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その少女、黒歴史製造中につき取扱注意!59

 荷渡はカウンセリングを継続する。日ノ下は教室に現在唯一の文化祭実行委員として指示を飛ばす。

 放課後が終わったら一度浮雲の元に行こうと日ノ下は決意した。

 彼女は観察者の妄想に囚われている。生徒会長がそれを利用して、浮雲に脅しをかけたのだ。生徒会長が観察者でないのを証明するか、浮雲の妄想自体を消し去らなければ彼女は文化祭実行委員に戻ろうとはしないだろう。

 教室の教壇の前にイスを置き、クラスメイト達に指示を飛ばす。荷渡のカウンセリングの効果で異様なほどの熱気は引きつつあるが、まだ終わってない人は入れ込み気味だ。カウンセリングが終わったクラスメイトは、そんな人を過去の恥ずかしい自分を見るような目で眺めている。

 まだ治ってない人たちも、これから荷渡のカウンセリングを受けて元に戻ったら、時間の経過が浅いので後で思い出して恥ずかしくなるだけで済むだろう。笑い飛ばせるレベルであり、学校に行きたくなくなるレベルではない。むしろ文化祭がいい思い出になるためのスパイスになるはずだ。

 日ノ下は浮雲から渡されたノートを読む。キャラクターは魅力的なのだけど、実際に演じるとなれば小恥ずかしくなるような設定が並べられていた。ざっくり言えば、日ノ下は浮雲の騎士で浮雲はお姫様だ。日ノ下が演じる騎士は背中に弱点があったり、悪龍を倒すなどと、なんとなくモチーフが伺える。その悪龍から浮雲を救うなど、独自の設定が多く入っているので、モチーフ通りに最後は不幸の中で死ぬわけでないので助かった。最終的に不幸で終わる物語のキャラクターを演じるのは後味が悪い。

 生徒会長は今の僕にとって悪龍みたいなものか――。けど、正しさは悪龍の方が持っているんだよな。

「失礼する」

 そういって教室に入ってきたのは生徒会長だった。

 凛と澄んだ声が、日ノ下にとっては大げさでもなく悪龍が咆哮したように左耳を揺さぶった。右耳がストレスを感知して疼きだす。

「突然だが、君たちが持っているキャラクター設定ノートを一度生徒会に預けて欲しい。内容を確認したい」

 すぐに日ノ下は対応した。

「生徒会長、それはさすがに横暴すぎる。戦時中じゃああるまいし」

「参考に読むだけだ」

「それを検閲って言うんじゃないか。内容によっては後で規制する気だろ」

「後の対処はまだ決めていないが……だめか?」

「……だめだと言ったら?」

「多少強制的にでも借りる」

「それを強奪って言うんだよ。……なぁ会長、その前にクラスの代表として僕と外で少し話さないか」

「構わんよ」

 不穏な空気をこれ以上クラスに広めたくなかった。旧校舎と新校舎を繋ぐ三階の渡り廊下に場所を移す。三階の渡り廊下に天井や壁はなく、橋のように両端に柵があるだけだった。校舎に挟まれていて風当たりが強く、会長のスカートがなびく。

 この人を今止めなければ、さらに介入してくるだろう。浮雲の黒歴史を知ったことで日ノ下を転校させようとしたように、生徒会長は一度やりはじめたら徹底的にやる。物事を測り、少しでも良しとする方に味方する。多数派にとってはこの上ない味方になるが、少数派に対しては冷酷な殺人鬼にすらなる。

 雨音は柵に背中を預けて、足と腕を組んでいる。その姿はカメラがあれば取りたくなるほど様になっているが、彼女をモデルとして見るには今の眼孔は鋭すぎる。剣を構える者と対峙するような緊迫感があった。

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