第6話「KNK」
本作に登場する組織・人物はすべて架空のものです。
4月を迎え、私たちは中学生になった。知らない人たちばかりでドキドキしたけど、いつものメンバーは全員同じクラスになっていた。良かった。でも、苗字が『さ』から始まる私は、あいうえお順でみんなから離れた席になった。他のみんなは近くていいな。友達できるかな。そう不安がっていると、明るい声が響く。
「坂本さん!久しぶり!私も転校してこっちに来てたの!同じクラスだったんだね!知ってる人がいて良かった〜!」
急に話しかけられて頭が真っ白になる。どうやら知り合いのようだが…………まずい。彼女が誰だか皆目見当もつかない。新学期早々大ピンチだ。とりあえず愛想笑いで乗り越えよう。
「……久しぶり。私も安心した。席近いんだね。」
「そうそう!だって苗字近かったでしょ?もう!忘れちゃったの?」
『忘れちゃった』……その言葉が頭から離れない。でも、少しだが思い出したことがある。確か……その子は私が転校する前にいた小学校の子だ。そんなに話したことはないけど、遊んだこともある。でも、誰かが思い出せない。清々しい程に綺麗さっぱり忘れている。私はこんなに忘れっぽかったか?愛想笑いが次第に崩れていく。
「まあ……あんまり絡んだことなかったからしょうがないか。私、笹井桃子。改めてよろしくね〜!」
「うん、よろしく。」
ひとまず乗り越えたけど、申し訳なさで胸がいっぱいだ。内心怒っているのかもしれない。こういうとき、人の本音がわからなくて良かったと思う。それにしても、記憶がこんなに霧に包まれたような感じになったのはいつからだ?心当たりとすれば、あのときの戦闘だろう。私はあのとき、強い感情を抱いて神象を発現した。……もしかして、神象には代償があるのでは?神や強大な力に関して代償がついてくるのはよくある話だ。……嫌な予感がする。急ぎ、みんなにも確認を取らねば。その後、ヒビキのところに行って問いただそう。素直に教えてもらえるとは思えないが。
先生が入ってきた。入学式が始まる。
「対象が移動するみたいだ。」
パソコンで監視カメラの映像を見ていたレオが言う。
「そうですか。引き続き監視を続けてください。」
「Alles klar!」(了解!)
入学式が始まるんですかね。移動するということはそういうことだと思って良さそうです。
「ノア、そちらの様子はどうですか。そろそろ対象が来ますよ。」
「問題なし。場所も保護者席だけど最前を陣取れてる。見晴らしも問題ない。周りは一般人ばかりであいつらは来てなさそう。」
「ミリアムは。」
「こちらも問題なし。教師陣の中に紛れ込めてる。生徒席がよく見えるから観察にはうってつき。それと、ノアの言う通り、ここにヤツらはいない。」
「そうですか。レオ、対象の位置は?」
「階段降りてるね。もうそろそろ体育館に着くんじゃないかな。」
「では、ノア、ミリアム。あとはよろしくお願いしますね。」
「任せて。」
「Verstanden.」(了解。)
校内には何も知らない一般市民と我々だけ。良い条件です。
「ベンノ!わたしはどうすれば...」
「イレーネはそのまま怪しい人物が正門から校内に出入りしないか見張っていてください。間違っていてもかまわないので、少しでも怪しいと思ったら報告を。」
「わかった。」
「ハインツも引き続き、裏門の見張りとイレーネのサポートをよろしくお願いしますね。」
「Komme.」(了解。)
さて、少しでも依代に関する情報を得られれば良いのですが。
入学式が終わった。自意識過剰かもしれないが、私のことをずっと誰かが見ていた気がする。中学校って怖いな。早速誰かに目をつけられたのかもしれない。気をつけよう。
入学式の後、みんなで帰路に着く。私の両親もドキドキしてたみたいだ。今は、いつものメンバーで集まっているから安心しきっている。ママ友パパ友に分かれて談笑している。
「入学式の時、すっっっごい誰かに見られてたんだけど、オレだけ?」
「私も視線感じてた。」
「俺も。もしかして、ここの中学校って治安悪いのか?」
「そんな噂聞かなかったけどな……ってそうそう!聞いてよ!」
めーが怒りつつも困った様子で話してくる。
「最近、物を失くすことが増えたの!使おうと思ってメモ帳を置いた場所を見たら、ない。お気に入りの服を着ようと思ってクローゼット探したら、ない!確実に家にあるはずなのにどれも見当たらなくてさ!しかも、昔の友達がどんどんBONDをブロックしてくんの!どうして!?あたし何もしてないんだけど!」
「それなら、オレも最近周りの友達の振る舞いっていうの?そういうのがさ、悪くなってきたんだよ!」
「ヤンキーみたいなやつが言うことか?めーもだけど、入学直後にその格好はないだろ。明らかに不良だぞ。だから、視線も感じてたんじゃないのか?」
「視線についてはそういう視線じゃなかったんだよ!オレにはわかる!…じゃなくて!」
たーが私たちの前に出てきて訴える。
「オレたち硬派でいようなって言ってたのに、犯罪に走るやつが出てきたんだよ!あんなことするやつじゃなかったのに!森本!めー!森本知ってるよな!?」
「え、何。あいつやらかしたの?ありえない。正義感の塊みたいなやつなのに?」
「正義が行き過ぎて相手を病院送りにしちゃったみたいなんだ。しかも、バット使ってタコ殴り。」
「あいつステゴロ主義だったじゃん!武器使うなんて逃げだって言ってたのに!」
「姉ちゃんもただでさえ最悪だったのに、もっと最悪になっちまったし。今では男の家に入り浸り。家の中がピリピリしてる。本当に最悪。」
どうやら最近おかしいのは私だけじゃないようだ。
「とーは?最近何か変なことは?」
「俺は特にないな。気づいてないだけかもしれないけど。」
もしかして、とーはまだ神象を起こしてないから代償らしきことが起こってないんだろうか。やはり、これはヒビキのところに行って問いたださないといけないな。
「私は最近昔の記憶が薄れつつあるんだ。今日なんて久々に会った友達のことも忘れてた。」
「それはそんなに仲良くなかったからじゃないの?」
「確かにずっと遊んでいたわけではないけど、あの戦いの後から忘れっぽくなったのは事実。これは自論だけど、神象には代償が付き物なんじゃないかな。だから、とーだけは何も起こってない。」
「……じゃあ、ヒビキのところ行かなきゃじゃん。行きたくないんだけど。」
「でも、オレこのままなのも怖ぇよ...」
「……それに俺たちが神象起こしたの他の人にバレてる可能性もあるから、余計にヒビキのところに行かなきゃな。」
……なんだって?今怖いことをとーが言い出したぞ。
「あんまり振り返るなよ。後ろの左側の曲がり角のところ。赤髪の外国人がいる。……ずっと俺たちのことを見てる。」
「……あたしたち、狙われてるってこと?」
「あの人、顔が必死だな…私たちが尾行に気づくくらいなんだ、新人の可能性があるな。」
「怖い怖い怖い!さっさと用意を済ませてヒビキのところに行こうぜ!どうにかしてもらおう!」
両親たちは気づいていないみたいだな。本能的に尾行者を捉えたのかな。何はともあれ、早く帰って、早くヒビキのところに行かないと。いろいろと話がある。
尾行に気づかれたようだ。イレーネにはまだ早かったか。
「イレーネ、戻ってきなさい。尾行に勘づかれました。」
「も、ももも申し訳ありません!!!」
「問題ありません。ハインツは気づかれてませんから、あなたが撤退することで、彼らは油断するでしょう。なので、ハインツはそのまま尾行を続けてください。レオはサポートを。」
あの小柄な黒いボブの女の子がリーダー格ですね。背の高い短髪の男の子はサポート役といったところでしょうか。高いところでツインテールをしている不良少女は野生の勘が鋭いようです。髪にゆるくパーマを当てている不良男子の方は怯えつつもなんやかんや集団の道筋を示している。4人の依代が1箇所に集まっている理由を体現していますね。皆が皆を補っている。おそらく、どこかの神は依代を1人作る予定が、何かしらの要因で誤って4人作ってしまったのでしょう。だから、要素がバラけた。そりゃ神象も扱いやすくもなる。『ヒビキ』とやらも目をつけるはずです。もう少し情報がほしい。彼らが『ヒビキ』の元へ行く前に接触したいところだが、本拠地も知りたい。……ひとまず、今は情報収集優先ですかね。
私たちは家に帰ってから、また公園に集まり、神象コントロールアカデミーに向かった。
「もう尾行いないよね?ね?」
「ひとまずいなさそうだな。さっさと行こう。」
神象コントロールアカデミーのある雑居ビルに着く。中に入って階段を登ろうとした途端。
「ちょっといいか。」
突然の低い声。恐る恐る振り返ると、いかついスキンヘッドの軍人らしき人物がいた。顔が険しくて威圧感が半端ない。目を逸らそうと思っても逸らせない。身体が全く動かない。最近外国人多くなってきたな。違うそうじゃない。尾行は1人じゃなかったのか。油断した。
「どなたですか?急いでるんですが。」
「だろうな。...お前らがあの神象起こした依代か。」
「……な、何を言ってるのかわかりません。俺たちじゃないです。」
「嘘だな。言葉に詰まった。」
「じゃあ、オレたちが依代だとしたら何なんだよ。文句あるのかよ?」
「文句はない。用はある。」
「なんなの?おっさん。あたしたちだって用があんだよ。」
「『ヒビキ』に用があるんだろ?」
こいつ、どこまで知ってる。集団で動いているのか。考えられる目的は、依代捕獲もしくは依代殺害あたりだろう。神象で抵抗するか?でも、私のはまだ制御できない。その場合、頼りの綱はたーとめーになる。……今、私にできることは観察と分析。警戒して軍人らしき人物に向き合っていると、そいつは口を開いた。
「そいつのところではなく、我々のところへ来ないか。」
まさかのスカウト。そうきたか!こちらは胡散臭さよりも恐ろしさが勝っている。何をされるか分からない。下手に動けないぞ。
「またこのパターンかよ!」
「たー!騒ぐな!」
「おまえたちの疑問には全て答える。その上で、我々の知っていることも全て教えよう。我々はヒビキとは違うんでな。」
「……」
こちらにも私たちのことはしっかり調査されているようだ。プライバシーの意識が足りてないのか?もっと気をつけねば。ふと右上を見上げると監視カメラがある。ああ、なるほど、スパイ映画のような感じか。どこかにリーダーと技術担当がいて、きっとこの監視映像を見ているんだろう。民間人が敵うわけがない。
「我々のところに来れば全てを教えてやる。」
「全てを知る代わりに、あなた方はドイツ軍の兵器になるんですよ。騙されないでください。」
「!?」
後ろを振り返るとヒビキがいた。足音もせず、いつの間にか背後にいる。相変わらずよくわからないやつだ。これはこれで怖い。そんなヒビキは笑顔だが、どことなく怒っている。どちらに怒っているのだろうか。
「お前がヒビキか。」
「ええ。そういうあなたはKNKの方ですね。遠路はるばるご足労ありがとうございます。無駄足ですがね。」
KNK。やはりどこかのスパイもしくは軍人集団だと思って良さそうだ。ドイツ軍にそんな部隊が存在するのか。あとで調べよう。スキンヘッドの軍人もヒビキも両者ともに一歩も引かずに対峙している。場の緊張感が高まるのがわかる。ヒビキは私たちを庇うように前へ出た。
「この子たちは、あなた方に都合の良い兵器にはなりません。一人前の人間として問題なく過ごせるように私が指導しますのでご安心を。では、さようなら。お引き取りください。」
「そうはいかない。」
そう言って、スキンヘッドの軍人は銃を取り出した。ここ日本だぞと思ったが、外国人には関係ないのだろう。特に軍人には。しかし、それを私たちに向けることなく、再び懐にしまいこんだ。冷静によく見ると耳にインカムがついている。指示が来たのか。撤退指示であってくれ。
「……」
「さようなら〜。」
ニコニコとヒビキはスキンヘッドの軍人を見送る。見送られる彼は険しい顔でヒビキを睨みつけながら帰っていった。そして、ヒビキの注意は私たちに向く。
「怖い思いをしましたね。もう大丈夫ですよ。」
なんだかヒビキが頼もしく見える。救世主のようだ。
「ですが、神象コントロールアカデミーをサボるとは感心しませんね。今から講義を始めます。遅れを取り戻さねば。さて、教室に向かいますよ。」
私たちはヒビキにグイグイ背中を押されながら教室に連れて行かれた。毎回無理矢理なのはどうにかならないのか。
「はい!神象コントロールアカデミー、第2回目の授業です。張り切ってまいりましょう!」
私たちは文句を言いに来たはずなのだが、その気力も失せ、素直に授業を受けることになった。私たちはどうすることが正解だったのだろうか。




