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その少女、黒歴史製造中につき取扱注意!64

 不意に目で追っていた拳が消える。

「ごぼっ!?!?」

 気付けば生徒会長の放った拳が日ノ下の鳩尾に埋まっていた。妙な声が出るくらいに容赦なかった。しかも、狙いは的確で肺が圧迫され空気が口から一気に出ていく。

「かはっ! かはっ!」

 手加減をしれ! と言いたかったが、声にならなかった。

「なにぃ? 聞こえんな?」と雨音は笑い「今は私達も人間らしく言葉で語ろうじゃないかッ!」

 足が動くのを日ノ下はぎりぎりで捉え、胸の中の苦しさを押し殺しながら一歩下がった。蹴り上げられた足の軌跡を見て目を剥く。

 禁断の場所を狙ってきやがった!? 回避しなかったら直撃コースだぞ!?

「女だから手を抜くのはやめるんだな。これでも私は、一度君となんでもいいから戦ってみたかったんだ。正義の味方と私。どちらが強いのか。私はこれでも正しく生きてきたつもりでな」

 雨音はそれを本心から言っているのだ。心なんて読めなくてもそれがわかった。

 お願いをあっさり引き受けてくれたと思ったのは、自分の都合もあったからか。

「私が敵であれ――女だからやりにくいというのなら、少しはやりやすくしよう。私はこれでも空手や柔道の経験者だ。そして、人間と男の弱点を攻める術を把握している。そこらの人間には負けないし、貴様が手加減するならかなり痛い目見るぞ」

 確かにさっきから的確に弱点を突いてくる腕――嘘ではなさそうだ。荷渡に襲い掛かる動作がやけに俊敏だったのも頷ける。その身体能力と戦闘力が将来淫行に使われないことを願いたい。

 日ノ下も男子として最低限のプライドがあり、女子に地面を這わされる失態を犯すわけにはいかない。

 本気で戦うと言っても殴る蹴る必要はないのだ。組み伏せればいい。そして浮雲に本で叩いてもらう。最悪日ノ下がやってもいい。さすがに本で殴られれば約束通りやられたふりはしてくれるはずだ。

 素人ではない鋭い正拳、軸のぶれないローキック。それにご丁寧にフェイントまで混ぜてくる。喧嘩ですら素人の日ノ下には彼女の猛攻を止めきれなかった。唯一の救いは男の放つ打撃よりも一撃が軽いことだ。最低限弱点を守れば耐えられる。

 雨音の一撃を横腹に受けた返しでその手首を掴んだ。

 取ってしまえばこちらのもの――さすがに力負けはしない。

「そろそろ大人しくしてくれ!」

「そんなんじゃあ幼女すら誘拐できないぞ」

 このまま引き倒してしまおうと力を込めたが、相手の方が上手だった。引っ張った瞬間にはほとんど抵抗を感じなかったが、その数瞬後に強烈な抵抗がきた。その力に耐えられず日ノ下の手から雨音の腕が離れる。引っ張る力を利用して手を振りほどいたのだ。 

 不審者対策の体術も完璧ってわけだ。

「あんまりにも上手く逃げられたから感心してツッコミ忘れるとこだったが、幼女は誘拐しない」

「女子高校生はするんだな」

「しねえよ!」

 男の弱点を狙うのに躊躇なかった荷渡といい、雨音といい、最近の女の子にしては防御力が高い。ただ、雨音の場合はその防御力を攻撃力に転化させて不審者化した時が心配。

 さて――どうするか。組み伏せるのは意外と難儀だ。

 雨音の側面に移動していた浮雲に目で合図を送る。不意打ちをすると。

 正確に伝わったかはわからない。けれど、浮雲は頷いてくれた。

「そろそろターン渡してもらわないとな」

 今度は日ノ下から動く。とにかく徹底的に掴みにかかる。

「投げ技ばかりするやつは打撃に潰されるのが世の理だぞ!」

「どこの世界の法則だよッ!」

 とは言ったが、日ノ下の掴みかかる手は手刀で叩き落とされるか、リーチ差のあるキックで返される。

 だめだ――防御力が高すぎる。

 正直、適当にやってれば負けてくれると思っていた。まさかここまで本気で反撃してくるとは。そろそろわざと負けてくれてもよさそうな頃合いであるが、まるでその気配がない。やはり実力で倒さないといけないのか。

 雨音に対する肉体的な攻撃は、対空装備マシマシの戦艦をわざわざ空からの攻撃で落とそうとしているようで分が悪い。残念ながら男のプライドはゴミ箱に投げ捨てた。

 負けてもらわなければ浮雲にとってお話にならない。

 そのためには隙を作らなければお話にならない。

 生徒会長の隙を作るには――。

 唐突に日ノ下の頭にアイデアが湧いてきた。雨音の気を逸らすなんてシンプルで簡単だ。

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