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その少女、黒歴史製造中につき取扱注意!54

 扉をくぐり屋上に出る。青い空にはところどころ白い絵の具を塗ったように雲が浮いていた。屋上を吹き抜ける風に長い黒髪が揺れる。

 生徒会長、雨音遥。

 今日の彼女は髪を降ろしている。挑むように日ノ下は歩み寄る。雨音に近づくにつれ、驚きで日ノ下のあごが落ちていく。一メートル付近に近づいた頃には、立派なアホ面が出来上がっていた。 

 この時、日ノ下ははじめて生徒会長を間近で見た。演説台や教壇に立つときは遠く、まつげや髪の質など、細かい部分はあまりわからない。

 黒く長い髪のつややかさ――それは以前、埃がついて残念だと日ノ下が感じた。

「お前――天津なのか――?」

 天津春香は雨音遥だ。

「よーやく気づきましたか。当然ながらバレても問題ないですけどね。遊びのつもりでしたし」

 雨音は懐から眼鏡をかけて笑って見せる。度が入っていると目の大きさも変わるのか。それに化粧の濃さも違う。生徒会長としての雨音の方が気合が入っている。

 休日の時の荷渡といい、女はこうも印象を変えられるのか、と一種の感動すら思える。

 ようやく荷渡が天津にバレても転校させられないと確信を持って言っていた理由がわかった。天津が生徒会長なら知っていて当然だし、転校はあり得ない。

「なんで変装なんかしてたんだ?」

「チュートリアルのときは私が生徒会長だとわかったらやりにくいかなぁと思ったからです。デパートの時は日ノ下さんのためでなく、浮雲さんのために変装しました。過去にBHEを通じてとはいえ、生徒会長に文化祭実行委員をやめさせられてますからね。だからですよ。そもそも日ノ下さんがあの場に来るとは思ってなかったですしね。それ以外は遊びです」

 眼鏡をかけ、髪をほどいているので化粧の乗り以外は今は天津寄りだ。

「作家ってのは設定か?」

「いえ、あれは本当に本職ですよ。荷渡ちゃんラブも本当です!」

「性格の方を変装してから来いよ!」

「えぇ、私の場合、生徒会長の時は一種の変装をしてますね。心の」

 そうなると人前に出る時は心を、日ノ下の前に出る時は顔を偽っていたことになる。ややこしい。もっとも、生徒会長がロリ系エロ漫画の作家だと知られれば立場がないだろう。隠すのは当然だ。

「ま、素で人前に出たら君の場合は人権すら危ういからね」

 日ノ下の背後から声がした。下の階から浮雲を探していた荷渡がここまでたどり着いたのだ。体力のない彼女は校舎内を駆け回っただけで消耗したらしく、肩で息をしている。

「私って実はとってもデリケートなのに、酷いですねえ。――さて、ここには私は生徒会長としている」

 天津が眼鏡を外し、降ろしていた髪を上げてまとめる。雰囲気ががらりと変わる。

「日ノ下禊、貴様はもう余計なことをするな。私もまさか浮雲が再び文化祭実行委員になるとは思わなかったから、油断していた。楽しい思い出になるはずの文化祭が黒歴史となり、思い出したくないものにするのは、生徒会長として見過ごせない。妄想のパンデミックは――起こさせない。感染源から断つ」

「……妄想のパンデミックが起これば確かに文化祭は恥ずかしくて思い出したくない物になるだろうな。けど、雨音さんのやり方じゃあ浮雲が救われない! あんたのやり方で浮雲が将来<あぁ、楽しい文化祭だったな>って思えるのかよ!?」

「そうだな。浮雲にとっては思い出したくもない文化祭になるだろうな。けどな、浮雲一人とその他クラスメイト大勢。多数決で選ばれて生徒会長になった私がどちらを救うかわかっているだろう? それにな、日ノ下。貴様は私の意見にケチばかりつけるが、ならば浮雲も救ってかつパンデミックを起こさない方法を教えてくれないか」

 生徒会長はどこまでも正しい。日ノ下がのどで言葉をつっかえさせていると、荷渡が先に口を開いた。

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