25:村長宅にて
〇前回のあらすじです。
『夜になり、ユノがテノンたちの家をあとにする』
〇
石段をのぼる。
村の芝生よりはるかに高い位置にある屋敷にユノは来た。
山林の集落ミース村は、まだ日が落ちてまもないのにもう濃い闇につつまれている。
窓や戸口から漏れるランプのともしびが、家々の存在を知らせていた。
村長宅の入りぐちは、トーチで照らされていた。ノッカーのないドアを手でノックする。
「すみませーん」
ほどなくして返事があった。がちゃりとドアが開く。
「はい。あっ。ひょっとしてバリトさんの言ってた――」
「こんばんは。……えっと。ユノっていいます」
頭にバンダナを巻いたおさげの女性――歳はユノとそう変わらないだろう少女が応対した。彼女は「アリア」と名乗った。
「牢屋にいる人に食事を運びにいこうと思って」
「仕度はできています」
部屋のほうをアリアは振りむいた。暖炉と大テーブルが、ひろい洋間にはあった。そこにちょこんとひとりの老人が座っている。
ちょいちょい。老人はほそい指を動かした。アリアがユノを見る。
「せっかくですので。すこしなかにどうぞ」
うながされるままユノは家に入った。
「こんばんわ」
老人があいさつをする。ユノも同様に返した。
「村長のエッダじゃ」
椅子に腰かけたまま、老人――エッダは、白い眉の下で目をほそくして(もともと糸みたいにほそいが)自己紹介した。
会釈をして、ユノも名乗る。
のっそり。エッダはアリアに言った。
「最近は旅のものもめずらしくなくなったな」
「そうですね」
よろこぶでもなく。逆に憂うでもなく。
かるく笑ってやりとりするふたりにユノは訊いた。ミースは、あまり外部から人が来るところではないと思っていた。
「よくくるんですか。旅人」
「あんたがここをおとずれる一週間ほどまえにも来たよ」
――一週間。
ここから西の、街道ぞいにある町エルドランから、ミース村までは早ければ三日でつくことができる。
(道にまよったりしたからなあ……)
かなりの時間が掛かっていたことをユノは痛感した。
単独での戦闘や、街道の切れたあたりからの右往左往が、遠ま(とお)わりの要因だろう。
(まぬけだよなぁ。テノンたちと会わなかったら……もっと遅れてたかもしれないな)
最悪たどりつけなかったかも。
考えてユノはぞお~っとした。
木のテーブルの奥からエッダが言う。
「あんたもグール化を止める方法をさがして来たのか?」
一瞬ユノは、なにを訊かれたかわからなかった。
――グール化を止める?
「そんなのがあるんですか?」
「ないよ」
(なんだ……)
がくー。っと肩をおとす。
エッダ老は人をからかうのが好きなのだろうか。
「お食事をお持ちしました」
ふたりぶんの食料を、アリアがひとつの大きなトレイにのせて運んでくる。
白パンと水。やさいスープの質素なメニューである。
(囚人。ふたりなんだ……)
牢にいるのはひとりだと早合点していた。
ゆっくりと。ユノはアリアからトレイを受けとる。
「落とさないでくださいね」
「だいじょうぶですよ」
玄関の扉をアリアが押してあける。
ふたたびユノは、暗い外へと出ていった。
背後からエッダのしわがれた声がする。
「あんたも中てられんようにな」
はてな。
とユノは肩ごしに老人を見た。なんのことを言われたのか、分からなかった。
太い眉の下で、エッダは微笑んで言う。
「魔にあてられんようにな。と言ったんじゃよ」




