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第7話「DUPG」

本作に登場する組織・人物はすべて架空のものです。



「本題に入る前に、まずは先程やってきた男の正体について説明しましょう。」


そう言いながら、ヒビキはノートと鉛筆を配っていく。これ、家に置いてきたノートと鉛筆じゃないか。どうやって取ってきた?不法侵入?まあどうせ神象なんだろうけど。なんだかヒビキのとんでもなさと神象のなんでもありさには慣れてきた。


「非常に重要なことですから、よぉく頭に入れておくように。」


そう言いながら、ヒビキはホワイトボードに文字を書いていく。


ドイツ陸軍特殊部隊 Kommando Numinose Kräfte(略称:KNK)

・ドイツ軍の特殊部隊

・世界各地で神象が発現する度に現れる

・目的:依代の確保、依代の軍事的利用


「コンマ……?」

「『コマンド・ヌミノーゼ・クラフト』と読みます。意味としては、『対神象部隊』といったところでしょうか。ですが、略称で呼ぶことがほとんどなので、そちらを覚える方が良いかと。」

「軍事的利用って、さっき言ってた兵器にされるってことですか?」

「さすが坂本さん、鋭い指摘ですね。その通りです。KNKは神象を制御できるであろう依代をスカウトしては軍人にし、さらに特殊な訓練で神象を兵器として利用できるように仕上げるのです。こうなれば、もう普通の生活には戻れない。」

「神象には代償があるからですよね。」


私は神象に関する自論をヒビキに投げかける。すると、にこやかなヒビキの目が鋭く光る。


「なぜそう思うのですか?」

「あの戦闘以来、私は昔の記憶が朧気になった。たーは関わった人間が悪い選択をし始め、めーは自分に縁のある物や人が離れていった。じゃあ、とーはどうか?なんともない。私たちととーの違いは何か?それは神象を発現しているかしていないか。発現した私たちは最近変なことが起こり始めたけど、とーには何もない。ならば、神象には代償がつきものであるという結論になります。違いますか?」


しばしヒビキと見つめ合う時間が流れる。相変わらずニコニコしているが、どこか「気づかれたか…」という雰囲気を醸し出している。これはやはり……


「……坂本さん、あなたは本当に鋭い御方だ。ええ、おっしゃる通りです。」


あっさり認めたのは意外だったが、私の推測は当たっていた。最悪だ。怒りからか、めーがガタンッと席から立ち上がって言う。


「えっ!?最近の不運、神象のせいってこと!?なんでそんなこと隠してたの!!」

「だって……それを知るとあなた方逃げるでしょう?拒否するでしょう?だからです。」


にこやかに自分の都合で私たちの神象を無理矢理発現させたことを白状する。反省すらしていないその態度は、さながらマッドサイエンティストを彷彿とさせる。人をイラつかせる天才だな。1周回って頭が冷えてきた。


「あんたの都合のためにオレたちの生活がめちゃくちゃになったんだぞ!!責任取れよ!!」

「取りますよ?だから、こうして神象コントロールアカデミーを開いているんじゃないですか。」

「〜〜!!」


みんな怒り心頭だ。そりゃそうだ。大事にしてたものが手からこぼれ落ちていく。あの感触は味わいたくはないものだ。記憶なんて特に。失ったら取り返しがつかない。いつ忘れてしまったことで責められる日が来るか。そう考えるだけで憂鬱だ。そう思いにふけていると、ふと、ある疑問が湧いた。


「ヒビキさんも依代ですよね。頻繁に神象を使っている印象があるんですけど、代償は何なんですか?」

「私ですか?……どうでしょうか。あなたはどう思いますか?」


はぐらかされている。けど、ヒビキが依代なのは確定した。「どう思う?」と聞く時点で「私は依代です」と言っているものだ。


「あんたの代償は人の心がなくなることじゃないの?で、あたしたちはその被害者。」

「ふふふ。そうかもしれませんね。」

「否定も肯定もしないってことか...」

「何にも教える気がねぇなこいつ...!」

「神象については教えますよ?では、より詳しく神象について説明していきましょう。重なる部分もあり、長くなってしまいますが、ついてきてくださいね。」


神象の共通ルール

・神との接点あり

→自覚がないことがほとんど

・感情が強く表れると発現する

・神象の内容は本人の望みに応じたもの

→しかし、それが最善とは限らない

・強力な神象ほど、制御するのが難しい

・神象の発現には、必ず代償がつきもの

→どんな代償かは人それぞれ

・一度発現した神象はなかったことにはならない


……どれも怖い内容のものばかりだ。最悪過ぎる。なんてことに私たちは巻き込まれたんだ。


「……ルール多くない?オレ、こんなに覚えられないよ?」

「だからこそのノートです。写してくださいね。」

「神象が最悪ってことがよくわかった。」

「俺はどうなるんだろうな...」

「発現しないことが一番。とー、何かあったら私たちにすぐに言うんだよ。」

「さあ、絶望しているあなたたちに朗報です。制御はもちろん、代償についても、あなたたちの場合はどうにかなる可能性があります。」


それは本当だろうか。胡散臭い。何か裏があるに違いない。みんなもそう思っているようだ。そうだよな。こいつはいつも重要なことを言わないからな。


「まず、質問です。あなたたちの人生はいつからうまくいくようになりましたか?」

「……私は小6になってからですかね。友達できたし、体調も安定するようになったし。」

「え!あたしも!一緒じゃーん!運命かも?」

「オレもー!バンド組むっていう夢叶ったし!」

「俺もかな。特撮好きなのバカにしないでつきあってくれるし。」


うんうんと聞きながら、ヒビキは続けて私たちに問いかける。


「では、どうして人生がうまくいくようになったと思いますか?」

「私の場合は、みんなに出会えたからですかね。今までの友達は長続きしなかったので。初めての経験ばかりでした。」

「嬉しいこと言ってくれるじゃん!あたしもみーに出会えて良かったよ〜!この3人以外みーんなあたしの声をバカにしてくるから、なかなか友達できないんだよね。」

「オレ、なかなか友達になろう!って言えないからさ、友達関連全部めー頼りだったな...」

「あたしに感謝しろよ。」

「これからもよろしくお願いします。」

「俺もめーがきっかけですね。それでみんなに会えた。」

「そこは自覚があるんですね。感心感心。」


なぜかヒビキが満足気だ。ムカつくな。おそらく、めーの神象は縁に関することだから、それが関係しているんだろう。


「坂本さんが思っている通り、あなた方の場合、馬場さんがキーパーソンです。」


私の思考が読まれていた。ヒビキのドヤ顔に腹が立つ。


「あたし?」

「基本的に神は依代を1人だけ作る傾向にあります。ですが、《とある神》はなんと4人も依代を作ってしまいました。すると、なんということか、依代の力も分配され、その分、依代の力、要するに神象の威力も落ちることとなってしました。」

「...なるほど?」

「ちなみに、《とある神》が作り出す依代は非常に強力な神象を発現し、制御できずに暴走して死ぬ傾向にあります。……これが意味することはわかりますね?」

「人間の手に負えない程の強大な力が、4人に分配されることで、人間でも扱える可能性のある力になったということですね。」

「みー、賢いな。オレさっきから何もわかってない。」

「あとでまた教える。」

「それとあたし、何が関係あんの?」


ヒビキは得意気に私たちを指さして言う。


「このことを踏まえると、あなた方はもともと4人で1人の依代だと言える。だから、各個人だけでは人生うまくいかなかったのです。では、その分かれた依代たちを再び集めたのは誰か?馬場さんです。あなたはつながりを担当する依代ですから。自分という存在が分かれてしまったら、元に戻ろうとするのが自然です。」

「だからって、代償で自分のつながり消えるの?最悪じゃない?」

「それが神象です。」


めーは納得がいっていないようだ。でも、ヒビキはそれを無視して今度はたーに向かって話しかけた。


「そして、見たところ……前川さんは選択を担当する依代ですね。」

「え?オレ、びっくりするぐらいの優柔不断だよ?間違ってない??」

「確かにあなたは優柔不断です。優柔不断ですが、あなたの出した選択肢に皆さんが乗っているので、あなたが選択を担当する依代だと言えると思うんです。自分で自信を持って選択できるようになると化けますね。」

「おお……オレには伸び代があると。なんかテンション上がってきた。」


単純なところがあるたーはなぜか喜び始めた。それを横目にヒビキは今度はとーに向かって話しかける。


「そして……中山さん。まだ神象が発現していないので不確かではありますが、おそらく均衡を担当する依代ですね。いわゆるサポーター、縁の下の力持ちです。それならば、戦闘時に神象が発現しなかったのにも納得がいきます。」

「ここでも俺はサポート役なのか...」

「サポート役は大事ですよ?気に病む必要はありません。」


ついにヒビキと目が合う。最後は私か。


「そして最後に、坂本さん。あなたは間違いなく力を担当する依代ですね。だから、あなたが揃うまで神象が起こる気配がなかった。それにしても、あの神象の爆発力には驚きました。この中では一番制御するのに苦労するでしょうが、頑張りましょう。」

「私が最後のピースだったってことですね。なるほどな...」




とりあえず私たちは4人でひとつってことがよくわかった。だからなのかな、4人でいると落ち着く。たーとめーがギャーギャー騒いでて、それを私ととーが諌める。いつもの光景だけど、私はそれが好き。神象やら依代やらがきっかけだとしても、みんなと一緒にいることを選んだのは私自身だ。誰がなんと言おうとも。そこに神は関係ない。


「そうそう、神象には種類がありまして、主に3つのタイプに分けられるんです。こちらも書きますので、覚えてくださいね。」


神象の分類

・干渉型:本人以外の周囲(人や物問わず)に効果を及ぼす

→特徴:外部に影響を与えるので、戦闘向きなものが多い

・加護型:本人にのみ効果を及ぼす

→特徴:防御や治癒、何かしらの補正の効果があるので、一番厄介なタイプ

・存在型:「自分の存在そのもの」のあり方が変化する

→特徴:常時発現しており、不可逆性がある

・複合型:以上3つのタイプが合わさっている

→特徴:複雑で強力な神象であることが多い


「説明長いよー……オレもうわかんねぇよー……」

「たー、座学本当に苦手だな……そこ乗り越えないとスティールマンになれないぞ。」

「そうなんだけどさぁ!」

「私は明らかに干渉型ですね。あらゆるもの爆発したって聞いたし。」

「そうですね。私の見立てでは……まあ、皆さん全員干渉型じゃないでしょうか。ちなみに、干渉型が1番普遍的なタイプになります。」

「あのさぁ!」


めーが声を上げる。ちょっと不機嫌だ。


「話がコロコロ変わって流れてたけど、あたしたちの場合、神象の代償はどうにかなるって言ってたよね。それはどうなの?どうしたら代償はなくなるの?」

「さあ?私にはわかりませんね。本人たちがいろいろ試してみることが大切だと思うので、ぜひ思いついたことを実践してみてください。」

「はぁ〜……もう…最悪…」


ヒビキからにこやかに突き放されためーは頭を抱える。そりゃ落ち込むだろうな。どの代償も嫌だけど、この中で一番生活に困る代償だもんな。たーはキャパオーバーになってて、とーに教えてもらってる。絶対わかってないな。後日また説明しよう。それにしても、私は攻撃特化か。何かあったときは積極的に前に出る方が良さそうだな。制御できればだけど。




「はい。神象については以上となります。……そうですね、最後にKNKと並ぶ、もしくはそれ以上の脅威についても説明しておきましょうか。」

「もしその脅威とやらがボクたちのことを示しているのならば、ボクが代わりに説明してあげよう!」

「!?」


誰だ!?さっきまでここにいるのはヒビキと私たちだけだったはずだ!急に現れた人物...人物......なのか?そいつの見た目はまるでゆるふわ日常系アニメから飛び出してきたような2次元の絵柄だ。2DCGってやつだ。黄緑のツインテールが高らかに揺れる。目はピンクで瞳孔がハート、ハイライトが花。輪郭線もあり、白を基調とした、白衣とロリータを掛け合わせたような服装をしている。ところどころピンクをあしらっているけど……博士キャラか?声質は可愛らしいけれど力強さのあるもので、口調も相まって演説を聞いているみたいだ。きちんとしたキャラデザだな...って考えている場合じゃない。ここの時空が歪んだのか?


「...これは私だけに見える幻覚だったりしない?」

「いやいやいや、あたしにも見えてる。何何何!?」

「え!?アニメ!?なんかこんなアニメあったか!?」

「俺は知らないな。どこかにホログラムが出る装置が仕掛けられてるのか?」


さすがのヒビキも理解が追いついてないようだ。めちゃくちゃ警戒してる。予想外のお客様と言ったところか。


「...ここは決まった人しか立ち寄れないはずですが。どうやって?何が目的で

「細かいことは気にしないでくれたまえ!ホワイトボードを借りるよ!」


☆DUPGって何?

DUPG=Decide Using the Power of God

→意味:神の力で神を倒す者

→目的:神象という歪みから人々を救おう!そのためには神の力も使っちゃうよ!


「大まかに説明すると、こうなるね!ぜひノートにとってくれ!」

「『救う』だなんて綺麗事をよく堂々と言えますね。あなたたちの活動のどこに『救い』があるというのですか。白々しい。...改めて聞きますが、何しに来たんです?」


ヒビキが鋭い眼光で相手を睨む。怒っているヒビキ、今日だけで2回目だ。新鮮だが、実際はそれどころではない状況なんだろう。でも、相手の見た目が見た目だから緊張感があまりない。たーに至っては目がキラキラしてる。なんだかめーの目もキラキラし始めたな。可愛いの好きだもんな。とーと目を合わせる。私たちはちゃんと警戒しておこう。彼女の目を見れば只者ではないことはわかる。可愛らしさの中に包まれていてわかりづらいが、瞳孔が開き切っていてガンギマリだ。やたらとハイテンションなのも気になる。本当になんなんだ、こいつは。


「もちろんスカウトだよ!KNKに先を越されてしまったとお上に怒られてしまってね、急いで来たんだ!ボクの目的としてはそこの4人だが、君もどうかね?」

「お断りします。彼らも入れさせません。『神を殺す』という大義名分のためにモルモットになるだけでしょう?」

「モルモットか!言えてるね!でも安心したまえ!研究に協力してもらうだけで殺すような真似はしないとも!ボクらの目的は『依代』ではなく『神自身』だ。それに、研究を通して、己の神象について深く知れるし、対策も練れる。悪い話ではないと思うが?」


研究。怪し過ぎる。殺しはしないとか言うが、あれは本当か?実験には失敗がつきものだ。死ぬ可能性も大いにある。うまい話には裏があるのが定番だ。現段階では、まだヒビキの方がマシだ。今後評価は変わるかもしれないが。


「私たちもお断りします。研究に使われるのはごめんなので。」

「そうだそうだ!あたしたちに構うな!」

「自分たちのことは自分たちでどうにかします。」

「オレたちだって研究ぐらいできるからな!」

「そうかね...残念だ。お上からは怒られてしまうが、仕方のないことだろう。無理矢理なことはしたくないからね。でもまあ、また誘うよ!ではまた!」

「はい、さようなら。二度と顔を見せないでください。」


瞬きひとつ。すると、彼女はいなくなっていた。瞬間移動ができるのは厄介だ。知らぬ間に接触される可能性が大いにある。気をつけよう。それにしても、台風の目のような人だったな……人なのか自信はないが。嵐が過ぎ去ってひとまず安心だ。とにかくわかったことは、私たちは世界中から目をつけられているということ。入学式のときのあの視線も、私たちのことを観察していたんだろう。


「……私の予想を大幅に超えて、世界に見つかるのが早かったですね。坂本さんの神象が想像以上の威力でしたから……私の見積もりが甘かったということでしょうか。」


ヒビキの声のトーンが低めだ。ため息もついている。どうやら先程の相手は見た目に反して相当やばい相手だったようだ。それにしても、今日のヒビキは感情豊かだな。今は焦っているようだ。




パンッとヒビキは手を叩いて、私たちに笑いかける。


「皆さん、今日はここまでです。1人ずつ出口から出てください。私が家まで送ります。そして明日、放課後で構わないので必ずまた来てください。死にたくないでしょう?身を守る手段を早急に身につける必要が出てきましたから、明日から本格的に訓練しますよ。」


そう言いながら、ヒビキは相変わらず無理矢理私たちを1人ずつ出口に押しやる。出口から出ると、そこはもう家の玄関だった。


「おかえりー!今日は美咲の好きなオムライスにしたから、早く手を洗っておいで!」


母が出迎えてくれる。父はきっとリビングで私の帰りを待っているんだろう。鍵を閉めて家の中に入る。晩ご飯を食べた後、BONDで緊急会議を開こう。みんな嫌がるかもしれないが、明日は絶対にヒビキのところに行かないと。今日一日で身を守る手段が必要だと痛感した。




そして次の日、学校帰りに私たちは神象コントロールアカデミーのある雑居ビル前に来た。嫌がるたーをみんなで連れていくのは大変だった。確かに怖い思いしまくったけど、これ以上後手に回るとまずい。


「はい。きちんと来ましたね。偉いですよ。褒めちゃいます。」


またヒビキがいつの間にか現れ、私たちの頭を撫でる。


「やめろよ!」

「おやおや、思春期ですか?」

「何なんだよ!違ぇよ!」


たーとヒビキが揉めている。うるさい。


「ではでは、本題に入りましょう。まずは教室へ。」


ヒビキにグイグイ背中を押されて教室に向かう。どんな訓練になるのだろうか。また制御できなかったらどうしよう。不安は残るが、何もしないままでいるよりはマシだ。恐怖を押し込み、私は訓練に臨む。それでも脳裏にはあのときの感情の爆発がチラつく。本当に制御できるようになるのだろうか。


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