その少女、黒歴史製造中につき取扱注意!65
「あ! 荷渡!」
「なにィ!?」
「隙ありィ!」
予想通り気が逸れた。「あ、ユーフォ―」と同じレベルの騙し方だ。
どんだけ荷渡が好きなんだよ、と思いつつも日ノ下は両手を掴んだ。今度は力を利用されないように無理に引っ張らない。
「今だ浮雲!」
「わかった」
「ひ、卑猥なやつめ!」
「せめて卑怯って言ってくれ!」
「くらえ」と、言いながら浮雲が生徒会長に跳びかかる。結構本が分厚いので痛そうだ。
「あっ」
浮雲の体が必要以上に前に傾く。彼女の足を見るとクロスして絡まってしまっていた。
ポーンと、浮雲の手に乗っていた本が放物線を描いて飛んでいく。それは屋上のフェンスを超え、中庭に落ちた。
「いたっ」
ほぼ同時に浮雲が地面とご対面。
「……」
魔王に唯一ダメージを与えられるエクスカリバーを失ったようなものだ。その事実が日ノ下に虚を作った。生徒会長が反撃ののろしを上げるには十分すぎる時間。
雨音は半身になりつつ日ノ下の体の下にもぐりこんだ。彼女の右手が日ノ下の制服の襟をつかんでいる。ふわっと体が浮く。景色が一回転した。
直後、背中に衝撃。
「がっ!?」
一本背負い。受け身を知らない日ノ下はもろにダメージを食らう。
すかさず雨音は仰向けになった日ノ下の腹の上に乗っかる。
「はははははは! 口ほどにもないな! ひっさびさにマウントポジション取ったがやはりここは最高だ! 富士山の頂上よりも絶景だなぁ!!」
「ちょ、ま、ストップストップ!」
生徒会長がハイになりすぎだ。このままでは抵抗できずに原型がなくなるまで顔面を殴られる。
「さぁ、どういたぶってやろうか!」
「ッッ!」
まずい――生徒会長を倒す鍵がなくなってしまった。
本を取ってきて一度仕切り直せればいいのだが、生徒会長が話を聞いてくれそうにない。このままでは日ノ下が無意味にいたぶられる。
せめて他に本があれば、物語の修正はできる。あれが最適なだけで――ほかの本でも効果はあるやらうんたら後付けで説明をすればいい。
本がそんな都合よく屋上に落ちているわけが――。
ん?
落ちている。グラウンドからの灯りに照らされた一冊の本。厚さに乏しいがこの際なんでもいい。
「浮雲。それで会長をしばけ!」
瞬時に日ノ下の視線を追った浮雲は、それを見つけてこくんと頷く。
すぐさまそれを拾い上げた浮雲は雨音の後ろに立ち、それを思いっきり振りかぶった。
「食らうか!」
防御をするために腕を上げようとした雨音。素直にその行動をさせる日ノ下ではなかった。彼女の両腕を掴んで引っ張る。これで頭はがら空きだ。運動音痴の浮雲でもさすがに外さない。
スパコーン!
なんでやねん、とツッコミが入りそうな音がした。本が厚くなくてよかったのかもしれない。あの調子でさっきの本で殴っていたらけっこう痛かっただろう。
「ぐ……見事だ……」
雨音が高揚のせいで約束を忘れていないか心配だったが、その心配は無用だった。
後頭部をしばかれた雨音が、果てたように日ノ下の上に倒れてくる。むにゅんと顔にスライムのような弾力的な感触。
いやいやいや、待てよ! それは想定してないぞ!




