ駆け出した。

 靴音を響かせながら走るうちに、ふと――食堂で赤目エルフ族のシェラが、緑目エルフ族の生徒たちに嘲笑されていたあの場面が、鮮やかに脳裏によみがえる。


----- * ----- * -----


 ある日の放課後、シェラが食堂の隅で簡素な定食を静かに口へ運んでいると、少し離れた席からクスクスと笑い声が漏れた。視線を向ければ、緑目エルフ族の生徒たち数名がこちらを見ながら肩を揺らしている。


「……何がおかしいっ!」


 シェラが眉をひそめて問いかけると、彼らはわざとらしくシェラの食事を指さした。


「いやぁ、別に?ちょっとね」

「見ろよ、一番安いメニューじゃないか」

「さすが赤目様だな、質素なことだ」


「き、貴様らっ!私が何を食べようと勝手だっ!!」


 シェラが椅子を鳴らして立ち上がったところへ、ちょうど盆を抱えたレイラがやって来た。


「シェラ、どうしたの?」


 この魔導学校でもひときわ目立つ存在――「禍族」のレイラを見て、緑目の生徒たちは露骨に顔をしかめた。


「おおっと、噂の禍族様じゃないか」

「あははははっ!赤目は禍族とつるむ趣味があるのかよ」

「赤目と禍族、お似合いだな?ぷっ!」


 言葉の矛先は、レイラだけでなくシェラにも向けられている。緑目エルフ族の生徒たちは、彼を完全に嘲笑の的にしていた。


(レイラまで巻き込みやがって……!)


 胸の奥で怒りが弾ける。シェラは、握りしめた拳が震えるのを止められなかった。


「ふ、ふざけるなっ!!」


 今にも殴りかかろうと一歩踏み出したそのとき、緑目エルフ族のメサルチムが、盆を片手に現れた。


「……何を騒いでいる」


「おいメサルチム、見ろよ。赤目様のごちそう、学食で一番安いメニューだぜ?」


 ひとりがわざとらしく笑いながら、シェラの盆を顎でしゃくる。


 メサルチムはそちらへ視線だけを流し、シェラの料理を一瞥すると、肩をすくめた。


「……だからどうした」


 それだけを淡々と言い捨てると、興味を失ったように顔をそらす。その素っ気なさが、かえってシェラの怒りに油を注いだ。


「緑目どもっ!ふざけるなよっ!」


 しかしメサルチムは、シェラの怒号を正面から受け止めようとはしなかった。

 代わりに、嘲笑っていた緑目たちを鋭く一瞥する。


「くだらない真似はやめろ。――行くぞ」


 取りつく島もない冷たい声音でそう言い捨てると、メサルチムは盆を持ち直し、こちらに背を向けた。そのまま仲間たちをぞろぞろと引き連れ、少し離れた席へ移っていく。


 残されたシェラは、握りしめた拳を震わせながら、噛み殺すような声を漏らした。


「く、くそっ……緑目どもめ……!」


「シェラ……? あまり怒らないで……」


 隣でおずおずと声をかけたレイラに、シェラははっとして肩の力を抜く。


「……すまない。君まで巻き込んでしまったな」


 レイラは首を振った。からかわれることには、もうすっかり慣れてしまっている。けれど同じエルフ同士が、ここまで露骨に憎しみ合う理由までは分からなかった。


「ううん、平気だよ。でも、あの人たちは……?」


「緑目エルフ族だ……」


「同じエルフ族……なんだよね?」


「あんな連中と一緒にするなっ!」


「そ、そうなんだ……」


 再びシェラの感情が爆発しそうになったのを見て、レイラはそれ以上は踏み込まないことにした。


----- * ----- * -----


 あの頃のレイラには、シェラがあそこまで怒りをあらわにした理由が分からなかった。けれど今は、歴史を学んだおかげで、エルフ族同士が刃を向け合う理由も、少しは理解できる。


(あの時、シェラが怒っていたのはエルフの歴史……。でも、同じエルフ族なのに、どうしてあんなに憎み合えるの?目の色が違うってだけで……。そんなのおかしいよ……)


 種族の姿形も生き方も違う魔族同士が争うのは、まだ分からなくもない。けれど、瞳の色が違うだけの同族すら分かり合えないのなら――この世界から争いが消えない理由も、なんとなく見えてしまう気がした。


(それにしても……)


 胸の内にいくつもの疑問を抱えたまま、レイラはシェラを追って歩き出す。彼がどこへ向かったのか――その行き先だけは、なんとなく見当がついていた。


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