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その少女、黒歴史製造中につき取扱注意!55

「まぁ待ってよ雨音ちゃん。パンデミックに関してはボクがカウンセリングで対処するからさ、そんな強制排除みたいなことをする必要もないんじゃないかな」

「荷渡、問うぞ。それで本当に抑え込めるのか?」

「努力するよ。現に二人正気に戻せたしね。さすがに浮雲ちゃんほどののめり込みはないし、日も浅いから大丈夫だと思うよ」

「荷渡、貴様が努力するよと言うときは、無謀だと知ってなお立ち向かう時だ。二人戻すのにもけっこう苦労したんじゃないのか?」

 痛いところを突かれて荷渡の反論がワンテンポ遅れる。確かに八雲の暴走で手間取った。これに似た事態が、それ以上のこともこれから起こりかねない。その時、今日のようにうまく切り抜けられるとは限らない。それに、そういう事態が多く起これば文化祭の準備にも支障が出る。

「さて――そういうわけだ。荷渡には後処理を手伝ってもらうぞ」

「嫌だよ。ボクはそのやり方には反対だ」

 生徒会からの命令には従順な荷渡が反発したのは日ノ下にとっては意外だった。

「これは命令だ」

「立場上、君が上だってのは理解しているよ。けどね、人は規律だけで動いてるわけじゃないんだ。悪いけどその命令は無視させてもらうよ」

 冷やかな雨音の笑みと、気味悪い荷渡の笑みが互いを威嚇し合う。

「やっぱり荷渡さんは最高です――」と、一瞬雨音は素に戻る。

「けれど、私はこの学校の生徒会長であり、最後の仕事である文化祭は絶対に成功させなくてはいけない。より多くの人に楽しんでもらわらなくてはいけない。だから、私はシンプルに効果的な脅しを試みよう。貴様の秘密をばらすぞ、と」

 荷渡のニマニマが消え去った。必死に気味の悪い笑みを作ろうとしているが、上手くいかずひきつっている。

「雨音――それは卑怯だろ!」

「卑怯と思うなら思えばいい」

 人間だれしも他人に知られたくないことがあり、荷渡も例外ではない。荷渡の秘密を雨音はその手の中に握っているのだ。

「さて、荷渡、答えは?」

 ここでもし荷渡がイエスと答えたらどうなるか。

 日ノ下だけでこの二人を相手どらなければいけない。浮雲を文化祭実行委員に戻し、さらにみんなの黒歴史にならないように文化祭を成功させる。

 正直言って、できる気がしなかった。

 まず、前提になる浮雲の復帰だが、この二人の権力、人脈、行動力――そのすべての力を使われれば浮雲を地に落とす力に抗うことはできない。

 両手を膝の前で握り、荷渡が下唇を噛む。数秒の間があった。息苦しさを感じた日ノ下は唾を飲む。

「……ノーだよ」

「わかった。ではばらそう。日ノ下が聞くのが一番効果的だからよく聞くんだな。荷渡の秘密その一だ。荷渡が<ボク>を使うのはある人物と自分を同一視するためだ。同一視ってのは知ってるな? 自分にとって憧れの人間を真似をして、自分もその人になった気になることだ。憧れのモデルの服装を真似る行為だな。さて、荷渡の同一視の対象だが――それは日ノ下、貴様だ」

「……は? 僕?」

 意味がわからなかったけれど、荷渡は熟れたりんごの赤を上回るほど耳を真っ赤にして下を向いている。信じられないが、雨音の言っているのは事実なのだ。

「なるほど、本当に秘密をばらされても言わないか。まだあるが、これ以上言っても無駄のようだな。なら、私が処理するまでだ」

 プルプルと震える荷渡。生徒会長には幼怪すら敵わない。

「荷渡――その――」

「ごめん、今日は別行動しよう。ボクはカウンセリングをやるからさ、浮雲ちゃんを追いなよ」

 荷渡は逃げるように屋上から校舎に戻っていった。彼女の行動には感謝すべきなのだろう。日ノ下は――荷渡にかける言葉が見つからなかった。

 過去に荷渡と日ノ下は接点がなかった。だから、荷渡が日ノ下に憧れるきっかけができるような出来事なんて――やはりアレなのだろうか? 日ノ下にとっては黒歴史でしかないあの出来事。

「さて、日ノ下」

 雨音の目は、次の獲物に向かって矢を放とうとする狩猟者の目だ。

「正義の味方ごっこをしていた貴様は理解しているだろう? 人の数を天秤にかけて、重い方を取るのが正義だと。貴様が浮雲を守ろうとするなら私は容赦しない。絶対に排除する。まぁ浮雲自身が助かる気が起きないように心を折っておいたから、貴様は貴様の至った結論に埋もれていればいい」

 どこまで知っているんだ――こいつは。

 日ノ下は無意識のうちに一歩下がってしまっていた。決着はついていた。湿りすぎず乾燥しすぎずの心地よい陽気のはずなのに、日ノ下の喉はからからで反撃の言葉を発することすらできない。

 雨音は日ノ下から視線を外すと、優雅に屋上を出ていった。

 それは日ノ下にとってぐうの音すら出ない完全敗北だった。

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