39:とどめ
〇前回のあらすじです。
『峠の道をいくユノたちのまえに、ふたりの男が立ちはだかる』
転瞬。
斬撃は、空気を切った。
(えっ……)
空振りした勢いそのままに、ユノの刃が夜闇をひるがえる。
黒い目を見開いて、ユノはいましがた起こったことが信じられないでいた。
つい一瞬まえまで、そこにいた若い男がいない。彼が話していた大男も。
(どこに――?)
すウッと頬につめたい感触。
ひやりとした雫の伝う感覚をおぼえると同時に、首からジャケットのそでから、割れるようにして切り傷が生まれた。
長そでの上着にできた傷は、内に仕込んだ鎖によっていくらかガードされている。だが剥き出しの顔や首筋や、手袋とそでの隙間からは、あふれるように血が飛び出した。
「いっ……!?」
面食らってユノは身をひるがえす。背後から、鎌状の剣が振りぬかれる。
若い男が肉薄していた。
先ほどまで大男――ハインツに、何やら話していた男が。
(いつのまに!?)
草刈りにでも使えそうな曲刀を、寸でのところで、ユノは切り払う。しかし。男の左手から薙いだもう一刀が、ユノの腹部を切り裂いた。
ジャケットの下の――厚手のシャツを、あっさりと引き裂いて。
「あそこでおとなしく帰っていてくれれば良かったが」
若い男の動きは速い。峠のせまい道で、ユノはバックステップでの回避を試みながら、しかし、それも無駄だと悟る。
相手が速すぎる。
一歩。うしろに跳ぶあいだに、双剣の男はもう目と鼻の先にまで距離を詰める。
逃げきれない。
「くっ……。パンドラは――」
もうひとりの男――ハインツのすがたが見えない。彼にパンドラが襲われているのではないかと、ユノは懸念したのだが。
「ユノさん。上を!!」
止めどなく刃を放つ男の向こうから、パンドラが叫んだ。彼女は無事だ。
ほッとしたのも束の間。
夜闇のなかに、フッと降りる。より濃度の高い、黒い影。
どごおおっ!!
重力加速度と、質量。なにより剛腕にものを言わせた鉄槌が、硬い地面を穿った。
寸でのところで身を避けたため、ウォー・ハンマーのピック部分は、ユノの肩口をかすっただけに留まる。が。レザーの素材は衝撃波で吹き飛び、殴打されたに等しい激痛が骨を伝わった。
地面にできた小さなクレーターから石くれが飛ぶ。そのすぐそばに、戦槌を振るった大男ハインツが、ぎろりと金色の眼を閃かせる。
(うわっ)
このままどちらかに武器を放たれれば、一巻の終わりである。かわすのも受けるのも、間に合わない。
恐怖に突き動かされて、ユノの脚はうしろにたたらを踏んだ。目のまえから、若い長身の男が、とどめの一撃を見舞う。
「では。さようなら。人間」
男はユノの首目掛けて鎌剣を横に一閃させた。
ぐらり。ユノの身体が、傾ぐ。




