その少女、黒歴史製造中につき取扱注意!56
翌日の放課後、浮雲は文化祭の準備に参加しなかった。日ノ下は<浮雲は急に体の調子が悪くなった>という風にクラスに説明した。幸いにも彼女の無表情が体調の良し悪しの判別をしにくくしてくれていたので誰も疑念を持たなかった。一日ならこれで誤魔化せるだろうが、二日、三日と続けば疑念が噴出する。
一つ嬉しい誤算なのは、浮雲は文化祭実行委員をやめるとはまだクラスメイトに言ってない。彼女にはまだ未練がある。
……けれど、浮雲は戦うのだろうか。
本人に抗う気がないのに、外野の日ノ下が騒ぎ立てたって意味がない。
日ノ下がクラスメイトに指示を出し準備を進める傍ら、暗黙の内に荷渡はカウンセリングを続けた。彼女とは昨日から話していない。廊下で一度すれ違ったが、荷渡は下を向きっぱなしで顔すら見られなかった。日ノ下も声をかけられなかった。
荷渡との連携が必要な時に、この雰囲気はまずいな……。
浮雲の件はともかく、文化祭の準備自体は順調だった。
教室のインテリア自体は完成しつつある。壁には折り紙で作った飾りが貼られ、カーテンはそっけないミルク色から、レースのひらひらが付いたお洒落なピンクに変わっている。
荷渡のカウンセリングが終わっていない連中は、相変わらず入れ込みすぎる部分もあるのだが、クラスメイトの接客の練習も順調だ。喫茶店で出すための簡単なお菓子や飲み物の出来もようやく出せるレベルになってきた。
このままいけばきっと成功する。その中心に浮雲がいなくてはいけない。彼女の努力と情熱があってこそここまで来れたのだ。
「シロ、ちょっといいか」
「なんだ串刺し候」
「その名で呼ぶな!」
寄ってきた友人の正気度をチェックする。カウンセリング以降良好のようだ。照れを隠すように眼鏡を人差し指でくいっと上げる。
「で、なんだ?」
「あぁ、幼怪――じゃない、荷渡がテストをやってるだろ? あれで本当に衣装が借りられるのか心配でな。これで借りられませんでしたではもう間に合わない」
「それについては心配ない」
「女子にこう言ってはダメなのだろうが、荷渡は俺にとって掴みどころがない不気味なやつなんだ。正直、なに考えているかわからん」
「……だろうな」
否定はしない。荷渡は不気味で関わりたくない類の人間だ。日ノ下も基本的にはその見方は変わらない。
だけれど、過去に屋上で泣いていたのが荷渡日無ならば。
あの時の荷渡が本当の彼女ならば。
表面がどうであれ、根は地元を離れたくなくて泣いてしまうような純粋な女の子なのだ。
あの気味悪いニマニマだって元は作り笑顔だって言っていた。
「貸してもらう立場で厚かましいのは承知なんだが、テストが終わった人から衣装合わせをさせてもらえないか聞いてくれないか?」
「……そうだな。着合わせ考えるのもギリギリになるとまずいしな」
日ノ下と八雲は頷き合う。
「それにしても、よく荷渡と仲良くなれたな」
「残念ながら仲良くなんかなってないぞ」
「放課後、荷渡と一緒に校舎を歩き回ってるのを見かけたって生徒が多いけどな。お前の本命は浮雲じゃないのか?」
「だから本命とかそういう話じゃねえよ!」
「そうか。また何かこそこそやってるわけだな。多少は察しがつくが」
「わからない方が平穏に生きられるぞ。割とまじで」
八雲まで生徒会長のターゲットになってはたまらないので、日ノ下は釘を刺しておく。彼が本気で探りを入れれば浮雲の妄想にたどり着いてしまう可能性がある。
「りょーかいした。なんにせよ、衣装は頼む」
「おう、任せろ」
日ノ下は教室を出て同じ階にある空き教室に向かった。タイミングよくカウンセリングを受けた男子生徒が出てきたところだった。
「な、なぁ日ノ下」と、その生徒に話かけられた。
「なんだ?」
「荷渡ってあんなに可愛かったか?」
「……」
まさか、休日モードで学校に来ているのか?
「きっと疲れてるだけだろ」と、日ノ下は適当にいなし空き教室の前に立った。




