55:宿命
〇前回のあらすじです。
『罰を与えるくらいなら、さいしょっから答えを教えてよ。ってユノがキレる』
おっくうそうにビビアンは脚を組みかえた。長衣の下から、細いふくらはぎが一瞬のぞく。
「ごもっとも。って言いたいとこだけどね」
薄いまぶたを精霊は伏せた。長く豊かな、鮮やかなまつ毛が、彼女の翡翠の両眼にかぶさる。
「神は人間に対して、初っ端に教えているのよ。あなたたちにとって、なにが最善かを。あなたたちが、生まれて、年月を重ねていく過程で、勝手に忘れてしまうだけで」
「……忘れる?」
「そうよ。いつのまにかね」
静かに、精霊は告げた。気の毒とも、哀れとも思っていない調子で。
「でも。なかには辛うじて覚えている人もいるのよ。そうした人は、他の――忘れてしまった人たちに、害される宿命を負う。『どうしておまえは、こちら側へ来ないんだ』ってね」
ずっと横にたずさえていた長い杖を、ビビアンはユノに向けた。
「ラッキーなことに。あなたはそうはならなかった。そしてこれからも、忘れるつもりはないのよ」
まっすぐに、緑の眼差しがユノを射貫いていた。
もうすっかり怒りは消えて、気まずさと戸惑いが、ユノの黒い両眼には泳いでいた。
「どうしてそう言い切れるんですか」
「自分のために生きてる」
あたりまえの真理を述べるように、ビビアンは答えた。
ユノは言葉を失くす。否定はしない。
「人間はみんな、そういうやりかたをいつからか『卑怯』とか『自分勝手』とか言って、おさえつけようとしちゃうのよね。大切な感覚なのにね」
精霊の女は微笑して言った。
これだけは少し、悲しそうだった。




