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【異世界転移】をやってみた《3》 ―パンドラの箱―  作者: とり
 本編の説明不足をおぎなうショートストーリー
70/71

s3.拷問(ごうもん)のはなし






   ※注意ちゅういです。


   〇このものがたりは、『とり』の書いた長編小説ちょうへんしょうせつ『【異世界転移】をやってみた《3》 ―パンドラのはこ―』の番外ばんがい編です。

   〇ショート・ストーリーです。内容ないようは、ユノが旅のとちゅうで立ちよった【エルドラン】というまちの、教会きょうかいがおこなっている粛清しゅくせいについてです。

   (※残酷な表現ひょうげんをふくみます)

   〇以上いじょうの点に抵抗のあるかたは、まないことをおすすめします。











 エルドランのまちには、司祭しさいが管理する礼拝堂れいはいどういた【教会きょうかい地区】がある。一般いっぱんに「教区きょうく」とばれるそこは、【竜神教りゅうじんきょう教団きょうだん裁量権さいりょうけんをもつ裁判所さいばんじょ、および留置所りゅうちじょ内包ないほうしていた。

 剃髪ていはつしたあたま司祭しさい帽子ぼうしをのせた、白い法衣ほうえ老爺ろうや――マールータは、ひるの演説をえたあと、隣接りんせつする「留置所りゅうちじょ」へとおもむいていた。

 面積めんせきとしては民家みんか二軒にけんほどつらねたくらいの建物たてものだが、はんしてその全体の容量ようりょうおおきい。

 建物はあくまで、教会きょうかいの人間が常駐じょうちゅうし、おく囚人しゅうじんたちをたずねるための、ぐちでしかなかった。

 本場ほんばは地下にある。

 ありよりは整頓せいとんされた地下フロアは、一階いっかいがあらたに告発こくはつされたものを閉じこめる牢であり、二階にかい尋問室じんもんしつと、取り調べをひかえた人間をあずかる「控室ひかえしつ」がずらりとならんでいた。

 尋問室からは、なく人の声があがっている。

 けもののようなうなり声もまじっているが、人間の悲鳴ひめいとは、あるいきを超えてしまうと動物のき声と差異さいがない。

 ましてや。尋問室で取り調べを受けているのは、魔物まもの仲間なかまとして密告みっこくされた、人の皮を被ったばけもの――として追及ついきゅうを受けている市民しみんたち――なのだから。


「マールータ司祭。またひとり、正体しょうたいをあらわしました」

「うむ」

 尋問じんもん室ではなく、そこへ行く独房どくぼうのならぶ廊下で、マールータはおつきの若い神官しんかんに答えた。

 神官の案内あんないにしたがって、正体をあらわしたという囚人しゅうじんのもとへかう。

 廊下には、安全あんぜん性のめんから、銀の長剣ちょうけん武装ぶそうした、教団きょうだんの兵士が何人なんにんかいた。

 マールータは、独房どくぼうののぞきまどをカタンとあける。

『うううぐるるああああ!!!』

 カビくさいおりおくから、はい色の、すんたらずなさる造形ぞうけいをした怪物が、あかく濁ったをぎらつかせてわめいている。

 黄色くよどんだきばき、唾液だえきしたたらせたくちをあけて、いまにも金属扉きんぞくとびらの外側の司祭たちに飛びかからんばかりだ。

 が。くさりで壁につないだかぎつきの首輪が、ガチリと猿の怪物――【グール】の全身を引き留めた。

 かつては「人がい」と評判ひょうばんだった、床屋とこや主人しゅじん――その名残なごりの衣服をにつけたまま、魔物まものは、なおも司祭におそいかかろうと、あしつめを固い地面じめんに突き立て引っかきつづける。


「東区で散髪屋さんぱつやをしていた、ガーノンというおとこです。ずっと魔物まものとの関係を否定ひていしていましたが。やはり……」

「尋問するまでもなかった。ということか」

 マールータは独房どくぼうのドアをはなれた。

 彼のように――ガーノンのように、留置所りゅうちじょに入れられて一週間いっしゅうかんたぬうちにけの皮のはがれる、悪魔あくま密偵みっていすくなくない。

 もっとも。日のたらない場所にれられて、ろくな食事しょくじあたえられず、なぐさみの言葉ことばもなく、四六時中しろくじちゅうおなじ階層からただよう阿鼻叫喚あびきょうかんを聞かされて、正気しょうきを保っていられる人間がどれほどいるかは不明ふめいだが。

 マールータをはじめとする、教会きょうかいの人間には知るよしもなかったが、気をみ、神経をよわらせ、衰弱すいじゃくした人間が、魔物まものになっているのだった。

 日光を遮断しゃだんした場所ばしょへの監禁かんきんや、栄養失調えいようしっちょう不安ふあんを高める環境かんきょうは、人間をものへと育てるための理想的な飼育場しいくじょうと言っていい。

 疑心ぎしんおにしょうずるということわざのとおり、司祭たちは、まちから魔物をはらうと豪語ごうごする一方いっぽうで、知らぬあいだにその増殖ぞうしょくに加担しているのだった。


「尋問のほうはどうだ。自白じはくしたものはいたか?」

「はっ。あらたに四名よんめいもの内通ないつうしている疑いのあるもの浮上ふじょうしました」

 神官のおとこはマールータに言った。

 マールータは満足まんぞくげにうなずいて、尋問室の扉をあける。

 硝子がらすなどで仕切られていないまどのついた鉄扉てっぴのなかからは、ずっとうめき声がしていたが、完全に扉が開放かいほうされると、声は一層いっそうおおきく、悲惨ひさんさをして、廊下へとながれ出した。

 黒い頭巾ずきん目元めもとまでかぶったおとこたちが、囚人しゅうじんたちにあの手この手でをくわえている。

 彼らを尻目しりめに、マールータは室内しつないを観察した。

 頭巾の男たちは、取り調べを担当する者たちで、手にはむちはり、やっとこなどを持っていた。

 室内しつないのそこかしこには、囚人しゅうじん服をにつけた人間がいる。それは年を取ったものもいれば、おとこおんなも、子どももいた。

 あっちでは生爪なまづめをはがされ。こっちではまぶたいだ目玉めだまねっした鉄心てっしんをあてられ。すこ大掛おおがかりなものになると、寝台しんだいのような石の台にかされたものひたいに、ぽたぽたと水滴すいてきを垂らす姿すがたもあった。

 あまだれいし穿うがつとは言うように、この水滴すいてき最初さいしょはなんてことのない、つめたいしずくの攻撃だが、温度おんどうしなっていく皮膚ひふとおして頭蓋骨ずがいこつを打ちつづけるまないあめに、受け手はゆっくりとその苦痛くつうに気づき、やがて正気しょうきをなくすのだ。


 ぎりぎり。しばりつけた人の身体を、引きちぎらんばかりにまわる歯車はぐるまや、逆さづりの一画いっかくやって、マールータは、黒頭巾くろずきんたちに誰それの詰問きつもんがゆるい。などと指示をあたえた。

 取り調べ――尋問とはばかりの拷問ごうもんだが、マールータたちにとっては、これはまっとうな手段しゅだんだった。

 ここでの追及ついきゅうで自身のつみ告白こくはくし、さらにほかにのものと密通みっつうしているものげれば、れて虜囚りょしゅうは、斬首ざんしゅののち火あぶりにしょされるの名誉めいよを得る。

 逆に、くちを固く閉ざしつづければ――つみを否定しつづければ――処刑用しょけいよう広場ひろばにおいて、民衆みんしゅうに「人類じんるい裏切者うらぎりもの」としてさらしものにされたのち、生きながらに火あぶりに処されるの不名誉ふめいよを得る。

 マールータにとっては理解しがたいことに、後者こうしゃを選ぶ不届ふとどものが、おおくの割合わりあいめていた。

「……のものの考えることはわからん」

 自白じはく強要きょうようする獄吏ごくりに、よわよわしい声で「ちがうっ。オレは……。けものじゃない」とうったえつづける囚人しゅうじんのひとりに一瞥いちべつをくれて、マールータは、拷問室ごうもんしつをあとにした。







                          (おわり)














      んでいただき、ありがとうございました。



















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