27:水浴びに行く
〇前回のあらすじです。
『地下牢で、ユノがアドニスたちと再会する』
〇
地下の牢屋から地上に出る。
行きより更に暗くなった感のある帰路を、ユノはひとり歩いていった。
ぽつぽつ点在するトーチの火をたよりに、テノンたちの家にもどる。
小さな家屋に入るなり、ユノは居間で本を読んでいた少年に訊いた。
「泉の場所?」
少年――テノンは目をぱちくりさせた。
「教えてなかったっけ?」
「うん。村の人たちが、泉に水浴びに行くとは聞いたけど」
すぐにテノンは合点した。
「あっ。そうか。旅人は入れるかどうかわかんないから、言ってなかったんだ。……ユノ。精霊とか妖精と契約してる?」
「【気術】が使えるかってこと?」
「そう」
「いちおう使えるよ。妖精の……。セレンさんのちからを借りてる」
「へー。セレンってったら、今の妖精族の総代だよな。そおゆーおえらいさんって、人間に技を教えるって感じないけど」
「そうなんだ……」
この世界メルクリウスにおいて、セレンは重鎮であるらしかった。ユノも、彼女自身から聞いて、『神の次くらいに偉い』ということは知っている。
しかし、『精霊』という存在を知った今、それがどれほどの信憑性を持つのか……。疑わしかった。
なんとなし。ユノにとっては『妖精』よりも、『精霊』のほうが上位の気がしたのだ。勝手な想像だが。
ぼんやりと待つユノの目の先で、テノンが地図を作ってくれた。
平らな木のテーブルに、ザラついた紙を持ってきて、羽ペンとインク壺を使ってサラサラ描く。
森のなかにある、道しるべを要所要所に書きこんで、テノンは完成とした。
四角い紙片に記されたそれを見るかぎりでは、目的の場所は村からさほど離れてはいない。
「オレがついて行くのがいっちゃん良いんだろうけど……。後で兄ちゃんと行きたいからさ。あ、火はちゃんと持ってけよ?」
「うん。地図だけでも充分だよ。ありがとう」
玄関先にある木の棒を取りながら、ユノはテノンに手を振った。油を染みこませた布を巻きつけたそれは、野営で使ったこともある、松明だ。
家を出て、軒先の灯かりから火をもらう。
森への進路を確かめて、ユノは村長宅のある高台を、登らずに左手に折れた。




