表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/71

29:童女



   〇前回ぜんかいのあらすじです。

   『いずみに来たユノが、先客せんきゃくのいるのに気づく』






 じゅう才ほどのおんなだった。

 亜麻あま色のかみすこびて、ユノの知っている印象いんしょうよりかすかに大人おとなっぽくなっている。

 よるしずかな森に、ふたり分の声がしずむ。

 一瞬いっしゅんユノは、彼女かのじょが誰だかわからなかった。くちけて、ぱくぱくと確認する。

「えっと。パンドラだよね」

「はい」

 はっきりと少女しょうじょはうなずいた。その動きには、しっかりとした口調くちょうとは相反あいはんするような、童女どうじょらしさがにじんでいる。

 背中せなかまでのびたに、以前より肉付きのよくなった手足てあし魔鳥まちょうはねは、おそらく形質をおさえるくすり服用ふくようして、なくしているのだろう。

 彼女かのじょ――パンドラとはじめて出会であったのは、今年の晩夏ばんかである。奴隷どれい商人しょうにん馬車ばしゃに、パンドラはほかの捕まった魔族まぞくたちと共に、売りに出されそうになっていた。そこをユノが解放かいほうしたのだ。そのさい行商ぎょうしょうおとこたちは殺した。

 色々(いろいろ)とあって、当時はユノもすさんでいたのだ。

 かと言って、その時のおこないを「人道にそむく」とか、「人としてまちがっている」とは、ユノにはどうしてもおもえない。


 それでも現在、殺人を忌避きひしているのは、【巫女みこ】の少女しょうじょに「もうやらない」とちかってしまったからだった。そしてそれを、反故ほごにしたくはない。

 ともあれ。およそ一カいっかげつである。

 おもい返せばたったそれだけしか経っていないのだが、ユノにはやたらとながいあいだ、彼女かのじょとはっていないような気がした。

 なお。パンドラはいま、【霊樹れいじゅの里】というところで暮している。はずなのだが。

「あっ。そうそう」

 とう色の、ユノの持つ松明たいまつのあかりのなかで、パンドラは両手りょうてわせた。

わたし、ユノさんにお遣いがあるんだった。セレンにたのまれたんだけどね」

 くろまゆをユノはひそめた。

 妖精ようせい女族長おんなぞくちょうであるセレンは、ユノをこの世界メルクリウスにんだ張本人ちょうほんにんである。

 彼女かのじょは影ながらユノを手助てだすけしてくれる一方いっぽうで、手ひどく突きはなすこともおおい。油断ゆだんのならない人物だ。


「そういう表情ひょうじょうになるのもわかるけど……」

 かおをしかめるユノに、パンドラはあか色のひとみを伏せて言う。

「なんていうか。ユノさん。セレンにはセレンの事情じじょうがあるのよ。人間にはつめたいかもだけど。ほかの……おな妖精ようせいや、巫女みこ、それに私にだってよくしてくれてる」

「こっちだってセレンさんの事情はよく知ってるよ。でも。見殺みごろしにされた人たちだっているんだよ」

「そうかもね」

 腰帯こしおびにつけていたかばんにパンドラは手をかけた。おおきなポシェットといった感じのものだ。

「……」

 だが彼女かのじょは、なにかを警戒したようにあたりをまわした。結果。ここでポシェットをけるのはやめにした。

 ゆるく首を振って、いずみのさらにおくをパンドラは手でしめす。

精霊せいれいを探しているんでしょ。ビビアンっていう」

ってたのか……」


 あまりいい気がしなかった。

「ねえ。セレンさんってば、ボクのことどこかでぬすしてるの?」

「しょうがないよ。だってユノさんの行動をみて、セレンはハルモニアさまを人間界に返すかどうか決めるって言ってるんだもの」

 その名前なまえもユノは聞いたことがある。ハルモニア――ペンドラゴン王家おうけ末娘すえむすめ

 ここメルクリウス世界の安定あんていにな二柱ふたはしら――黄金おうごんりゅうと、黒い竜。

 前者がパンドラの言った【ハルモニア】であり、後者がかつて、【魔王まおう】として人間からまれ、ユノが打ちたおした邪竜じゃりゅうである。

 この二柱にちゅう平衡へいこうを保ってはじめて、人間の世界は安寧あんねいをなす。

 しかし数年前すうねんまえに、先代の黄金竜おうごんりゅう崩御ほうぎょしたのを機に、もう片翼かたよくの竜がいきおいをし、それが魔物まものの軍勢をして、人間たちをおびやかすこととなった。

 地球ちきゅうからユノが妖精ようせいまねかれたのは、メルクリウスがみだれたにあった頃である。

 邪竜じゃりゅう討伐とうばつのために彼は異界より呼ばれ、そして確かに、これたした。

 その結果。魔物はいきおいをよわめ、いまがある。

 だがその『現在いま』。人の平穏へいおんとは言いがたい。


 原因げんいんとしては、黄金おうごんりゅうが、妖精ようせいのおさめる霊樹れいじゅの里に隔離かくりされているためであり、この一柱いっちゅうの『調停者ちょうていしゃ』がいないために、人は人のなかに敵を求め、みずから知らず知らずの内に、魔王まおうのいた頃と同等の――あるいはもっと酷い――混乱をきずこうとしている。

 ふと。ユノは思った。

(あれ。りゅうが人の世界にふたりともいないってことは……)

 いまの人間界は、誰も干渉かんしょうする上位者じょういしゃがいないってこと?

 かみ悪魔あくまを人の『上位』と定義するのもおかしなはなしだが。人の趨勢すうせいに彼らの存在がおおきく影響えいきょうする以上いじょう、そう言ってしまってもいいだろう。

 なんにせよ。ユノは一抹いちまつの疑問を感じた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ