23:種
〇前回のあらすじです。
『お昼ごはんを、ユノがテノンと食べる』
〇
昼食を終えて、テノンは自分たちの寝室に走っていった。
手招きされて、ユノも食器を片付けてからつづいていく。
ごそごそ。テノンは棚を探っていた。木でつくった短剣の模型や、いくらかの石ころが飾ってある木棚だ。
「これがそうだよ」
足場の台からおりて、テノンは言った。
少年の突きだした手をみる。
「たね?」
ちいさな袋からテノンが出したのは、花の種らしき粒だった。
「うん」
「植えないの?」
「植わらないんだ」
窓の外をテノンは見た。
その先にある緑地に試してみたのかもしれない。
「はねかえってくるっていうか……。種そのものがイヤがってるみたいに」
「そうなんだ」
じっとユノは種を見つめた。
『土壌が合わない』というのは、園芸などでも聞いたことがあるが、それは『枯れる』とか『育ちがわるい』という意味であって、種子そのものが土から弾かれるということはない。
「精霊さまは、どうしてこれを君に?」
以前にユノも精霊と縁のつよい少女――【巫女】から指輪を賜ったことがある。精霊のちからを宿したそれは、窮地でユノに神聖なる剣【エクスカリバー】をもたらし、魔王【ディアボロス】の首を刈りとった。
なら。テノンに種を与えたのもまた、この世界においてなにか意味があるのかと思ったが。
「わかんない。でも『いつか願いを叶えてくれる』からって」
「ねがいを?」
「うん」
「だれの」
「そりゃあ。植えたひとのだろ」
「ふうん……」
いつのまにか曲げていた腰をユノはのばす。テノンも種を袋になおす。
「って言ってもオレ、べつに願いごとなんてないんだよね」
「そうなの?」
こくりとテノンはうなずいた。
「親は早くに死んじゃったけど、兄ちゃんいるし。のんきに飯食って家のことやって、あそんでのんびり生きてるからな。それ以上って、実はなんにもいらないんだよ」
「いいね」
そんな暮らしをユノもしたかった。
旅が終わったら、どこかでまったり過ごすのもよさそうだ。
「ねえ。」ユノは?」
「ん?」
「なんかある? 願いごと」
「どうだろう」
しょんぼりとユノは黒い目を伏せた。
本当にどんな願いでも叶うなら、今すぐにでもこの世界に安息をもたらしてほしい。
なにが善だの悪だのなんてもううっちゃって、自分の思うように、なんの重責を負うこともなく、気ままに生きてきたい。
――一年まえに死んだ、魔族の少女を生きかえらせる。というのも考えたけれど、果たして彼女自身がそれを望んでいるのか。
不思議とユノは、彼女を眠りにつかせたままにしておきたかった。
(それに。精霊の渡したものってのが引っかかるんだよな)
【精霊】や【妖精】は、この世界の自然力――風火水土などを司るものだと、まえに教えてもらったことがある。
厳密な区別についてはユノはまだ曖昧だが、例えはっきりしたちがいがわかったとしても、人間に対する認識は、精霊もまた妖精セレンと似たようなものの気がしてならなかった。
(なにか裏があるような……)
「うーん」
気がつくと、目のまえでテノンがうなっていた。彼はユノの横顔を見てなやんでいた。
「いいや。ユノ、これあげるよ」
ちいさい袋と紐でお守りみたいになった種をわたす。
「えっ」
と仰天するユノにテノンは言った。
「冒険者なんだろ。じゃあ、やばいモンスターと戦うこともあるわけじゃん。『まずい』ってなった時に使えば、きっと助かるよ」
「でも。そんな大事なもの……」
「役に立つと思うけどな」
無理やりテノンはユノにちいさな巾着袋を握らせた。
「ぶっちゃけオレんとこにあっても、いつか知らないあいだに捨てちゃいそうでさ」
「きみの獲物を逃がしたうえに、こんな貴重なものまでもらったんじゃ、ボク全然筋が通らないよ」
「なあんだ。ちゃんと『悪い』って思ってくれてんだ」
「あたりまえじゃないか」
ちちちとテノンは指をふる。
「甘いぜユノ。だってバリト兄ちゃんはさあ、『わるかったー』とかくちでは謝るけど、内心ではオレのせいにばっかしてるからな。つい疑っちゃうんだよ」
「じゃあ。お兄さんの性格なおしてもらえばいいのに」
そうかっ。とユノの提案にテノンは手を打った。
が。すぐに肩をすくめる。
「でもなんか。それはそれで気持ち悪いな」
とことことテノンはノを横切って歩いていった。寝室を出ていく。
「さ。飯のつぎは薪割りだ。ユノ、やったことある?」
「ない……」
「しょおがないなあー」
言葉とはうらはらに、テノンはキゲンよく胸を張った。
「じゃあオレが教えてやるよ。ついてきて」
意気揚々(いきようよう)と、テノンは居間から外にいく。大きく振られた手にさそわれて、ユノも家から出た。




