59:水面下
・前回のあらすじです。
『世界の平和のために、箱を開けたいと主張するユノに、アウラから、忠告が飛ぶ』
「不幸……」ばかになったみたいに、ユノはくり返した。「世界中の人の絶望を、ボクがひとりで背負うんですか?」
顔から色を失くしてうめくユノに、ビビアンはひらりと、片手をお皿みたいにして、突っぱねた。
「あたりまえでしょう。無条件の平和なんて、ありゃしないわよ。どこかでだれかがそのツケを払ってるから、みんなニコニコしてられるわけで」
「さながら、水面下で足をバタつかせるスワンのごとし、ですね」
側近アウラの喩えに、ビビアンは乗っかる。
「そうねえ。一見優雅に水面をわたる水鳥も、湖のなかじゃあ、一生懸命だっていうものね」
事実はどうであるにせよ、なにごとにも、裏と表はあるものだ。たたみかけるように、ビビアンは、蒼白になる少年の手元を指で示す。平和をもたらす、象牙の箱。
「しかもあなた、そのちっちゃい箱のなかでね。身動きもとれないし、泣こうがわめこうが、もう逃げることなんてできないわよ。人知れずそのなかで、ひとりで、他人が受けるべき責め苦を受けて、生きていくの」
「り……リスク高くないですか?」
「そりゃ世界の平和だもの。お安くないわよ」
「まあ、人間ひとりで済むと思えば、おてごろ価格かもしれませんが」
ぽそりとアウラがつぶやいて、ビビアンが、「かもねー」と、頭のなかの天秤をゆらゆらさせる。
「……開けるの?」
横から、パンドラがユノの肘をつっついた。魔族の少女の赤い瞳は、やめておけと、訴えているようだった。ユノは揺らぐ。
(そんな……想像もつかない……途方もない不幸を背負って、永遠に生きるなんて……)
じゃあ、ボクは、なんのために生きるんだよ。――せまい、箱のなかで。
(世界のため……。ボクひとりが、このなかに囚われれば、そうだ、世界は平和になって……でも、じゃあ、ボクは?)
ぐるぐると、同じ自問が、ユノのなかでくり返される。永遠かとも思えるせめぎ合いの末、ユノは決断した。
※ふたつの展開に分岐します。
・【a】:ユノが世界の可能性を信じて、パンドラの箱をあける。
・【b】:ユノが世界の平和を祈って、パンドラの箱をあける。
〇つぎのエピソードは、パターン:【b】のほうを投稿します。(強制エンディングです)




