63:お手当て
〇前回のあらすじです。
『精霊ビビアンのもとに、つかいに出したふたりの部下がもどってくる』
「ビビアン様。申しわけありません」
どちらからともなく彼ら――ハインツとインボリュートは膝をついてビビアンに平伏した。
ハインツは頭をさげたまま、見ための巨体から想像できるとおりの野太い声をあげる。
「我らのちからが及ばず……。あのふたりを――」
「もういいわよ。あ。ちなみにそのふたり。もう帰ったから」
「はっ……?」
ハインツもインボリュートも素っ頓狂に目をまるくする。内心では「そんなあ」と不平を抱いている声音。
「にしても。あなたたち、満身創痍ね。だれか手当を」
「あ。ではわたくしが」
「ハインツ様のほうは僕が」
近衛の一団からサッと手があがり、もどってきた仲間のもとに、ひとりふたりと駆けていく。
ハインツは全身の肌がひからびて、一部ミイラ化した箇所もあった。
インボリュートもまた、若い顔だちのいたるところを焼けただれさせ、筋肉や――部位によってはもっと奥をのぞかせている。
ハインツは、パンドラの律令によって宇宙へ。
インボリュートは地核へと飛ばされたのだから、このていどで済んだのは奇蹟である。
頭脳が停止しない段階で、必死に自分たちのまぎれこんだ領域の摂理を分析し、地表面への移動魔法を可能化して帰ってきたのだろう。
その苦労たるや。推して知るべしである。
もし彼らが人間であったなら、あっけなく死んでいただろう。
「ふたりともごくろうさま。もう休んでいいわよ。私も、もう今日は床につくから」
「はっ」
癒しの魔法で幾分火傷やミイラ化を修復してもらい、ふたりはするどく返した。
自分たちを治してくれたものの手を借りて、兵士の宿舎へと向かっていく。
ビビアンはかたわらの女性に言った。
「それじゃあアウラ。私はこれで」
「はい」
「あのふたりの旅人のことは、気にしなくていいわよ。あの人格破綻者みたいにはならないわ。たぶん」
「だといいですけどね」
アウラは身を引いて、ビビアンに進路をゆずった。
ひとつ。
またひとつ。
広間の火が消えていく。
妖精のなかには夜目のきくものもいるので、残った者たちにとって、暗闇はそう不便なものではない。
最後の篝火が消えた。
神殿の広間は、ぬばたまの漆黒につつまれた。
(『第5話:パンドラの箱』おわり)
〇つぎのエピソードで、最終回です。
読んでいただき、ありがとうございました。




