表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/71

28:回れ右


   〇前回ぜんかいのあらすじです。

   『いずみ場所ばしょを、ユノがテノンにおしえてもらう』




   〇


 もりは暗かった。

 木々(きぎ)にミースの村民(そんみん)がつけている織物おりものと同系統の(がら)ぬのかれている。が。それもたいまつの火を近づけて、ようやく確認できるほどえづらい。

 ぬまのように濃いやみが、森閑しんかんとしたよるの下によこたわっている。

 慎重(しんちょう)にユノはすすんだ。ひとつひとつ。目印(めじるし)の布と地図ちずのマークを照らしわせる。

 もしも一個(いっこ)でも(みち)しるべを見落みおとせば、まよってしまうだろう。テノンがそうなってしまったように。

 山中さんちゅうの森は、どこを見回みまわしても似たような景色なのだ。夜のとばりに隠れたいまとなっては、なおさら。

 くらがりのあちこちから、ぎゃあぎゃあ。ほおーほおー。わめく野禽(やきん)の声が飛んできて、さらに感覚をくるわせる。

 ほのおらめいた。ユノは目的地と(おぼ)しき場所ばしょに出る。

 ほかより(ひら)けた場所だ。

 が、松明たいまつをかざしてながめたあたりは、今までとおってきたのとおなじような――山毛欅ぶなやコナラがえほうだいの、みどり景観けいかん

 地図をユノは確かめた。

 『カベ』を(あらわ)横線よこせん一本(いっぽん)ある。そこをつらぬくようにして矢印(やじるし)が引かれ、その先に『いずみ』はある。


(もうすこし先ってこと?)

 み出す。

 刹那(せつな)、ぬッと四方八方しほうはっぽうから、されるような圧迫あっぱく感がした。

 過去かこにパペルの塔で【ジェム】によってあらわれた転移の(うず)をくぐったのとおなじ感覚だ。

 魔界まかいから王都おうとペンドラゴンに帰る時に使ったワープのひずみとも同系統の、浮遊感(ふゆうかん)

 感覚かんかく一瞬(いっしゅん)だった。

 えないへだたりをけて、ユノはこう(がわ)へ出る。

 相変あいかわらず森が広がっていた。時刻もよるのまま。

 ただにおいに水気(みずけ)じっている。

 しずかで()んだ、何者なにもの侵犯(しんぱん)も受けないような。(はじ)くような。

 きよらかな気配けはい

 あかい火の先に、黒々とした(ふち)がのぞいた。あなかとまがうそれは、なかにみず(たた)えていた。

 いずみだ。


 ぴたりと止まった黒い水面すいめんを、(ほとり)に立ち尽くしたまんまユノはつめた。いずみは、結構な広さがある。

 ()かりの届かぬこうにまで、水面すいめんはつづいていた。全容ぜんようはつかめない。

 ただみずうみよりは小さいということだけが漠然(ばくぜん)とわかった。

だれもいませんよね?」

 いずみに向かってユノは声をかける。誰かが(みそぎ)をしていたらとおもったのだ。

 かつてユノのいた世界に大衆浴場(たいしゅうよくじょう)があったが、ユノはこれがキライだった。

 全然ぜんぜん知らない人と――知っている人とでも――いっしょにお風呂にはいるなんて、ずかしいじゃないか。

 返事へんじはなかった。

 ぴちょん。

 と水音(みずおと)が返った気がしたが、すぐに鳥の羽音はおとがした。

 野鳥やちょうみずでもんでいたのだろうか。とユノは(いぶか)る。


 まえすすみ、肩にかけていたかばんから小瓶(こびん)を取り出す。

 ろうでアドニスからあずかったものだ。

 このいずみみずびて、アドニスの相棒あいぼう――フレデリックはグール化をはやめてしまった。

 はっきりとした確証かくしょうはないが、変わりてた青年せいねんのすがたとアドニスのはなしを聞くかぎり、つよくうたがうことはできなかった。

 すくなくとも、本人ほんにんたちのまえでは。

 だが。

(わからない。……効果がいだけならまだしも、悪化あっかさせる。なんてことがあるのかな?)

 村長そんちょうたちの話から、アドニスたちは、泉には薬効(やっこう)があると信じていたらしい。

 その『効果』が、わるいように作用さようしてしまった。ということも、あり得ないことではないだろう。

 それでもユノが、あらためて水を()みに来たのは、使いかたがまずかったのではないか。という期待あってのこと――。

 あるいは。精霊の巫女(みこ)妖精ようせいの加護を受けたことのある自分なら、薬効を高められると自惚うぬぼれているのか……。


 こえがした。

「だれかいるの?」

 と。やみおくから。

 少女しょうじょめいた声だ。

いまのは……?)

 みずを入れた瓶にユノは(せん)をした。戸惑とまどいながらも立ちあがる。

 水汲みずくみのあと予定よていしていた水浴みずあびはやめることにした。

 こえに返事する。

「いるよ。――います。そっちの都合がわるいなら、ボク、いったんここから出ます。だから――ゆっくりしててください」

 くるり。

 まわれみぎをして、おんな(とユノは声の高さからそう判断はんだんした)のいるらしいいずみに背をけた。

 それにしても変だなあとおもう。


 よるおとこの人たちがはいる時間帯だって、テノンは言っていたのに。

 ひょっとすると。日中にっちゅう(はい)りそびれたおんなの人が、誰もいない頃合ころあいを見計(みはか)らってこっそり沐浴(もくよく)していたのか。

 そうユノが合点(がてん)して、すこし距離きょりを取ろうとあるきだそうとした。その時。

「その声は……。ユノさん? ちょっとって。あっちいてて」

「うん」

 ――もう向いてるけど。

 胸中きょうちゅうおもいながら、ユノはそのにとどまった。

 いずみから誰かががる、ぱしゃぱしゃというおと

 ちかくの木に掛けていたのか、衣類いるいを引っぱる音。せっせとそれをにつける衣擦(きぬず)れの音。そこにじって飛んでくる、少女しょうじょ言葉ことば

「ほんとはエルドランのまちいたかったんだけど。セレンが駄目だめって言うんだもん。ミースは魔除(まよ)けの(こう)()いてあるから、臭くて近づけないし」

 ぶつくさ言う少女の態度は、ユノに一抹(いちまつ)の感慨をげかけた。

 セレン。

 と彼女かのじょがくちにしたのも気になったが――。

 もうその時には、ユノは相手あいてが誰か。想像がついていた。

 あるいは、そうであったらいいなと期待した。と言うべきか。


「きみは。ひょっとして」

 りか返ろうとして、自制する。

 ……。着替きがえをっている時間がもどかしい。

「もうこっちていいですよ」

 と言われて、ユノはすぐさま確かめた。をかざしていずみに近づく。

 いつのまにやら。

 草の(ふち)をめぐって、少女しょうじょがユノのいる岸辺(きしべ)にやってくるところだった。

 全身ぜんしんえる位置まで来ると、少女は立ち止まる。

 しろ長衣(トーガ)のすそをつまんで、彼女かのじょは格式ばったお辞儀をする。

「お久ぶりです。ユノさん」

 あか(ともしび)のなかに、少女の風貌(ふうぼう)が浮かんだ。

 くせのある亜麻色(あまいろ)かみ。白いはだ華奢(きゃしゃ)身体からだ

 魔族(まぞく)の少女――魔鳥(まちょう)の血を引く彼女かのじょが、そこにいた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ