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その少女、黒歴史製造中につき取扱注意!62

 浮雲の家は大きくも小さくもなく、いい意味で住宅街に溶け込んでいた。小さな庭があり、しばふも程よい高さまで伸びているし、植木の植物も手入れが行き届いて青々している。

 庭の石畳を通り、チョコレートの板を思わせるドアの前に立つ。深呼吸を一つしてから、日ノ下はインターホンを押す。

 一、二、三……と居心地の悪い間が流れた。

「……日ノ下」

 スピーカーから籠った声がする。

 インターホンにはカメラが付いており、浮雲がそれを通して日ノ下を見ているのだ。

「ちょっと話がある。いいか?」

「……」

 カメラの向こうで下を向いて考え込む浮雲の姿が脳裏をよぎる。だけれど、彼女がなにを考えているのか、唇を見られない日ノ下にはわかりようがなかった。

「いいよ」

 承諾。

 カップラーメンが一つできる時間を置いて浮雲が出てきた。学校から帰ったのは相当前だが、彼女はまだ制服姿だ。

 浮雲を連れて近くの公園に移動した。最近の公園は規制が厳しくなったせいでずいぶん寂しくなっており、ジャングルジムやシーソーがない。砂場も猫が用を足すのに使うので埋め立てられてしまった。

 コンクリートの山に土管のトンネルを通した遊具があり、その近くにあるベンチに浮雲は腰掛ける。

「浮雲――生徒会長が怖いか?」

『怖い』

「実は僕もなんだ」

 乗る。浮雲の物語の上に完全に乗っかる。その上で都合よく浮雲の物語を書き加え、修正する。浮雲から見た日ノ下の立場を最大限に利用する。

「なにせ生徒会長自身が――地球にいる観察者の最高責任者だからな。僕も目を付けられるのは正直かなわない」

 演技を。

 顔面の筋肉を制御し、心を制御し、浮雲の観察者の像と一致させる。

「僕は地球が、お前が気に入ってるんだ。だから決断した――あいつを地球から排除する」

 一つの形としてラスボスを倒せば物語は終わる。

「どうやって」

「僕らは知っての通り思念体だ。三次元の物理的な干渉は受けないが、弱点はある。僕らはいわば知識の塊――同じ知識の塊をぶつければ、バットで打たれたボールみたいに吹っ飛ぶんだ」

 浮雲の視線を熱いほど感じる。読んだ小説が予想以上に面白く、期待が顔に出てしまったかのような表情だ。

「本で思いっきり殴り飛ばすんだよ。地球に返ってこられないほど遠くの次元へ飛ばすには、バットと同じでただ堅いだけではいけない。知識が詰まって堅苦しいだけの本よりも、喜怒哀楽の感情と人間の知識がほどよく混ざり合っている方がいい。一番丁度いいのは――僕が浮雲と会ったあの日に図書室で取ろうとした本だ」

「もしかして――」

『あの日、他の観察者を倒そうとしていた?』

「そうだな。鬱陶しい観察者が一人いたからな」

 都合がいいので伏線回収っぽいことしておこう。そっちの方が浮雲がさらに乗ってきそうだ。事実、いつもは無表情な浮雲が子供のように顔を輝かせている。

「生徒会長の元に行く前に、浮雲、一つ謝っておかなければいけない」

 浮雲があの日の少女だという確証はまだないが、日ノ下は言ってみる。

「中学の時――困ってた浮雲を無視するつもりはなかったんだ」

「……うん」

 浮雲は頷いた。

 これで確定する。やはり、あの日、日ノ下に助けを求めた少女は浮雲だった。

「本当に悪いと思ってる。今度は力になりたい」

「うん……。ありがと」

 ここまで演技だらけだったが、これは紛れもない日ノ下の言葉だ。これであの日の出来事を清算できたわけではないが、ようやく一歩前進できた。

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