42:ユノの墓を作る
〇前回のあらすじです。
『パンドラが、敵のインボリュートとハインツをテレポートさせる』
〇
自分以外にだれもいなくなった山道で、パンドラは途方にくれていた。
「これからどうしよう。ユノさんも死んじゃったし」
妖精の族長・セレンにおうかがいを立てようかとも思ったが。自分で考えて行動したほうが早い。
「とりあえず。お墓くらいは作ったほうがいいよね?」
幸い――なのかどうなのか。
ユノの装備品であるブロード・ソードは、彼が勾配から落ちたときに、道に取り落としていた。
急ぎ足に、パンドラはそちらに駆け寄り剣を持ち上げる。
(いつあのふたりが魔法でもどってくるか知れないもの。早くしないと……)
と。そばに来たことで、地面に鞄も落ちていることに気がついた。なかにあった魔石がいくつかこぼれている。
(肩のベルトが切れたのね)
あの少年らしくない、少し派手な色遣いの肩掛け鞄だった。誰かからのもらいものだろうか。
(全部お墓にそなえておこう。魔石――は、ちょっともったいないけど)
こぼれていた、紫や黛色の宝石をひろって、壊れた鞄に詰めていく。
剣を墓標がわりに立てるのには骨が折れた。
らせん状になった坂道の、階段でいうところの踊り場にあたる平らな面は、硬くて、切っ先がうまく刺さらない。
パンドラの細腕では、ことさらに重荷だった。しかたないので、刃をスコップみたいにして穴を掘り、やわらかい粘度部分を見つけだして、そこにようやくさっくり刺した。
彫り出した土をかけて、うまい具合に立たせる。盛り土になった部分に、故人の鞄を置いて、切れたショルダーベルトを気持ちていどに剣の柄にひっかけた。
墓が完成する。
パンドラの身体には汗が滲んでいた。思いのほか重労働だった。
軽くヒザをついて、両手を組む。
「こんなことになってごめんなさい、ユノさん。いろいろと大変だったと思うけど、安らかに眠ってください」
見方を変えれば、ユノはようやく妖精の支配から脱せたのだ。それは彼にとっての平穏を意味するのかもしれない。
「勝手に殺さないでよ……」
ぬっと道の端に手があらわれる。
岩の縁をつかんで、下から上体が引きあげられた。
宵闇から伸びた両肘が、硬い路面につく。ぼろぼろになった全身が引きあげられ、疲れた顔が出てきた。ユノだ。
「あれ。生きてた」
「うん――」
ユノは道の上によじのぼった。彼にうながされて、パンドラは淵をのぞきこむ。
子どもの身長ほどの深さのところに、突き出た岩場があったのだ。そこにユノは落ちたらしい。
「生きてたなら、手伝ってくれたらよかったのに」
「気を失ってたんだ……。いま目が覚めて、上がってきたんだよ」
罰がわるそうに頭を掻いて、ユノは荷物をさがした。十字架のようにして立っている剣と、そこにかかっている鞄を見下ろす。
「ユノさんの首が取れたように見えたの。でも、見まちがいだったのかなあ」
「暗いからね。なんか反射したとかで、錯覚したんじゃない?」
鞄を持ちあげて、ユノは切れた部分をつなぎ合わせた。硬結びにして固定する。これで少しのあいだは保つだろう。落ちついたら、どこかを頼るなりして修繕しよう。
「あ、そうだ。生きてたなら、ユノさん。はやく精霊さまのとこに行かないと。またあのふたりが来ないうちに」
「あのふたり……。ああ」
暗がりに目を凝らすユノだったが、そこにはさっきまで相対していた男たちはいなかった。
若い男と、面妖な巨躯の大男。
「私が一時的にどこかへやったの。説明はあとで。とにかく、今のうちに行かないと。ふたりがまたいつ転移の術でもどってくるか、わからないから」
ふたり――インボリュートとハインツは、最初にパンドラたちの前にあらわれた時、瞬間的に出現したのだった。それはユノも覚えている。
パンドラにうなずいて、残りの勾配を見あげた。
「わかった。じゃあ一気にのぼっちゃおう」
駆け足でふたりは山道をあがった。
山の頂上にひっそりと、精霊の棲み処が、闇にまぎれて建っていた。
(『第4話:精霊のもとへ』 END)
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