第5話「接触」
本作に登場する組織・人物はすべて架空のものです。
昨日から一夜明けた。今、私はベッドの中にいる。理由は単純なもので、熱を出してしまったからだ。明らかに昨日の戦闘が原因だろう。あれが終わってからずっと頭が痛かったから間違いない。ふいにヒビキの顔が脳裏にチラつく。胡散臭い笑顔しやがって。ムカつく。私だけじゃなく、みんな体調を崩してしまった。神象を発現できなかったとーはまだマシなようだが、たーはドキドキが止まらなくて息苦しいらしいし、めーは全身筋肉痛で動くのもしんどいと言う。もう二度と神象コントロールアカデミーなんか行くものか。絶対行かない。
こんな風にベッドの中で横になっていると、いろんな考えが頭に浮かんでは消えていく。そういえば、幼稚園の頃、たまに遊んでくれた子たちは元気にしているだろうか。あの子たちと遊んだのは楽しかったな。昨日までは顔を覚えていたのに、今は思い出せない。熱のせいだろうか、頭がうまく回らない。でも、昨日に比べたら、頭痛も治まってきたから、回復傾向にあると見て良さそうだな。熱はきっと今日だけだろう。
今度は昨日の出来事を思い出す。戦いの中、怒りが爆発した後の記憶が一切ない。気がついたら、お風呂場らしき場所で、全身傷だらけ。手術前に麻酔を打たれたらこうなるんだろうなと思う時間の飛び方だった。あの空白の時間、何があったんだろう。みんなは知らなくていいっていうけれど、おそらくみんなが怖い思いをしたきっかけは私に違いない。そんな雰囲気をしていた。全員と目が合わなかった。私に気を使ってくれているのかもしれないが、私は自分が引き起こしたことならば向き合うべきだと思う。
そう結論が出たなら話は早い。とーに電話しよう。彼の体調を聞く限り、たーとめーに比べるとまだ元気な方だ。思い立ったら即行動。スマホを手に取り、とーに電話する。数コール待った後、彼は出た。
「もしもし?どうした?何かあったか?」
「あ、もしもし?昨日のことで聞きたいことがあってさ。」
「あのことなら知らない方がいいって言っただろ?みーは気にしなくていい。」
「そうはいかない。たぶん、それさ、私が原因でしょ?」
「...違う。」
「図星か。相変わらずとーは嘘をつくのが下手だね。...怖い思いさせてごめんね。」
「謝らせたくて隠したんじゃない!みーを傷つけたくなくて...」
「わかってる。ありがとう。でも、自分で引き起こしたことなら、向き合わなきゃ。話せる程度でいいから教えてほしい。」
それから、とーは重い口を開いて、私が気を失ってから何があったのかを教えてくれた。なるほど、私の感情の爆発に応じて、周囲も爆発したのか。普段あまり感情的にならないから余計なのかな。今後は強い心の動きを感じたら気をつけよう。マインドフルネスとかやってみるのがいいのかな。
「……とまあ、こんな感じかな。」
「ありがとう。だいたい把握できた。助かる。辛いの思い出させちゃってごめんね。」
「俺は大丈夫。みーは大丈夫か?」
「大丈夫。今後の対策を考えなきゃなって。」
「...相変わらず冷静だな。相談ならいつでも乗るから言ってくれよな。」
「ありがとう。とーもね。」
電話を切る。とーは説明がうまいな。とてもわかりやすかった。空白の時間が埋められるとなぜか安心して眠くなってきたな……寝るか。
目が覚めると、夕方だった。結構寝たな。夜も寝れるかな。スマホを手に取ると、通知がめっちゃ溜まってる。なんだなんだ?そう思い、BONDを確認すると、私たちのグループがめちゃくちゃ動いている。みんな体調不良だったよな?試しに覗いてみると、今後の予定について話しているようだ。
『今月末にアニメのイベントあってさ、それ行こうぜ!』
『急にどうした?お前BONDしてないで寝てろよ。』
『とーもな。で、オレの好きなアメコミがさ、日本でアニメ化されるんだよ!これは行かなきゃでしょ!もうチケット取ってるからな!決定事項だからな!オレの親がついてくるから安心しろよ!』
『もう取ってるのか!?予定合わなかったらどうすんだよ。俺は大丈夫だけど。』
『どうせ暇だろ!』
『失礼だな。』
『ピコンピコン通知うるさい。寝なさい!』
『めーだって起きてるじゃん!で、都合どうなんだよ。行けるだろ?暇だろ?』
『なんだこいつ。失礼過ぎる。今から殴りに行ってやろうか。』
『落ち着け。』
『予定なら空いてる。』
『よし!あとはみーだけだな!みー!!!みーの好きな漫画もアニメ化するよな!!!ブースあるからそこも行こうぜ!!!』
『みーは寝てるっぽいな。良い子だ。あたしらとは大違い。』
『昨日のこと考えたらな...一番疲れてるだろ。いっぱい寝て元気になってほしいな。』
『みー!!!』
『予定空いてるかー!?!?』
『みー!!!』
『起こそうとすんな!!!』
『まあ、みーが反応するまで休もうぜ。俺も寝るから、お前らも寝ろよ。』
《アメコミヒーローのOKスタンプ》
《アメコミヒーローのおやすみスタンプ》
《人気ゆるキャラのおやすみスタンプ》
みんな元気そうで思わず笑ってしまう。もうこんなにBONDできるんだったら、ある程度は体調が良くなったってことだろう。心から良かったと思う。……寝てるところ悪いけど、早めに返事をした方が良さそうだな。みんなには悪いが通知で起こしちゃおう。
《海外アニメのおはようスタンプ》
『みんな元気そうで何より。私もその日、大丈夫だよ。』
秒で既読がついた。たーだな。あいつ寝てなかったのか。
『おっしゃー!!!!!決定な!!!!元気になったらきちんと予定立てような!』
『了解!』
これでまた楽しみが増えた。嬉しいな。6年生になってから人生うまく行き始めた気がする。昨日の件に目をつぶればだけど。よし、お腹空いてきたし、顔を洗ってこよう。
「ふんふんふんふん……どうやら彼らはボクたちと同じ予定のようだ。せっかくならその日に会うことにしよう!」
閉じていた目を開く。さすがはデジタルネイティブだ。スマホを使いこなしているし、きちんとパスワードも複雑なものにしてある。危機管理能力バッチリだ。残念ながら、ボクには意味ないけれど。
「それにしても、昨日の神象を起こした依代を秒で特定するとは、さすがは『将軍殿』!」
「違う。俺がやったんじゃない。《神》だ。」
「似たようなものだろう!」
「……」
「いや〜!楽しみが増えてボクは嬉しいよ!今回は1人ではなく4人か!いったいどんな子たちなんだろうか!」
「はしゃぐのはいいですけど、目的を忘れないでくださいよ、博士。」
「何を言っているんだね?目的は『ボクの好きなアニメのブースに行くこと』『コスプレをして同士たちと交流すること』だろう!忘れるわけがない!」
「依代と接触することもでしょう!」
「それはついでだ!過度に近づく真似はしない!警戒されてしまうからね!今、ボクたちの存在に気づかれるとまずいだろう?違うかい?」
「それはそうですけど……」
まったく…ルシアはせっかちだな。焦りは禁物。急がば回れ。そういう心持ちが大切なのだよ。ひと仕事を終えたボクは椅子にもたれかかり、クルクルと回る。いや〜...それにしても、彼らはまだ事の深刻さに気づいていないようだ!まあ、それもそうか。無理矢理神象を発現させられたみたいだからね。そうだな...彼らの神象に目をつけた人間についても調べる必要があるな。あの将軍殿でも特定できずにいる。相当厄介な相手だろう。ああ、楽しみになってきた!
あの悲惨な戦いから数週間が経った。あれから私たちは神象コントロールアカデミーに行くことなく、ひたすら遊びまくった。例えば、ゲームセンターに行って、ホッケーを始めとしたいろんなゲームで遊んだ。特撮のアーケードゲームでは激レアカードが出てきて盛り上がった記憶がある。特撮好きなとーがめちゃくちゃ興奮してたな。
それと、バンドを組むことになっているので、みんなで楽器の練習もした。私はギター担当。アニメを見てからずっと憧れてたから嬉しい。とーはベースで、たーはドラム、めーはキーボード担当だ。ボーカルは曲によって交代することになった。独学で各々練習して、簡単な曲だけど、みんなで合わせられたときは達成感があったな。確かあのときはめーのお母さんがついてきてくれていたんだっけ。めちゃくちゃ褒めてくれて、照れくさいけど嬉しかった。練習後は必ずカラオケに行って、ボイトレをみんなでした。カラオケの曲の中にボイトレがあるなんて知ったときはびっくりしたもんだ。楽器の練習は大変だけど、みんなと一緒なら頑張れる。
あとは、4月から中学生だから、入学の準備もあった。新しい制服、新しい教科書。いくつか教科書をパラパラ見たところ、勉強しておいた方が良さそうだと思ったので、みんなで勉強会もした。意識高い系になってるとみんなで笑ったのを覚えている。でも、勉強は大事だからやってて損はない。特にたー。努力の天才だけど、それに知識が追いついてない。実はこの勉強会はほとんどたーのためにやろうと思っていた。たーの勉強の悲惨さを見ると、やっててよかったかもしれない。4月からひとり置いてけぼりをくらいそうだったから。
そして、みんな、特にたーが楽しみにしていたアニメイベントの日がやってきた。準備は万端。私の好きな漫画のブースもあるし、すっごいワクワクしてる。とても楽しみ。最寄り駅にみんなで集合して、会場まで電車で向かった。このイベントは2日間行われ、私たちは全通するから、ホテルにお泊まりだ。お泊まり会もついてくるなんて最高な日だな。たーのご両親には「息子の趣味に付き合ってくれてありがとう」と言われたが、私も興味があったイベントなので、「こちらこそお誘いありがとうございます」とお礼を述べた。みんなでワイワイ言いながら、ホテルに荷物を預けてから会場に向かった。
「まずはアメコミのやつのイベントに行ってー、そんで次はみーの好きな漫画のブースに行ってー。」
「あ!あたし、この魔法少女のアニメのところ行きたい!可愛くない!?」
「確かに可愛いけど、それ鬱アニメらしいよ。大丈夫?」
「……マジで?」
「おい、特撮のコーナーもあるぞ!そこも行こう!」
「おー!いいぞ!今日はイベントとブース中心でー、明日はコスプレエリアにも行くぞ!」
みんなでどこを回るか計画を立てる。楽しみだな。人が多いから、うまく回れるといいけど。
まずはたーお目当てのアメコミのイベントに参加。私の好きな声優も出るみたいで、とても興奮した。普通に面白そうだな。録画して見よう。その後、たーはそのアメコミのグッズを両手たくさんに買っていた。私も気になるキャラができたから、ついでに買っちゃった。
次は、私のお目当ての漫画のブースだ。アニメ化が嬉しくて仕方がない。この漫画は本当に面白いからみんなに読んでほしい。このアニメ化はみんなが読む良いきっかけになるはずだ。ここでは、買い過ぎには気をつけていた私も思わずいろんなグッズを買ってしまった。他のみんなの様子を見ると、どうやら興味を持ってくれたようだ。まずはとーから沼に落とそう。
昼ご飯を食べて休憩兼腹ごしらえをした後は、めーが興味をもった魔法少女のアニメのブースに行ったり、とーが大好きな特撮のブースに行ったりした他、途中で面白そうなブースに寄ったりと大忙しだった。ブースに行くごとに買う予定のなかった買い物が増えていく。これも良い思い出だということにしよう。都合良く捉える。みんな目的の場所に行けて大満足のようだ。私も大満足。明日はコスプレエリアにも行く。私の推しをやってくれているコスプレイヤーさんがいたらいいな。
次の日になった。ホテルに帰った後もみんなではしゃぎ過ぎたからか疲れが多少残っている。本末転倒だ。でも、行きたいから行く。軽くブースを見て回ってから、コスプレエリアへ。すごい…アニメの世界に迷い込んだみたいだ。クオリティの高いコスプレイヤーがいっぱいで目移りする。
「俺、絶対特撮のコスプレしてる人いると思うんだよな。定番だから。どこにいるんだ?」
「お、あそこにあのミームのコスプレしてる人がいる。よくあれやろうと思ったな……写真撮らせてもらおう。」
「あたしも行くー!」
「オレもー!」
こんな風に気になるコスプレの方に行ってはみんなで写真を撮ったり撮ってもらったりした。とーは予想通り大好きな特撮のコスプレをしている方を見つけて大はしゃぎしていた。とーと一緒に見た作品だったから、私もはしゃいでしまった。良い写真だ。ありがたい。再び、みんなでコスプレエリアを巡る。本当にクオリティが高いな。異世界転生ってこんな感じなのかもしれない。
「あー!!!!オレの好きな!!!スティールマンがいる!!!コマンダー・ザ・ステイツとダークウルフもいる!!!パニッシャーズだ!!!」
たーが大興奮でアメコミコスプレイヤーの皆さんのところに突進していく。ファルコンアイは。私の好きなファルコンアイはいないのか。私もたーに続いて走る。
「おーい!置いてかないでー!」
「興奮しまくってるな。ついてくぞ。」
なんだか残りの2人が呆れ気味な気もするが、そんなことはどうでもいい。ファルコンアイはいないのか。
「こんにちは!!!スティールマンすごいですね!!!」
「やあ、少年。私のコスチュームを褒めてくれてどうもありがとう。渾身の一作なんだ。」
スティールマンのマスクが映画のように外れた。声だけではなく、顔も本人そっくりだ。コスプレのクオリティが高過ぎる。今日一だ。
「マスクオフできるんですか!?!?すげー!!!顔も似てる!!!」
「努力の賜物だよ。うまくできているだろう?」
「はい!!!オレ、スティールマンみたいな機械の技術者目指してるんですけど、もっと頑張ろうと思いました!!!」
「そうか!私と同じだな!技術者になるにはたくさん勉強しないといけないから、今の時期からしっかりやるんだぞ!」
「もちろんです!!!」
たーが今までで一番はしゃいでいる。良かったな。スティールマンと一緒にいる他の面子を見たところ、どうやらファルコンアイはいないらしい。残念。だが、コマンダー・ザ・ステイツもダークウルフも非常にクオリティが高い。
「コマンダー・ザ・ステイツとダークウルフですよね。本物そっくりです。」
「ありがとう。衣装は全部スティールマンをやってる彼が用意したもので、俺はされるがままだ。」
「私もそうですね。」
「おふたりはスティールマンさんの趣味に巻き込まれてる感じなんですね。」
「そうだ。」
どことなく彼らの顔が死んでいる気がする。せっかくこんなにかっこいいのに。もったいない。でも乗り気じゃなかったら、顔も死ぬか。私も死ぬだろう。
「やっと追いついた……ダークウルフ!かっこかわいいですね!」
「ありがとうございます。」
「マジでコマンダー・ザ・ステイツだ……」
「そんなに似てるか?」
「似てます!!!写真!!!写真一緒に撮ってください!!!」
「もちろんだとも!」
私たちはアメコミヒーローたちと写真を撮る。アメコミ世界の住民になった気分だ。
「ありがとう。もし良かったらその写真、私も欲しいから送ってくれないかな?」
「もちろんです!あっ!オレ!キャロッターにアメコミ専用のアカウント作ってるんです!フォローしてもいいですか!?」
「もちろん!同士が増えて嬉しいよ!これからよろしく頼む!」
「よろしくお願いします!」
たーがアメコミヒーローと仲良くなった。すごい絵面だな。私もフォローしておこう。いつかファルコンアイしてくれないかな。
「よし、みんな。盛り上がっているところ悪いけど、そろそろ帰ろうか。」
「えー!」
「もうこんな時間か。確かに帰らないと電車に間に合わないですね。」
「あたし、もっと見て回りたいー!」
「気持ちはわかるけど、2人とも諦めて帰ろう。」
楽しい時間はあっという間だ。みんなで帰路に着く。当分私たちの間でパニッシャーズが流行りそうだ。
にぎやかな4人組とその保護者を見送る。スティールマンは自信のあるコスプレだったから、あんなにはしゃいでくれて嬉しいし、誇らしい。
「……最低限の接触にするんじゃなかったんですか、博士。」
「あれはあちらから来た。ボクたちは何もしてない。不可避だ。」
「連絡先を手に入れたから良しとしろ、ルシア。これで作戦もやりやすくなる。」
「……」
「そんなに不満かね?君は任務は進んでやるタイプだろう。柔軟に物事を捉えることも大事だぞ!」
「説教しないでください。」
「そこまでにしろ。俺たちも帰るぞ。」
「いや!帰らない!まだまだイベントは続くからね!今度はあのアニメのブースに行くぞ!将軍殿!ルシア!ついてきたまえ!」
「...この姿のままで、ですか?」
「もちろんだとも!どれも力作だからね!見せて回らねば!」
「...最悪だ。」
今日はなんて良い日なんだ!目的の依代ではあるが、新しい友達ができたし、その連絡先も手に入れたし!良いことづくしだ!彼らより1歩リードといったところだね!これで当分お上から怒られるようなことはない!やったぞ!ルンルン気分でボクはコスプレエリアを後にした。
……してやられた。いつも私たちは後手に回る。監視カメラの映像を睨みつける。先程立ち去ったあの集団。間違いなくDUPGの連中だ。常に神象の気配もしていたから、DUPG側の依代もいたようだ。ならば、あの少年少女らがあの神象を起こした張本人だと言えるだろう。
「ベンノ。」
「はい、少将。」
「例の依代を見つけた。だが、DUPGに先を越されている。」
「やつらに匹敵する精鋭部隊を用意します。」
「私は日本での作戦を開始する許可をもらってくる。それまでにメンバーを揃えろ。」
「Zu Befehl!」(ご命令のままに!)
何としてても上層部の首を縦に振らさせねば。ただでさえあいつらに先を越されている。これ以上遅れれば何が起こるかわからない。手遅れになる前に、こちらがあの依代と本格的に接触してみせる。




