38:二人の男
〇前回のあらすじです。
『夜の山道を歩きながら、ユノとパンドラがはなしをする』
突風が、パンドラとユノのあいだを通り過ぎた。
少女たちの向かう先に、ふたつの旋風が起こる。
「魔法の気配……っ」
「こっちへ。パンドラ!」
前を行っていた少女の腕を引っぱって、ユノは自分のうしろにかくした。腰からブロード・ソードを抜き放ち、正中線に構える。
旋風は止んだ。
なかから、ふたりの人物があらわれる。
ひとりは大男。もうひとりは、長身の優男だった。
前者は戦槌を片手に担ぎ、後者は短剣をふた振り、左右の手にたずさえている。
どちらも作務衣のような白い衣を着て、ぱっと見た感じでは山伏のよう。ただ、大男は浅黒い肌に銀髪で、優男のほうも、金髪に紫水晶の双眸と、和風の衣装にちぐはぐな、彫りの深い風貌をしていた。
大男が言う。
「人間よ。これより先は精霊さまのすみか。人の立ち入ってよい場所ではない。立ち去れ」
「そんなこと言われたって……」
ユノは剣を構えたまま、大男に言い返した。
「その精霊さまに用があって来たんです。ボクは。マーリンさんに、行ってみろって言われて」
「ん? マーリン。……魔女マーリンか」
優男の眉がぴくりと動いた。表情の軽薄さとは裏腹に、誠実そうな、凛とした声音だった。
こくりとユノは、ふたりから視線を外さないままうなずく。もしかしたら、彼女の案内と言えば、すんなり通してくれるのかもしれなかった。……事実そうなのだけれど。
「そうです。シチリ島に住む魔法使い。マーリンさんです。ボク、その人に会って――」
「ならば。なおさら」
「通すわけにはいかないな」
大男が、柄の長い戦槌――ウォー・ハンマーを両手に持ち、戦闘態勢を取る。
つづいて優男が言葉を継ぎながら、曲刃の短剣・鎌剣を構えた。
ふたりに、ユノのうしろからパンドラが訊く。
「わたしたち、セレンの許しも得ています。それでも駄目なんですか?」
「妖精の族長とて、我らのあるじの領域に干渉することはできない」
「あきらめて帰るのが吉だよ」
魔族の少女パンドラに、ふたりの男は諫めるように告げる。
男たちの事情は分からなかった。それに、ユノとしても、必ず精霊をたずねなければならない理由があるのか――それだけの価値をもつ用事なのか。判然としなかった。
なにが善くて、なにが悪なのか。
それが知りたいだけなのだ。
精霊・ビビアンを紹介した魔女は、ユノは既にその答えを知っていると言っていたが。彼には頓と見当がつかない。だから――。
「残念ですけど。ここまで来て引きかえすなんてことはできません」
「意地で戦いなんてするものではないよ」
「……ハインツ」
ぽそッと優男のほうが、大男に耳打ちした。
「それはうちの大将も同じだよ」
「むう……」
ハインツと呼ばれた大男が、野牛めいた面相を渋くする。
どうやら向こうもたいした理由はないらしい。
――生まれた一瞬の隙。
ユノは地を蹴った。
先制の一手。
よそ見をしている優男に、逆袈裟の一撃を放つ。




