44:篝火(かがりび)
〇前回のあらすじです。
『山頂の神殿にユノたちが入る』
魔石を起動する。鞄のなかにあった石のひとつで、みかん色のそれは、ユノが握りしめて念じると、淡い光を発した。ぼやりとわずかな範囲を照らす。
テノンの家から借りていた松明は、泉からミース村にもどった折りに、置いてきてしまっていた。
神殿の内部は、ただただ広い。
辺りこそ、なお見えないが、その光さえ呑みこむ、茫漠たる暗黒。反響する足音が、空間の広大さを物語っていた。
かちゃりと、道具のたてる金属音。あるいは、装備品の音。
「こんばんは」
物音にユノたちが歩みを止めたのと、その声が聞こえたのは同時だった。ふたりがあたりを見まわす間もなく、前方に明かりが灯る。
篝火だ。門前にあったものと同じ。
赤い焔は、高いところにあるらしかった。らしかったと確信できない物言いなのは、灯の位置が、ユノたちのいる地点と同じ高さにあるのかどうか、遠近感の狂った闇のなかでは、判然としないからだった。
真紅の明かりの中心には、玉座がある。そこに、人が座っている。
男か女か――。これも判然としない。なんとなく。線のほそさ、まとう着衣のゆるやかさから「女」だと、ユノは判断した。
ほかの灯篭にも火がともる。広間の各所に配していたもので、それはたいした数ではないのに、あれよあれよという間に、全体を明るくした。
(あやつっているんだ。……光度を)
刹那。ユノの手のひらのなかで、魔石が砕け散った。まるでお払い箱を喰らったように。
「あの人がやったのかな」
ひっそりと、パンドラがユノのそばに寄りながら聞く。
「たぶん」
ユノも、パンドラと同じ想像をめぐらせていた。




