その少女、黒歴史製造中につき取扱注意!51
「で、その時はどうやって解決したんだ?」
「その時も浮雲ちゃんは文化祭実行委員になってたんだけどね、引きずり下ろしたさ。そのころボクはBHEの存在は知らなかったけど、たまたま浮雲ちゃんと同じクラスだったから、突然、彼女が文化祭実行委員を辞退したのを知ってるんだ。理由も不確かで不自然さがあったね。本来影に徹するべきBHEが不自然さを出してしまうくらいに焦ってたんだ」
「荷渡――お前が教室に行くのって」
「そう怖い顔しないの。ボクはクラスのみんなのカウンセリングに行くだけさ。浮雲ちゃんを文化祭実行委員から引きずり落としたりはしないよ。ボクより――生徒会長に気を付けた方がいいね。妄想が伝播したと分かれば、間違いなく浮雲ちゃんを降ろしにくる。ま、そうなる前にボクのカウンセリングで収まればいいんだけどね」
「僕も手伝う」
「ずいぶんと積極的になったね。もちろん歓迎するよ。その前に、大丈夫そうだけど、君は正気かな?」
「あぁ、確かに浮雲のキャラクターは魅力的だが、演じるのは楽しいが――正直恥ずかしい」
「ん、大丈夫そうだね。正義の味方ごっこっていう君にとっての黒歴史がクッションになってるみたいだ。正義の味方ごっこ――それはすなわち正義の味方を演じるわけだ。昔の君は本気で演じて痛い目見てるようだからね」
「そんなもんで耐性ができるのか……?」
「屁理屈だよ」
「だと思った。どうやってみんなを正気にもどすつもりなんだ?」
「簡単だよ。恥ずかしさを取り戻させるんだ」
日ノ下は荷渡と共にクラスメイトが準備を行う教室に戻った。日ノ下たちの教室である2-2の教室のドアを潜る。
「……よ、幼怪」と、荷渡を発見した卯月が声を上げ、それを聞いた浮雲が臨戦態勢に入った。
「妖怪だなんて失礼しちゃうよね、まったく」と、荷渡が肩をすくめる。妖怪が幼怪であるのに気づいているかは、日ノ下にはわからない。
クラスメイト全員が荷渡に注目している。それは教室に突然放り込まれたヘビを見るような目つきだった。とにかく誤解を解いておかなければ。
「みんな、荷渡が来てくれたのはコスプレ喫茶の協力のためだ。荷渡は僕たちに衣装を貸してくれる。ただ、衣装に相応しい人材か否かチェックするというのが条件だ。だから、僕が言う順に一人ずつテストに付き合ってくれないか」
「へぇ、ペテン師みたいな真似できるんだ」と、荷渡が呟くのが聞こえた。
カウンセリングには予備の机を置く場所になっている空き教室を使う。最初に呼んだのは卯月だ。彼女が与えられた役割は――串刺し候と呼ばれる吸血鬼の八雲に仕えるメイドだ。満月の日に兎の化物は、その真の姿を現す。卯月と八雲ははじめこそ性格の相違からすれ違っていたが、じょじょに仲良くなった。みたいな設定があるようだ。
卯月の前に日ノ下と荷渡が座る。カウンセリングをするときのお馴染みの配置になっている。
「は、早く終わらせてください。ご主人様が待っているんです……」
準備を重ねるごとに妄想が精神に食い込んでいく。今では八雲のことを文化祭の練習中関係なく、ご主人様と呼ぶまでになっている。浮雲はフロアに出る人間全員に設定ノートを渡した。一冊一冊、全員がドン引きするくらいキャラクターを掘り下げられている。それが出来がいいのでバカにする人は全くでなかった。
しかし、魅力的なキャラクターは時に人間に多大な影響を与える。小説や漫画、映画の影響を受けて、喋り方や仕草を真似るなんてのはよくある。今キャラクターに入れ込んでいる卯月はそれが強力に作用した状態だ。
「今時ご主人様って。うぷぷ、恥ずかしいと思わないの?」
「は、恥ずかしいわけがです! あたしは誇り高き串刺し候のメイドです!」
恥ずかしさを取り戻す。
自分が演じるキャラクターになりきるのは大いに結構だが、飲み込まれるのはまずい。自分とキャラクター、互いの個性の間に恥じらいを挟み、クッションにする。
プロがやるような演技には恥じらいは必要ない。だが、文化祭レベルならば、恥じらいを挟みながらでもやればいい。キャラクターの個性に飲み込まれるよりはマシだ。




