58:破滅
〇前回のあらすじです。
『精霊が、パンドラの箱をユノに移動させる』
ユノは目をしばたたかせた。
硬い――石膏めいた硬さと、つやのある四角い箱。華美な装飾はないが、蓋と側面に植物のレリーフが彫ってある。
「これが……。【パンドラの箱】?」
「そう」
こくり。
ユノの傍でパンドラはうなずいた。
ユノは目配せでうなずき返し、精霊の側に問う。幾段ものぼった先にある、玉座の女へと。
「この容れものには、希望が入ってるって聞いたんです。マールータ司祭っていう……。教会の人からですけど」
「希望?」
「はい」
精霊は黙ってユノの言葉を待っている。
勢い込んで――数歩彼女に近づいて、ユノは更に聞いた。
周囲の近衛兵たちは、彼を止めない。
「この世界に、真の平穏をもたらすって教えてもらいました。もしそれが、もう人間が化けものになることもない……。そして。人間が破滅に向かうこともない世の訪れを意味するなら。ボクはこの箱を、開けたいって思うんです」
「へえ」
感心ではなくあいづちの体で、ビビアンは喉をうならせた。くちのなかでククっ。と笑ってユノに応じる。
「まあ確かに。【希望】はあるわね。あなたにとっての」
「じゃあ――」
かすかに、ビビアンの後半の科白が気になったものの、ユノは構わなかった。
だが息巻くユノの声は、途中で止まった。機先を制するように、アウラがつけ足したのだ。
「あなたのその願いは叶います。あなたが箱のなかで、世界中の人々の不幸を背負いつづけると言うのなら」
それは。
ユノへの真心からの警告だったのかもしれない。




