62:痛み
〇前回のあらすじです。
『ユノが、自分がこれからどうしたいかを話す』
〇
神殿の扉が閉まってしばらくが経った。
思えば短くも感じる旅人たちの訪問は終わり、彼らは今ごろ、坂道をおりているところだ。
「よかったのですか?」
「なにが?」
玉座から視線はそちらに向けず、ビビアンはアウラに訊き返した。
アウラもまた、扉を見つめたまま答える。
ぴたりと閉じた、大きな鉄扉。
「あの剣士が言ったことと同じことを言ったものが、かつてありました」
「くっ……。マーリンね」
「はい。他人にちからを貸すうんぬんはありませんでしたが」
「まあねえ」
行動には汚穢がともなう。
それが善行であれ悪行であれ、関係なしに。
個人が負う『責務』とは、この行動――生きるという活動にともなう痛みを、自分で消化することを言うのだと。
ビビアンの知る魔法使いは言っていた。
(でも。だれかを頼らないってのとはまたちがう。とも言ってたわね)
ユノもきっとそうだろう。
彼はこれからも、自分の道を切りひらきながら、しかしだれかの手を借りるということはしていくはずだ。
(やつあたりはしたくないってことよね。要は)
人間にしては健気な指針だが、どこまでもつかは分からない。
そうやって決意し、実践してみたところで、世間というのは、そうした元気のあるものから気力を搾取するだけしておいて、振りまわして、疲れさせて、いらなくなったら廃棄するのだ。
――ぷっ。
ここまで考えて、ビビアンは吹き出した。
(あの子。自分以外はどうなったっていいんだわ)
臆病な性格だが、彼はむやみに人に手をさしのべるのを好ん(この)ではいなかった。余力でのみ手を差し伸べるとはそういうことだ。
一迅の風が吹き、ビビアンのまえにふたつの人影があらわれる。
ハインツとインボリュートだ。




