その少女、黒歴史製造中につき取扱注意!61
クラスメイトが目撃した生徒会長の突然変異についてはかん口令が敷かれた。もっとも口止めをせずとも生徒会長があんなダメな人間だったなんて、実際に見なければ誰も信じられないだろうから必要ないのだが。
雨音が荷渡が注いだ紅茶と餌をやるように与えたクッキーを堪能し終えたあと、日ノ下と雨音は場所を屋上に移して話し合う。下校時刻がちゃくちゃくと近づいてきており、太陽が赤く染まり始めている。生徒会長を迎えたデモンストレーションで今日の文化祭に向けての用意は切り上げた。中庭に接する柵に寄りかかると靴箱に同じクラスの生徒が何人も見える。日ノ下の隣でさっきと同じように柵に背中を預ける雨音に日ノ下は言った。
「ダメ押しであんたの多数を取るという理念も利用させてもらうと、これを潰すってのは多くのお客さんの楽しみを潰すことになるぜ」
「ふん、抜かりないようでけっこうだ。あそこで荷渡を利用してくるとは思わなかったぞ」
「条件を聞かせてくれ」
「浮雲の観察者の妄想を終わらせろ。それを持ってして、文化祭が終わった後、生徒達を最悪でも我々の手で元に戻せる保障とする」
「オーケー」
難題だが浮雲の観察者に対する妄想を取り除くのは、日ノ下にとって彼女を戻すためにクリアしなければいけない関門だ。
「では――ふむ、私は貴様のクラスでもう少しくつろいでいよう」
「いや、自分の居場所に帰れよ」
「冷たいな」
「あぁそうだ。生徒会長。浮雲の妄想を終わらせるために協力してもらうが、いいか?」
雨音が首を傾げる。
「私にできることがあるんですか? 構わんぞ。私の胸を貸して上げますよ! あぁ、もちろん嫌らしい意味じゃないが」
「おい、キャラクター混ざってきてるぞ」
「まず、浮雲の家の住所を知ってたら?」
「あぁ、もちろんだ。今から言うからしっかりメモするんだぞ」
生徒会長は浮雲の家の住所を暗記していたようで、すらすらと言ってのける。浮雲を空野河学園の核弾頭に位置付けするくらい警戒しているだけある。単にストーカー気質全開な可能性もあるが。
「ありがとう。助かる」
「ふふっ、気に入った女の子の住所の丸暗記は基本ですよ」
「雨音って呼ぶべきか、天津って呼ぶべきか迷うからキャラ混ぜるのやめてくれって……。あと、もう一つ、お願いがあるんだ」
「なんだ?」
生徒会長にそのお願いを伝えると、生徒会長はなるほどと頷いて了承してくれた。
下準備が整った。
日ノ下は浮雲に会いに行くために学校を出た。下校時刻前で校門へ向かう生徒の中に日ノ下は混じる。その中で日ノ下は鞄を持っていないので場違い感があった。背の高い建物が少ない天野川市。塗装して年月のたったコンクリートを踏みしめながら歩く。
浮雲の妄想を終わらせられるか?
可能性は、一つだけある。
浮雲が日頃から重視していたのはなにか?
物語だ。
物語はいつかは終わる。妄想に囚われる。それは、言い換えれば浮雲自身が作った物語に囚われているのだ。浮雲が捕らわれているのが妄想ではなく物語と置き換えたなら、希望がある。妄想には終わりがないけれど、物語には終わりがあるからだ。
では、具体的にどうやって物語を終わらせるのか?
観察者を地球から追い出すのだ。
観察者が地球からいなくなれば、観察者の物語は続きようがない。終わるのだ。
推測ではあるが、試してみる価値はある。
太陽が山へと近づくにつれさらに赤く染まっていく。山に太陽が半分隠れたところで、浮雲の家に着いた。




