その少女、黒歴史製造中につき取扱注意!63
夕日が山の後ろに隠れて、代わりに月が自己主張をはじめた。天野川市の空に輝く星の数は都会より圧倒的に多い。日ノ下と浮雲は高等部の校舎の屋上に立っていた。以前、場所は違えど、荷渡と中等部の屋上で出会った時は日が落ちれば視界を確保するのは困難なほど暗かった。けれど、今日は社会人の草野球チームが校庭で練習しているのでナイター照明のおこぼれが高等部の屋上を照らしていた。
浮雲の手には家から持ち出された例の本が握られていた。日ノ下が殴ってもよかったのだけど、浮雲が譲らなかった。
……生徒会長、浮雲が手加減知らなかったらすまん。あー、けどこれで頭殴られて、こじれた性癖が治るかもしれないしな。うんうん。
「観察者の思念体を飛ばすことで生徒会長は元に戻る。だから、会長を恨まないでくれ」
「わかった」
一応、生徒会長が今までしてきた行動のフォローをしておく。あとあと二人がぎすぎすするのも日ノ下が望むところではない。
屋上の出入り口の闇からぬっとラスボスの雨音が現れる。浮雲の肩がぶるりと震えたのがわかった。天津だった彼女に出会った時に想像したように、四足歩行でこの場に出て来られたら、演技とわかっていても日ノ下は全力で逃げていた。幸い、そんな悪趣味な遊びは彼女でもしないらしい。
「我が校の生徒諸君。もう下校時間は過ぎているぞ。なのに私を呼ぶとはよっぽど説教されたいらしい」
「そういう演技はもうなしにしようぜ。僕達はお前を倒しに来たんだ」
「ほう?」
「地球から出て行ってもらうぞ」
「はっ、下っ端の貴様に私を倒せるとでも?」
「僕もお前と同じ観察者だぞ。自分の弱点くらい把握してる。三次元の武器ではお前を倒すのは難しい――が、地球からは出て行ってもらう」
「ほう? いい度胸だ。お前のクソ雑魚ボケカスゴキブリヘッドをぶっ叩いて、思考改変してやろう」
演技の罵倒なのだろうが、ゴキブリヘッドにキレそうになってしまった日ノ下だった。生徒会長もけっこうのりのりで悪役を演じてくれている。
「さっさと始めよう」
下校時刻を過ぎて屋上に残っているのを先生に見つかるのも面倒くさいので、日ノ下は掛け合いもほどほどにしてじゃれ合い開始する。
にっと笑った生徒会長が一気に距離を詰めてくる。それを受けて日ノ下は特に意図もなくファイティングポーズを構えた。
適当にいなそうと雨音の拳を目で追いながら日ノ下は悠長に構える。
雨音は超優秀でも女子だ。あははは、やめろよ~と言いながら受けれるくらいの威力だろう――と思っていた。




