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その少女、黒歴史製造中につき取扱注意!52

 荷渡の猛攻がはじまる。

「兎さんメイド設定だったかなぁ? 今のトレンドは一周回って犬だよ。兎は時代遅れだね」

「ほらほら~、ぴょんってやってみてよ。う・さ・ぎ・さ・ん」

「まだうさ耳ないからさぁ、両手を頭に添えてこれが耳だぴょんとかやるのかな?」

 ニマニマ笑いと耳にへばりつくような声が実に鬱陶しい。この幼怪は常々人が嫌がるツボを押さえている。これが効果てきめんでだんだん卯月の顔が赤くなっていき、同時に涙目になっていく。

「あ、あたし……あたし」

 卯月とキャラクターの分離がすでに九割できていた。この調子でいけば他のクラスメイトの洗脳を解くのも意外と容易かもしれない、と思ったその時。

「卯月ィ! 無事か!? 助けに来たぞ!」

 突然教室のドアが大きな音を立てて開いた。

「ご主人様!」

 串刺し候八雲が白馬の王子様のように登場。彼は卯月が危機に陥ったら助ける役目を負っている。そういう設定のキャラに現在進行で入れ込んでいる。そういえば、さっき教室に八雲がいなかった。もしかして、幼怪に卯月をさらわれたと捻じれた勘違いをしたのではないか。

 だとすると非常にまずい。

「ま、待て八雲。話し合おう」

 ……八雲が大変危険な人物になっているのを日ノ下は知っている。なにせ彼は串刺し候なのだから。普段の理性的な親友を相手にする感覚で接したら間違いなく痛い目をみる。腹をすかせた吸血鬼を相手にするように、慎重に。

 日ノ下は冷や汗を流しながら椅子に座ったまま制止する。

「こらこら、入ってきたらだめだよ。悪いけど、出て行ってもらうよ。テストの真っ最中なんだから」

 つかつかと入ってくる八雲に対し、迎え撃つように荷渡が立ち上がる。幼怪はいつも通り心理戦で迎え撃つつもりだ。

「荷渡、立つな!」

「え?」

 立ち上がった荷渡に対し、八雲が右頬を引き上げたのがわかった。彼は一気に距離を詰めてくる。日ノ下はとっさに立ち上がって手を伸ばし、荷渡の首襟を掴み無理やり座らせる。

「ッ!?」

 荷渡は上手く椅子に戻った。が――、イスから腰を上げた日ノ下は反動でバランスを崩して前のめりになってしまう。

 座らなければ、座らなければ――。

 彼の両手が串刺し候たる所以をしるしている。

 かんちょうの形。串刺し候を怒らせたクラスメイトが何度あれの餌食になったか。

 日ノ下の意志とは関係なくヘッドスライディングする様に八雲の前に出てしまう。

「我の前にそのような醜態を晒すとはな!」

「今のお前のキャラの方が僕からしたらよっぽど醜態だからな!?」

 もっとかっこいい串刺し候になりきれよ!? いや、実際に槍で串刺しにされたら洒落にならないけどさ! 武器がないとはいえかんちょうはないだろ!

「我を愚弄するか! 許せん! 串刺し候たる所以、見せてやる! 成敗!」

「アッー!」

 情けない声を上げた日ノ下だったが、いつまでたっても痛みは来ない。荷渡が八雲を止めてくれたのか? いや、それはないと思うのだが……。彼女は非力で八雲を止めるほどの力を持っていない。つい瞑ってしまった目を開いて後ろを見る。

 結論をいえば、止めたのは荷渡だった。

 荷渡の足のつま先が八雲の股間を的確にとらえている――。

「あば……ば……」

 普段の八雲からは絶対に聞けない悶絶。

「いやぁ、やっぱり痛いんだねえここ。日ノ下くんも前痛そうだったしね。お父さんにもし男に襲われたらここを狙えって言われてたけど、効果てきめんだね」

「た、助かったが、えげつない痛みだからな。それ」

「ボクの純潔を奪おうとした罪だよ」

 八雲は教室の床に倒れビクンビクン痙攣している。相当強く蹴られたようだ。

「ご主人様ぁ!!」

「さて、邪魔者はいなくなったことだし、まずは卯月ちゃんの羞恥心を取り戻して、次に八雲くんを調教しよう」

 幼怪の気味悪い笑みが守ってくれる者を失った卯月を捉えたのだった。





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