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その少女、黒歴史製造中につき取扱注意!50

「寝不足か?」

「なになに? クマが濃くなったとかボクの些細な変化に気づいてくれるの? いやぁ、嬉しいねえ」

「茶化すなよ。何かあったのか?」

「んーそうだね。文化祭の時期はただでさえBHEの仕事が増えるのに休む人がいるからねえ。誰とは言わないけど」

 もろに嫌味を言われた。意図的にさぼっていたとはいえ、申し訳なさはあった。

「というか、荷渡は文化祭の準備とかないのかよ。お前のクラス、映画を撮るって聞いたぞ」

「ボクは最序盤に出てくるお調子者カップルを食い殺すゾンビ役でね。もう役目は果たしたよ。上手かったみたいでみんなに絶賛されたね。怖すぎて気絶する女の子が出るくらいだったよ。いやぁ、ボクって天才だね」

 この幼怪は女子のプライドを全てかなぐり捨てているのではないだろうか。本人は満足気なので日ノ下は「よ、よかったな」と無難な受けごたえをしておく。

「呼び出しがなかったな。珍しく」

「どうせボクといるより浮雲ちゃんといる方が楽しいだろうからね。ふーんだ」

「……別にそういうわけじゃない」

「ほほー、ならボクといても楽しいわけだね。よし、今日はBHEの活動をしようか」

「やっぱりそういう流れに持っていくんだよな。あぁ、わかったよ」

「おや、ずいぶんすんなりだね。嫌がる日ノ下くんを脅して連れていく楽しみがなくなちゃったよ」

「ほんといい趣味してんなてめえ。……僕が活動を手伝う対価が欲しい。ここのロッカーに入ってる衣装を貸してくれないか」

「あれあれ? BHEの活動をするのに対価を求めるのはおかしいね。あとロッカーにあるのは、歴代のBHEの男女の偏りが女子に寄ってるから女物が多くて日ノ下くんが着られるのは少ないよ。……もしかして女装に目覚めた? コミケにでも行くにしてもまだ早いよ?」

「ちげえよ! クラスの出し物でコスプレ喫茶やることになったんだ。衣装が不足してるんだよ」

「知ってたけど」

「……」

「ま、衣装を貸すのは構わないさ。で、だ日ノ下くん。ボクはちょうど今から君のクラスに行くところだったんだ」

 ニマァっと笑う荷渡に、ムカデが背中を張うような気味悪さと嫌な予感を覚える。

「おやおやぁ? なにか思い当たる節があるみたいだね?」

 教室に漂う異様な熱気――。キャラクターにのめり込みすぎるクラスメイト――。

「僕のクラスメイトが、関係あるのか」

「うん、そうだね。今のクラスメイトの様子を日ノ下くんが言い表すとしたら?」

 日ノ下はクラスメイトの様子を頭の中で思い描く。猫の妖怪になりきって招き猫の真似をし出す女子、「我こそは踊り狂う暴風雨!」などと言いながら渡り廊下を駆ける男子、「日ノ下って意外とかわいいよな。俺、両性具有だからいけるぞ」とか言い出すバイセクシャル。

「……妄想に憑りつかれたみたいだ」

「そう。実に的を射てるね。信じられないかもしれないけど、日ノ下くんのクラスで起こってるのはいわば妄想の伝播――いわば感染病みたいな物だね。日ノ下くんはかかってないみたいだね」

「ありえないだろ」

 妄想が移るなんて。

 だけれど、言葉とは裏腹に日ノ下は認めてしまっていた。浮雲に与えられた役割を演じた時の高揚感。魅力的なキャラクターに引き込まれるような感覚。あれは確かに中毒性がある。

「ま、信じろって方が無理だね。中学校の頃に浮雲ちゃんを積極的に人と接するように促してみたようなんだ。そしたら、文化祭で同じことが起きた。だから浮雲ちゃんはできるだけ人と接しない方向で保護観察することにしたのさ」

「そういうことは先に言って欲しかった……」

「いやね、二年もたったから浮雲ちゃんの性質が変わったかもしれないって思ったし、何より今回は日ノ下くん――君がいたから違う結果になるかと思ったんだよ」

「なんで僕がいたら変わるんだよ」

「君がヒーローだからだよ」

「バカなこと言うなよ。過大評価もいいとこだ」

「いいや、ヒーローだね」

「ちーがーう」

「ちーがーわーなーい」

 なぜか荷渡はむきになって言い返してくる。

 認めたわけでなく、無駄なつばぜり合いだと悟り日ノ下から身を引いた。


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