33:助ける気
〇前回のあらすじです。
『泉の水をフレデリックにアドニスが飲ますが、くちが焼けただけだった』
「加勢します。アドニスさん!」
叫びながらユノは抜剣した。アドニスとグールの元へ走る。
五歩も進まないところにアドニスたちはいた。
おあつらえ向きに、グールはユノに背を見せている。
魔物は全身鎧をまとっているが――。
今のユノの強さなら、ちからにものを言わせて心臓を一突きにすることが可能だろう。
グールの心臓を。
「来るんじゃないっ。ユノ!」
怪物の向こうからアドニスが吠えた。
びくりとユノは足を止める。
壮年の男の青い目が、ちらりとユノのうしろにいる少女を捉えた。
「よくわからんが……。おまえも冒険者なら、この村に観光で来たってわけじゃないだろう」
この村――ミースは、めったに旅人の来ない集落だ。
精霊や妖精への崇敬厚いこの人里は、外部との宗教的な軋轢から、外界との接触が限りなく無い。
いわんや。教会が異端狩りに熱を入れている昨今においてをや。である。
それでもアドニスたちには、ミースを訪ねる事情があった――そしてアドニスは、ユノもまた魔物化を止める手がかりを求めて来たのかと思ったが――違う。
あの少年は、別の目的があってここに来たのだろう。
長い時間、あっちこっち飛ばされたり旅をしたりで身についた戦士としての勘か。
ぽつねんとユノの傍に立っている少女が、魔の血を引いた娘であると、アドニスには判った。
そういう、特有の哀愁があるのだ。魔族には。
であればこそ。彼女がここにいるのもまた、散歩をしていて迷い込んだ。なんてとぼけた理由ではあるまい。
「いいかユノっ」
剣を構えたまま、進むことも戻ることもできないでいる若者に、アドニスは言った。
「もうこっちは気にすんな。おまえには、おまえの用事があるんじゃないのか」
年季の入った、それだけに年寄りめいた苦笑で、アドニスは彼を先にうながす。
「でも――」
篭手に守られたアドニスの右腕に食いついて離さないグールに、ユノは何度も刃を向けなおす。
「これは元から俺の仕事だからな。……それに。もういい加減ケリつけねえと、やべえしな」
あたりを一瞬だけ、アドニスの双眸が巡る。
広場をかこって戦いを見守る村の男たちの渋面を、ブルーの視線がひと撫でした。
とことこ。パンドラがユノに歩いていく。
彼女は少年のそでを引いた。
「行きましょう。ユノさん」
「でも。でもさあ……」
亜麻色の髪をした少女は、だだをこねる風にわめくユノをぽかんと見あげた。
ほんのすこし彼女は逡巡したが。
それだけだった。
鋭く。
ユノが考えるよりも早く。
パンドラは彼の心中をえぐった。
「『でも』って……。ユノさん。そこまで本気で、あの人たちを助けようなんて思っていないでしょう?」
決して長身とは言えないユノの身体が、針のように震えた。
脳天から足先までを、高圧の電流が貫いたように。
それだけの衝撃が、彼を打ち据えていた。
さっ。とユノはパンドラを見た。
睨みつけた。
そう確信できるだけのスピードが、少女を振り返るユノの動きにはあった。




