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その少女、黒歴史製造中につき取扱注意!53

 荷渡のカウンセリングを終えて、八雲と卯月の正気は取り戻せた。長年の付き合いである二人が元に戻って、とりあえず日ノ下は一安心する。とはいっても、二人はプチ黒歴史を作ってしまったようで、なりきった時の出来事を話すのはしばらくNGのようだ。

 浮雲の妄想ノート……人を洗脳するレベル出来なのが恐ろしい。けれど、キャラクターの完成度が高いのも事実で文化祭の成功へ近づく階段になるのは間違いないアイテムだ。いわゆるもろ刃の剣。

 次の人を呼びに教室へ戻ると、先ほどまで指導していた浮雲がいない。

 間近にいた一人に「浮雲はどこ行ったんだ?」と、日ノ下は何の気なしに聞いた。

「浮雲さん、生徒会長に連れていかれたわ」

 日ノ下の頭のてっぺんからつま先まで電流が走った。

 生徒会長が――動いた。予想はしていたが、早すぎるのではなかろうか。

「どこに行くとか言ってなかったか!?」

「さぁ……」

 クラスメイトの反応は芳しくない。日ノ下は飛ぶように教室から出て、すぐに空き教室にいた荷渡に浮雲がいなくなったのを伝える。

「予想外の早さだね――それだけ本気ってことかな」

 荷渡と共に校舎を駆ける。廊下ですれ違った生徒達は何事かと日ノ下達を凝視していた。また噂の一つや二つ立ってしまいそうだが、構っている場合ではない。

「くそっ! どこに行った!」

 日ノ下にとって聴覚的な死角である右隣を走っていた荷渡が何かを喋った。

「なんだ!?」

「分担して探した方が効率的だよ! ボクは下から探すから、日ノ下くんは上から探して!」

 顔を向けたことで左耳が荷渡の言葉を聞き取る。

 荷渡と別れた後、神様のいたずらか浮雲はすぐに見つかった。屋上から階段を降りてきた浮雲にばったり出会ったのだ。

「浮雲!」

 日ノ下は踊り場から浮雲を見上げる。スカートの中が見えそうな危ういところで彼女は立ち止まり、日ノ下をじっと見た。彼女の無表情にもわずかな変化があり、日ノ下は徐々にそれを読み取れるようになっていた。眉の先がわずかに垂れている。それは喜怒哀楽の哀――。

「生徒会長になにか言われたのか?」

「私、やめる」

「あんなやつの言うこと聞かなくていい!」

「観察者には――勝てない」

 もしかして生徒会長は浮雲の妄想を利用したのか?

 自身が観察者であると言い、その特性を利用して浮雲を脅した。

「文化祭実行委員をやったくらいで観察者がうだうだ言うかよ!」

「やめろってあいつは言った。前も――」

 前――?

 あぁ、そうだ。確か中学校の時も浮雲は文化祭実行委員からひきずり落とされたのだ。

 すれ違う浮雲を日ノ下は止めることができなかった。

 浮雲から諦めを感じ取ったのだ。

 本人に抗う気がないのに、日ノ下が結果を変えられるのか?

 自分を助けられるのは自分だけで、抗う気のない人が壁を越えられるのか?

 否だ。できない。

 けれど日ノ下は屋上に目を向ける。扉を出たところに生徒会長がいる。

 僕が行ったところで――意味なんてあるのか?

 他人である僕が。

 一瞬そんな迷いが日ノ下の脳内をよぎったけれど、振り切って階段を上った。

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